竜葬の魔匠なんて、聞いてません!
翌朝、私はリーナさんやガルドさんたちと一緒に、冒険者ギルドを訪れていた。
昨日は、ワイバーンから使えそうな鱗や爪を剥ぎ取り、工房に持ち帰った。
とはいえ五頭分となると、素材も山ほどある。
残りは、ギルドに回収をお願いしようと思ったのだ。
──ちなみにガルドさんたちは、昨夜リーナさんから話を聞いたらしい。
飛行テストのついでにワイバーンの群れを撃退したと聞いたガルドさんは、あんぐりと口を開けていたそうだが、大型の素材回収の手続きは慣れないと面倒だとかいうことで、そのまま付き添ってくれることになった。
そんな訳で冒険者ギルドにて。
「ガルド! ちょうどよかった!」
奥から駆け寄ってきた冒険者が、私たちの前で立ち止まった。
見れば、ずいぶんと人が多い。
カウンターの前にも人が集まり、広げられた地図をのぞき込んでいる。
「お前たちにも声をかけようと思っていたんだ」
「何かあったのか?」
「ワイバーンだ。昨日、街道の近くで五頭の群れが目撃された。騎士団にも応援を頼むが、こちらでも腕の立つやつを集めている」
ギルド内の騒ぎを聞きながら、私はそこはかとない嫌な予感を覚えていた。
(ワイバーンが五体? なんか聞き覚えが──)
そっとリーナさんを確認する。
彼女は、こくりと頷いた。
(やっぱり~!?)
まさか、そんな大騒ぎになっていたなんて!
「あの~、すみません……」
「あ、エリシアさん。採取依頼についてですか? 申し訳ありません。ちょっと今、ギルドは緊急依頼の件で手が回っていなくて──」
「ワイバーンのことですよね?」
忙しそうな受付嬢には申し訳ないけれど……。
「その……問題のワイバーンなら昨日倒したやつだと思います」
「「「……はっ!?」」」
「今日は依頼がありまして。でかくて運べなかったので、残りの素材を回収してもらおうかと……」
ギルド中の冒険者から、ぎょっとしたような目が向けられる。
ちょっと、いや、だいぶ気まずい。
「もう倒した、だと!? 竜種の群れだぞ!?」
「はい……なんか、すみません。五頭とも森の中に落ちています。場所も分かりますよ」
鞄から包みを取り出し、昨日剥ぎ取った鱗を見せた。
青黒く光る大きな鱗だ。
男がそれを受け取る。
指で縁をなぞり、裏返してから私の顔を見た。
「間違いねえ、本物だ」
受付嬢も鱗をのぞき込んだ。
それから、私の後ろにいるガルドさんに視線を向ける。
「……これは、ガルドさんたちが?」
「いや、俺は何もしてない。エリシアとリーナの手柄だ──新しい魔道具を作るって話が、なんだってこんなことに?」
「空飛ぶソファ、楽しかった」
リーナさんは、ツヤツヤとした顔をしていた。
「新しい魔道具?」
「そういえば黒鎧竜を一撃でのした傘の魔道具も、あの子が持ってたやつだよな?」
「その傘を作った竜葬の魔匠の新作だって!?」
ガルドさんのパーティーは、このギルドでも名の知れたAランクパーティーだ。
そのリーダーであるガルドさんの言葉は、ギルドの中でも圧倒的な信頼を集めており、恐ろしいことに私の作った魔道具にまで、お墨付きがついてしまったようだった。
(竜葬の魔匠!? のんびりしたくて、日傘とソファを作っただけなのに……!)
