レア素材、採り放題!?
私たちは、滝の音が聞こえる方に向かって森を進んでいた。
「みなさん、止まってください」
私は足を止め、後ろに続く皆さんを手で制した。
その直後、木々の向こうで地面が鳴る。
──ズシン。
現れたのは、木の枝が肩に触れるほど大きな一つ目の巨人だった。
岩の棍棒を引きずりながら、私たちの前を横切ろうとしている。
「見つかったらぺっちゃんこです。やり過ごします」
「……あれも、さっきみてえに止められるのか?」
ガルドさんが、大盾を構えながら小声で尋ねた。
「いえ、あっちはちゃんと殴り返してきます。……ですが、やり過ごすだけなら簡単ですよ」
私は声を落とし、近くの茂みを指さした。
一つ目の巨人・サイクロプス。決まった範囲を歩き回るタイプの魔物だ。
行動パターンを実装したのは私だ。よく覚えている。
徘徊型のモンスターは、基本的にはこちらに気づいていなければ通り過ぎるのを待てばいい。
戦わずに通り抜けるだけなら、初期レベルでも対処可能な相手だった。
みんなで息をひそめ、身を隠す。
やがて巨人は、ズシン、ズシンと重い足音を響かせながら通り過ぎていった。
「ふう……」
小さくため息をつく。
安全だと思っていても、怖いものは怖い。
その背中が木々の向こうに消えたところで、私たちは再び歩き出す。
──やがて水音が大きくなり、森が途切れた。
見晴らしのいい岩場に出た。
「うわあ……!」
目の前で、川の水が大陸の縁から流れ落ちていた。
その下に、地面はない。真っ白な滝が、はるか下に広がる雲の中まで続いている。
──浮遊大陸セレスティア、天空の滝。
リノクロの数ある絶景ポイントの中でも、特に人気の場所の一つだ。
岩場に立つと、吹き上がってきたしぶきが頬に当たった。
轟々と響く音も、髪を揺らす風も、画面越しに見ていたときとはまるで違う。
よく晴れているのに、滝のそばはひんやりと涼しい。森を歩いて少し汗ばんでいたから、なおさら気持ちよかった。
(これは──最高ね!)
前世のダンジョンチームに感謝。
コハクとハクヨウ様も、気持ちよさそうに目を細めていた。
「帰りは、ここでおやつにしましょう!」
「賛成。いい景色」
即答したリーナさんを、ガルドさんがまじまじと見た。
「リーナ、順応が早すぎるだろ……」
「もち。エリシアのやることにいちいち驚いてたら身が持たない」
「今日はもう、採取とおやつだけですよ!」
私が言っている間にも、リーナさんは滝の先をのぞき込んでいた。
ここでのんびりお菓子を食べながら、今日の収穫を眺める。
考えただけでも楽しそうだ。
(そのためにも、まずはレア素材ね!)
滝の脇から下をのぞくと、崖の側面に細い岩棚が続いていた。
人が一人通れるくらいの足場が、斜めに下りながら滝の裏に回り込んでいる。
私はコハクを抱え直し、岩壁に身体を寄せながら、その足場を下り始めた。
足元のすぐ横には地面がなく、はるか下に白い雲が広がっている。
(こ、こわっ! 足を踏み外したら、大陸から真っ逆さまね……)
それでも進まずにはいられない。
そこにレア素材があるから!
水しぶきを浴びながら進むと、滝の裏側の岩壁に、人が通れるほどの裂け目が見えてきた。
「そんなところに入れるのか?」
「はい。この奥が、お目当ての採取場です」
滝の裏にある隠し通路。
ゲームでは、お約束もお約束である。
せっかくあんなに大きな滝を作ったのに、裏側に何もないなんてもったいない。
──しかも、ここはただの洞窟ではないのだ。
中に入ると、リーナさんが杖の先に明かりを灯した。
光が岩壁を照らした途端、その足が止まる。
「……すごい。これ、全部魔法石?」
「絶景ですねえ。すごい魔力反応──採り放題です!」
水色に、赤に、淡い緑。
色とりどりの結晶が壁のあちこちから突き出し、光を放っている。
「わあ、これ……アダマンタイト? こんな大きいの、初めて見た」
「ふふふ。こっちには、高純度のマナ結晶もありますよ」
私はにんまりと笑った。
どちらも、最高ランクの魔道具に使うレア素材だ。
ゲームでは強力なボスを倒しても、ひとかけら手に入れば大当たり。それがここでは、拳大ほどのそれがサクサクと採れてしまう。
「……ウッソだろ。これ持ち帰ったら、いったいいくらになるんだ……?」
「こ、これは想像以上ね」
ガルドさんの隣で、回復役の女性もぽかんと口を開けていた。
(ふふふ。驚いていただけたようで何より)
けれど、眺めているだけでは持って帰れない。
私はハクヨウ様の隣にコハクを下ろし、自前のツルハシを取り出した。
工房で働いていた頃は、急ぎの注文で素材が足りなくなると、自分で採りに行くこともあった。
このツルハシも、その頃から使っているものだ。
近くの結晶の根元に取りかかると、ほかの皆さんも次々に道具を取り出す。
すぐに洞窟の中には、ツルハシの音が響き始めた。
「……なあ、エリシア嬢」
隣で岩を削っていたガルドさんが、壁に残る結晶を見渡した。
「これをいっぺんに売りに出したら、国中が大混乱だ。いや、こんな場所があるって知られたら──」
「そんな大袈裟な──でも、そうですね。値崩れは天敵ですね。皆さんも気をつけてください」
「エリシア嬢は?」
ガルドさんが、訝しげな顔をする。
「大丈夫です。私は好き勝手に遊ぶだけなので」
「そっちのほうが怖えよ! お前がこれで遊んだら、それこそ世界がひっくり返るだろうが!」
「……私をなんだと思ってるんですか!?」
リーナさんが、採れたばかりの魔法石を袋に入れながら口を挟んだ。
「竜葬の魔匠?」
「だから、その呼び名はやめてくださいってば!」
竜の代わりに何か倒せば、まだ二つ名は上書きできるだろうか。
たとえばスライム殺しの駆け出し技師とか……うん、まだマシかもしれない。
──本気で嫌がる私を見て、リーナさんはおかしそうに笑っていた。
他人事だからって……!
(もう。私は好きなものを作って、ゲーム世界で楽しく生きていきたいだけなのに!)
私はツルハシを握り直し、結晶に向き直った。
すでに、持ってきた鞄の中には大きな魔法石がいくつも収まっている。
新しく採れた一つを明かりに透かすと、中まで澄んだ水色をしていた。とても綺麗だ。
(ふふふ。これが、私のものに……!)
布で包んで、鞄にしまう。
工房に帰ったら、さっそく試してみよう。




