お昼寝のためなら全力です!
工房を買った翌朝。
リーナさんが持ってきた包みを見て、私は固まっていた。
「……これ、本当に使っていいんですか?」
「うん。約束したから」
作業台の上には、淡い金色の金属の塊が置かれている──オリハルコンだ。
ゲームでは、この欠片を手に入れるために何日もかけてダンジョンを周回する人だっていた。
それが今、私の目の前にある。
指先で触れ、少しだけ魔力を流してみる。
驚くほどに抵抗がない。オリハルコンは穏やかな金色の光を放ち、その輝きをゆっくりと強めていった。
「おおお……!」
魔力が通りやすいなんてものじゃない。
これなら、魔法陣をいくつ繋いでも──。
「エリシア。顔、にやけてる」
「にやけますよ! こんなの、何を作ろうか考えるだけで一日終わっちゃいますって!」
「わしにも、少し触らせておくれ」
おじいさんまで、隣から身を乗り出してきた。
オリハルコンを渡すと、手のひらの上で転がしたり光にかざしたりしている。
「いやあ、久しぶりに見たな。これなら、昨日の図面にも、まだまだ描き足せそうだ」
「ですよね! せっかくなので、できるだけ詰め込んじゃおうかと!」
二人で顔を見合わせると、リーナさんが存在感を主張するかのようにソファをぽんぽんと叩いた。
「私も混ぜて。これでも結構貴重な素材を持ち込んだんだから、見届ける権利がある」
ごもっともだ。
***
部屋の真ん中には、今朝届いたばかりのソファがあった。
とびきりのソファと、最高級の素材。
いざ、魔道具作り開始!
「う~ん。上は雲の上……下は火山を想定しておけば、ひとまずはいいかしら?」
「なんかとんでもないこと言い出した!」
私が呟くと、リーナさんがぎょっとした顔でこちらを見た。
「でも、雲の上から見下ろす浮遊大陸。きっと素敵じゃないですか?」
「それは──たしかに。さすがはエリシア、常人に理解できない発想を持つ天才魔具師」
……褒められてる、のかなあ?
首を傾げながらも、私はソファに向き直る。
──風の膜で、ソファを覆うのはどうだろう。
それだと周りの空気が冷えてしまったら、結局は寒くなるか。
それなら必要になるのは、周囲の空気を適温に調整するための機構で……。
(そういえば、最近、似たような仕組みに悩まされたわね!)
ふと思い出すのは、実家で作っていた保冷箱だ。
途中までは設計していたし、ほんの少しだけ調整すれば完成だったはずだ。
(えーっと、ここの魔法陣を繋ぎ変えて条件分岐を追加! そしてスケーリングの魔法陣ちゃんを組み合わせてやれば……)
私は、ソファに組み込んだオリハルコンに、スラスラっとペンを走らせる
「なんという早業……!」
おじいさんが驚いた声をあげた。
「何この膨大な魔法陣。エリシア、これ全部制御してるの?」
「はい。読み方はシンプルですよ?」
「──理解できない」
おまけにリーナさんからは、呆れたようなジト目をもらってしまう。
……本当に、魔法陣を役割ごとになるべく分けてるだけだから、むしろ慣れたらこっちの方が簡単なんだけどな。
「できた──これで完成っ!」
「わくわく。これ、何ができるの?」
「空を飛びます! あとマグマの中でも快適に過ごせます──さすがはオリハルコン!」
「たったの10分で意味分からない国宝級のソファが誕生した!?」
リーナさんが、目を見開いた。
「いえ、これで終わらせてしまってはオリハルコンに失礼というもの。そうですよね?」
「……えぇ?」
「どうせならソファでゆっくり眠りたい。う~ん、そうだ、モンスターの自動迎撃機能とかも付けちゃおうかしら」
すっかり楽しくなってしまった私は、再び魔法陣まみれのオリハルコンが埋め込まれたソファに向き直る。
マイ・ソファは、私の好奇心に応えるように怪しげな光を放っていた。
***
「今度こそ……完成~!」
今の私にできる最高傑作だ。
これならオリハルコンのポテンシャルを、最大限に発揮していると断言できる。
(もっとも飛ばしてみたら、意図せぬ設計ミスがあったりするかもしれないけど!)
「リーナ……おまえ、とんでもない魔道具師と知り合いになったんだなあ」
「私もそう思う」
一方、リーナさんたちは何やら疲れた様子で、ひそひそと囁きあっていた。
「そうだ! さっそく飛ばしてみようと思うんですが──お二人も乗りますか?」
それでも私が尋ねると、一瞬の躊躇もなく。
「「乗る!!」」
二人は口を揃えて、そう言うのだった。