「リーナ、お前たち、どこでその群れと戦ったんだ?」
「森の上。お茶を飲んでたら、囲まれた」
「空で五頭に囲まれたのか!?」
男が、ぎょっとしてリーナさんを見た。
「よく無事だったな……。こっちは騎士団と組んで、どう地上に引きずり下ろすかって話をしてたんだぞ」
「そんなに大がかりになるんですか?」
「なるさ! あんなのが五頭で街に来たら、城壁の上から火を吐かれて終わりだ。ベテランをかき集めて、街に近づく前に仕留めるしかねえ」
……騎士団に、ベテラン冒険者たちまで。
黒鎧竜ほどの強さではなくても、空を飛ぶ竜の群れとなれば大騒ぎになる出来事らしい。
(ゲームでは、一日に何万頭と倒されていたんだけどね……)
素材を求めて、何度も討伐に挑むプレイヤーたち。
その光景を見慣れていたけれど、当たり前だが、この世界にそんな大勢のプレイヤーはいない。
ワイバーンの群れは、それだけで脅威なのだ。
「私も、逃げようって言った。でも、その前にエリシアのソファが全部撃ち落とした」
「……ソファが?」
リーナさんが、こくりとうなずく。
「すごく快適」
「いやいやいやいや、そういう話じゃねえだろ!?」
その叫びに、周りの冒険者たちまでぶんぶんとうなずく。
「ん。エリシアの発明品に突っ込むだけ野暮」
「リーナ、この短期間におまえものすごい毒されてないか?」
「ちょっと、人の発明品をまるで常識外れみたいに……!」
リーナさんに突っ込むガルドさんを見て、私は頬を膨らませた。
「竜の群れに襲われて、快適ってなんだよ!」
「てか、人が操らなくても、勝手に戦うのか?」
「はい、自動迎撃機能付きです。その……寝ている間に襲われても、起きなくて済むように」
「寝るためなの!?」
受付嬢まで、素の声になってしまった。
「……俺たちが命懸けで討伐に行くところを、昼寝しながら片づけられるってことか?」
「そんな馬鹿な」
「お嬢ちゃん! まだパーティー所属が決まってなければ、是非ともうちに!」
「冒険者ってよりは、魔道具師の工房か? どこのお店だ!?」
「む。エリシアのお店は、誰にも縛られない孤高の工房。……でしょ?」
「え? そ、そうですね……?」
そう言いながらも、リーナさんの手は、ぎゅっと私の腕をつかんでいた。
その腕は、「私だけはいつでも注文できるけどね!」と主張しているかのようだった──楽しかったし、素材さえあればいつでも対応しますけどね!
「とにかく回収の手配を頼む。場所はエリシアたちが知ってる」
「は、はい! すぐに!」
ガルドさんの言葉で、受付嬢が慌てて地図を引き寄せた。
***
回収のお願いを済ませても、ギルドの中では、まだ私たちの話が続いていた。
やれ空飛ぶソファだの、竜を尻目にお茶会だの。
尾ひれと背びれがついて、もはや原型を留めない物語になっていきそうな勢いだ。
……ちなみに、今回の討伐にも報酬が出るらしい。
素材の売却代金と合わせて、後日受け取れるそうだ。
(横取りを責められるどころか、まさかお金までもらえるなんて!)
これなら工具も材料も、もっと買い足せる。
工房の棚を何で埋めようかと考えていると、リーナさんが私の顔をのぞき込んだ。
「次は、何を作る? 必要なら素材、また持っていく」
「いやいや! オリハルコンまで使わせてもらったのに、これ以上は……!」
「別に。次も一番に使わせてくれるなら、それでいい」
なんとも太っ腹なことを言ってくれる。
(ぐぬぬぬ……、レア素材の誘惑~!)
どんな魔法陣をもすらすらと書き込めるオリハルコンは、まるで麻薬だった。
次なるレア素材も試してみたい。
(もっと色々と試してみたい……! でも、そのたびにリーナさんにお願いするのは、さすがに……)
──そうだ!
自分で採ってこよう!
工房に山ほど持ち込んで、思いついたものを片っ端から作るのだ。
ちょっと試したいだけの思いつきにも、遠慮なく最高級の素材を使ってしまえる。
自分のための魔道具ならね! なんという贅沢……!
幸い、採れる場所には心当たりがある。
オリハルコンだけでなく、ほかにも珍しい素材が山ほど手に入る場所だ。
(ふふふ。あそこの素材を、好きなだけ持ち帰れたら!)
ついでに、あの景色も見てこよう。
ゲームの画面越しでも、思わず見入ってしまうほど綺麗だったのだから。
「そうだ、リーナさん。浮遊大陸セレスティアって、知ってます?」
──ギルドの喧騒が一瞬で止んだ。




