食後にちょっと、神殿攻略!
「神殿に攻略だと!?」
ガルドさんがギョッとした様子で、食べかけのアイスを膝に落としかけた。
「前は火力不足って言ってなかったか?」
「言いましたけど……ほしいんですもん、星精霊たちの金槌」
セレスティア産の素材が手に入ったのなら、次はその工具もほしくなるのは自然なことだ。
ゲームであれほど語られていた星精霊たちの金槌、どれほどのものなのか、一人の魔道具師としてやっぱり気になるのだ。
「ん、分かった。エリシアが突拍子もないことを言い出すのは今に始まったことじゃない」
「たしかにな。エリシア嬢についていくなら、これぐらいは覚悟しとくべきだったか」
「ちょっと、私をなんだと思ってるんですか?」
私が唇を尖らせると、ガルドさんは笑いながら大盾を引き寄せた。
「で、どうやって入るんだ? またリーナの雷で痺れさせるのか?」
「いえ。さすがに、あんなに何度でも引っかかってくれるのは、あのポンコツ竜ぐらいです」
神殿の入口にいるのは、剣を持った不死の番人だ。
あいにく口の中に弱点があったりはしない。
……というか、そもそも口がない。
「実はですね! あの番人に道を譲ってもらうのに、ぴったりの子がいるんですよ」
私は、そう宣言しながらコハクを抱き上げた。
みんなの視線を一身に浴び、コハクがきょとんと首を傾げる。
「きゅる?」
「そう、あなたです!」
私はコハクを抱いたまま、ハクヨウ様を振り返った。
「私が初めてハクヨウ様の森に入ったときも、コハクに案内してもらったでしょう?」
『うむ。我が子が招いた客であるからな』
「あの神殿も、神獣の子が来たら番人が奥までお通しする習わしがあるそうなんです。それなら私たちも、この子のお供として入れてもらえないかなって」
このセレスティアという古代文明の跡地、やたらと神獣絡みの伏線が配置してあるのだ。
なんでも、"とっておき"の追加シナリオがあるって、随分とシナリオライターさんが張り切っていたけれど──結局、その真相を知る前に私が死んでしまったわけで。
(ぐぬぬ。まさか転生するなら、先に聞いておけば良かったわね)
そんなことを考えながら、私はコハクの頭を撫でる。
なんにせよゲームのボスギミックとして、コハクを連れて行くだけで簡単に通過できるところは、たしかに実装したはずだ。
「ただ、最初から素通りとはいきません。コハクに気づいてもらうまで、番人の攻撃をしのぐ必要があります。そこは皆さんの力を借りられればと」
私が返事を待っていると、ガルドさんが訝しげに目を細めた。
「エリシア嬢、君は本当に何者なんだ?」
「ええっと……今日のところは、コハクの付き添いということで!」
私は曖昧に笑って誤魔化すのだった。
幸いパーティーの面々も深く掘り下げるつもりはないらしく、私たちは神殿を目指して歩き出した。
***
そこから進む道中は、魔境のひと言だった。
道を進めば、なんか馬鹿でかい一つ目巨人が棍棒を引きずりながら歩いている。
おまけに、のそりのそりと、巨大な岩でできたゴーレムが神殿の周囲を油断なく見回っているようだ。
(まるでボスラッシュね!)
まあ、まともに相手するつもりはないけれど。
「あ、あれは──グレートギガンテス!?」
「こっちから行けば大丈夫です。あの子、そこの角で引き返すので」
「ひえぇ……、冗談きついぜ」
私たちは、おっかなびっくりとセレスティアの道なき道を進む。
何度かモンスターとすれ違いながらも、死角をくぐり抜け、どうにか私たちは神殿の入口にたどり着いた。
***
セレスティアの神殿は、苔の生えた石造りの巨大な建物であった。
入口の両脇には太い石柱が立ち、翼を広げた鳥が向かい合うように置かれている。
どことなく神々しさを感じさせるが、その実、ただの雰囲気作りとノリで置かれただけだというのを私は知っている。
私は神殿の扉を見上げた。
中に入る前に、小さな帰還石をパーティーの面々に一つずつ手渡しておく。
「握って割れば、滝に置いたソファのところまで戻れます。無理だと思ったら、私のことは気にせず、すぐに使ってくださいね」
攻略法はバッチリ頭に入っている。
それでも相手は格上で、未知のことも多い──万が一の備えは必要だ。
「それで、エリシア嬢。番人が攻撃をやめるまで、俺が引き受けりゃいいんだな?」
「はい。もし盾で受けきれそうもなかったら、そのときは安全第一で私のことは忘れて撤退を──」
「あまり白銀の牙を舐めないでもらおうか。黒鎧竜のとき、俺の前に飛び込んできたのはあんただぞ。その命の恩人を置いて、俺たちだけ帰れるかよ」
ガルドさんは大真面目な顔でそう言うと、私と扉のあいだに立った。
「ん、その通り。だいたい冒険者として、この景色が見れるだけで死んでも悔いはない」
「まあ、死ななければ私が治せるしね~」
リーナさんが真顔で物騒なことを言い、回復役のミレーユさんはあっけらかんと笑った。
「皆さん……」
(なんか、金槌がほしいだけで巻き込んでごめんなさい!!)
……よし。
あの金槌で作るものは、皆さんに最初に使ってもらおう。
「ありがとうございます。この恩は新作の魔道具で必ず……!」
私はそう言いながら、入口の扉に手を伸ばす。
──扉の奥は、ひんやりと冷たかった。
目に入ってきたのは、石を敷き詰めた円形の広場だ。
正面には神殿の奥に続く通路が口を開けていて、その前には大剣を携えた影がひとつ。
ぼろぼろの血の色の外套が、ふわりと広がってなびいている。
そこから上には、何もなかった。首無しマントの魔物──デュラハンの一種であり、実際に目にすると、想像以上の不気味さがあった。
「……あのマント野郎を倒せば進めるんだな?」
「倒す必要はありません。とにかく時間稼ぎに徹してください」
ガルドさんのつぶやきに、私はそう返す。
「近づかずに、とにかく距離を保ちます」
間合いに入れば、あの大剣が飛んでくる。
かといって遠くにいれば、一歩も動かず大魔法をぶっ放してくる。
剣士だと思って後ろに下がった魔法職を、何人焼いてきたことか。
見た目に反して、実に陰湿な魔法戦士なのだ。
でも、今日はむしろ魔法を撃ってほしい。
こちらには、リーナさんのサイクロンさえ丸呑みにした大盾がある。
連射の効かない大魔法は、むしろ、こちらの望むものだ。
(さてと、マントさん。神獣の子どもはこっちよ!)
私は、腕の中のコハクがよく見えるように抱き直した。
それを知ってか知らずか。
「──来ますっ!」
「おうよ!」
モンスターのマントがなびき、足元の魔法陣が輝いた。
次の瞬間、立ちのぼった巨大な火の玉が、こちらに向かって突っ込んできた。
最新話までお読みいただき、ありがとうございます!
・面白かった!
・続きが気になる!
などと思ってくださった方は、☆☆☆☆☆を★★★★★に染めて応援いただけると嬉しいです。
読者さまからの反応が何よりのモチベーションです、よろしくお願いします!




