その伝説、ゲームではただの採取スポットです!
「セレスティアって──あの伝説の?」
ガルドさんが、目を丸くした。
周りの冒険者たちまで、こちらを振り返っている。
「え、ええ。空に浮かんでいる大陸のことですけど……」
「知ってるも何も、竜種が飛び交う空の上だぞ。何度も探検隊が向かってるが、誰もまともに調べられちゃいねえ」
竜種。
探検隊。
なんだか、予想していた返事とずいぶん違う。
「俺は、上陸できたって話さえ聞いたことねえぞ。近づいたところで、竜に追い返されるってな」
さっきまでワイバーンの話をしていた男も、口を挟んだ。
「帰ってこねえやつもいる。空を飛べりゃ行けるって場所じゃねえんだよ」
(ええっと……セレスティアって、今はそんなことに!?)
ゲームでは、終盤に訪れるエリアの一つだった。
オリハルコンをはじめ、珍しい鉱石や薬草が手に入るので、生産好きのプレイヤーには大人気。採掘場所に先客がいて、空くのを待つことだってあったくらいだ。
もちろん、強い魔物もいる。
けれど、まさか大陸に入ることすら難しい扱いになっているとは。
(う~ん。素材の採れる場所なら、いくつか覚えてるけど──)
私が考え込んでいると、受付嬢がカウンターから身を乗り出した。
「エリシアさん。まさか、採取に行こうなんて考えていませんよね?」
「ええっと……」
何とも答えにくい。
私はそっと目をそらすのだった。
***
その後、私たちはガルドさんたちのパーティーと一緒に工房に戻ってきた。
「……で。お前は、そんな場所にも行く気なんだな?」
工房に戻ってからも、ガルドさんは難しい顔をしていた。
作業台を囲んでいる仲間たちも、私の返事を待っている。
「ええ。オリハルコンはもっと欲しいですし、ほかにも欲しい素材があります」
昨日は、リーナさんからもらった分を使わせてもらった。
あんなふうに好きな魔法陣を詰め込める材料が、工房に山ほどあったら。
途中で足りなくなる心配もせず、思いついたものを、好きなだけ試せるのに。
「それに……見てみたい景色もありまして」
「景色だと?」
「空に浮いた大陸から、滝が落ちているんですよ。雲の下まで、ずっと! ──あれを近くで見てみたいんです」
画面の向こうでも、あんなに綺麗だったのだ。
実際にそこを飛んだら、きっとすごい。
……話しているうちに、ますます行きたくなってきた。
滝を眺めながらおやつを食べて、それから素材を袋いっぱいに採って帰る。
うん、最高の異世界ライフでは?
「私も行く」
隣にいたリーナさんが、すかさず手を上げた。
ガルドさんが、そちらを振り向く。
「いやいやいやいや、お前は止める側に回れ」
「大丈夫。私たちには竜葬の魔匠が付いてる」
「……お前なあ」
呆れるガルドさん。
「リーナさん、その呼び名はちょっと……」
「どうして? もう二つ名がつくなんて、すごいことだよ」
「もっと可愛いのがいいんです!」
リーナさんは作業台に両手をつき、私に顔を近づけてくる。
「ほかには、何が採れるの?」
「ミスリルもありますし、魔法石も珍しいものが色々と。持って帰るなら大きい鞄が欲しいですね」
「なるほど。美味しいスポットだね」
リーナさんが、こくりとうなずく。
まだ出発する日も決めていないのに、リーナさんの中では、もう一緒に行くことになっているらしかった。
「──おいおい。そんな話を聞かせておいて、俺たちには留守番しろってのか?」
今度は、ガルドさんの隣にいた男が身を乗り出した。
「オリハルコンだぞ? ひとかけらでも持って帰れりゃ、どれだけの金になると思ってる」
「お前まで乗っかるな!」
「行けるってんなら、俺だって行きてえよ。なあ?」
声をかけられたほかの仲間たちも、顔を見合わせた。
そのうち、回復役の女性が口を開く。
「私も行くわよ。帰ってきてから、そんなに面白そうな話を聞かされるだけなんて嫌だもの」
「ほらな」
男が、にやりと笑う。
ガルドさんは皆の顔を順に見てから、困ったように頭をかいた。
「そういうことならヤケクソだ! エリシア嬢、俺たちもセレスティアの攻略に一枚噛ませてもらう……!」
「いや、攻略はしませんけど……」
ちょっと観光して、素材を拾って帰ってくるだけだ。
「そうなのか?」
「はい。真面目に攻略するには、ちょっと火力不足だと思います」
「エリシア嬢で火力不足って──いったいセレスティアには、どんなバケモンがうろついてるんだ」
というか何者なんだ? とガルドさんが私をまじまじと見てくる。
私は、ただの一般魔道具師ですよ! と微笑み返しておいた。
深掘りされても、前世のことは話せないしね……!
「分かりました。それじゃあ決行は3日後に。それまでに皆さんが乗れるように、ソファを改造しておきますね!」
……七人乗りかあ。
私は、張り切って準備を進めるのだった。
***
そして出発の朝。
「……おい! 本当に浮いてるぞ!?」
「ちょっと、押さないで。私にも見せて」
改造して大きくなったソファの上で、ガルドさんたちが眼下をのぞき込んでいた。
台座には、二人掛けの座席を四つ。
向かい合わせに置いて、真ん中にはテーブルも残してある。
街の屋根が、みるみる小さくなっていく。
朝日に光る川も、その向こうに広がる森も、ここからなら一望できた。
「ははっ。すげえな、こりゃ!」
仲間の一人が、子どものような声を上げる。
その隣では、回復役の女性が座面をつかんでいた。
「……ねえ。もう、十分高いんじゃない?」
「まだまだですよ。これから雲より上に行きますから」
「そうよね。そうだったわね……」
彼女の手に、ぎゅっと力がこもった。
一方、リーナさんはすっかり我が物顔で、持ってきたお菓子の包みを開けている。
「食べる?」
「リーナ、お前なんでそんなに馴染んでるんだ──」
「エリシアの魔道具に間違いなし」
ガルドさんは呆れ顔だった。
けれども、差し出されたお菓子は、しっかりと受け取っている。
私の膝では、コハクも鼻をひくひくさせていた。
ハクヨウ様は早くも、ソファの上で寝る姿勢になっている。
──それから数時間。
街が見えなくなってからも、私たちは森や山を越えて飛び続けた。
「おい。あれは大丈夫なんだろうな?」
ガルドさんが、遠くを指さした。
森の上を、大きな翼のある影が横切っている。
「こちらには来ていませんし、大丈夫だと思いますよ」
「……お前といると、どこまで気を抜いていいのか分からなくなるな」
そう言いながらもガルドさんはしばらく、その影を目で追っていた。
やがてそれも見えなくなると、今度は前方を見上げる。
……見えてきた。
森のはるか上に、巨大な大陸が浮かんでいる。
「……これが、そうなのか?」
「はい、もうすぐです」
私が答えると同時に。
──キェエエエエエッ!
まるで大陸を守護するかのように、鋼鉄でできた巨大な竜が姿を現した。




