盾役だって、魔法を撃ちたい
セレスティアから戻った翌朝。
私は、工房の作業台に昨日の収穫を並べていた。
滝のそばでのおやつも、空を飛んでの帰り道も楽しかった。
けれど持ち帰った素材をこうして眺めるのも、負けないくらい楽しい。
──隣では、リーナさんがマナ結晶を光に透かして眺めている。
ガルドさんも、作業台の向かい側から、ずらりと並んだ素材を見ていた。
(さてと、どれから使おうかしら……!)
大きなマナ結晶を手に取り、指先から魔力を流してみる。
水色の光が結晶の奥まで広がり、私の顔まで青く照らした。
(おおおお……!)
これなら、かなり大掛かりな魔法も扱えそうだ。
「……エリシア嬢。ちょっと、相談してえことがあるんだが」
顔を上げると、ガルドさんが背負ってきた大盾を下ろすところだった。
作業台の脇に立てかけ、こちらを見る。
「昨日採ったアダマンタイトで、こいつをもっと頑丈にできねえか? あんたに頼めるなら、手間賃も言い値で払う」
ガルドさんは、盾の縁に目を落とした。
(言い値でって。随分と期待してくれているのね)
「あの黒鎧竜には、盾ごと潰されたからな。あんたが来てくれなきゃ、俺たちは全滅してた」
普段の冗談を言っているときとは違う低い声だった。
「……次にあんなのが出てきたら、止めれるようになりてえんだ。後ろにいる連中を、守れるようにな」
あのとき、ガルドさんはひしゃげた盾を構えて、竜の前に立っていた。
自分も無事では済まなかったはずなのに、仲間を置いて逃げようとはしなかったのだ。
(私、ちょっとゲームの世界だからって甘く考えてたのかも。大切な仲間を守るために──やっぱり必要なのは強力な魔道具ですよね……!)
私は大盾と、作業台に並ぶ素材を見比べた。
アダマンタイトで補強すれば、爪や牙にはずいぶん強くなる。
それだけでなく、どうせやるのなら──。
「ガルドさん。どうせなら魔法を跳ね返す盾とか興味ありませんか?」
「…………なんて?」
リーナさんが、眺めていた結晶を置いてこちらに顔を向けた。
「ぬ……。ガルド、ずるい。いつも私が一番だったのに」
「すみません。でもこれは、盾役の人にこそ合うと思ったんです」
私はマナ結晶を手にしたまま、大盾に近づいた。
「せっかくですし、受けた魔法は自動で撃ち返すようにしましょう! ガルドさんは盾を構えているだけで、向こうが勝手に自分の魔法を食らうんです。それなら竜が十頭来たって──」
「そりゃ助かるが……ソファみてえに、勝手に撃ち返すのは勘弁してくれ」
「駄目ですか?」
「ああ。こっちが受けてる間に、仲間が敵の横に回り込むこともある。そこにぶっ放されたら、たまったもんじゃねえ」
それもそうか。
あくまで盾役は、パーティーのためにあるのだから。
「なら、撃つタイミングはガルドさんが決められるようにするべきですね。狙う方向も、調整できるようにしておいて、それから──」
「……待て。それは受けた魔法を、そのまま取っておけるってことか?」
「そういうことですね!」
──というか、これ。
あの盾を、弱体化される前の性能に戻せばいいのでは?
私が思い出したのは、リノクロ黎明期に実装されたとある"ぶっ壊れ装備"だった。
受け止めた魔法を好きに保存して、好きな威力で撃ち返せる装備だった。
PVPで猛威を振るいすぎて、魔法職のプレイヤーからは苦情が殺到。
結局、魔法を保存するためには高ステータスに加えてジャストガード必須のプレイングを要求することで、一部の人だけが使うネタ装備にまで強さを落としたっけ。
……ちなみに、その修正を担当したのは私である。
(あのときはゲームバランスのために弱くしたけど……。今は、そんなこと気にしないでもいいよね!)
「……エリシア嬢。まさかドラゴンブレスも跳ね返せるのか?」
「はい! 跳ね返せるとびきりの一品、作っちゃいましょう!」
私はそう元気よく請け合うと、さっそく紙とペンを引き寄せた。
「エリシア嬢、頼んだぞ」
「任せてください。張り切って最高の魔法盾にしますね!」
「…………ほどほどにな?」




