つい買っちゃいました、マイ工房!
「どんな素材が欲しいの?」
そう言われて、私は少し考える。
魔力をたくさん流せる金属があれば、一つの魔道具にもっとたくさんの魔法を詰め込める。
(ロマンならオリハルコン! ……なんだけど、さすがに王族の宝剣に使われるような代物だし厳しいよね。それなら──)
「ミスリル、とか?」
「え、そんなのでいいの? それぐらいなら家に置いてある」
「そんなアッサリ!?」
量が必要な上級アイテムで、ゲーム中では割と高値で取引されていたのに。
「もっと遠慮しなくていいのに。たとえば──オリハルコンなんてどう?」
「リーナさん!? 詐欺とか気をつけて下さいね!?」
ほしいものがドンピシャで出てきて飛び上がってしまった。
それと同時に、だいぶ不安になる。
そんなポンポン渡していい素材じゃないと思うのだけど……。
「少し前の依頼の報酬でもらったけど……正直、少し持て余してた」
「気軽に使えるものじゃないですもんね」
「うん。だから──詐欺、上等。エリシアなら、なにか面白いことしてくれそう」
リーナさんが、キラキラした目でこちらを見てきた。
(う……。なんかプレッシャー! たしかに、オリハルコンがあるなら試してみたいことは山程あるけど……!)
「どう? そろそろ工房開きたくなった?」
「ぐぬぬぬ……!」
「ふふん。三食昼寝オリハルコン付き」
「リーナさん、ずるいですよ!?」
脳内の天秤が、どんどんと工房に傾いていく。
リーナさんは、さらに畳み掛けるように口を開く。
「うん。じゃあ、工房も見に行こう。道具ごと売りに出てるところを知ってる」
「行きます!!」
……あっ、また釣られてしまった。
リーナさんに手を引かれ、みんなと一緒にギルドを出た。
ガルドさんたちは、ここで宿に戻るらしい。
「リーナ、夕飯には戻ってこいよ」
「うん。そんなに長くならない」
うなずきながら、リーナさんは私の手を引いた。
「じゃあ、行こう。大きな作業台つきの豪華な工房がエリシアを待ってる」
「大きな作業台!!」
「魔法陣を刻む道具も、一式ある」
「おお~!」
ガルドさんが、私たちを見比べた。
「……二人とも、ほどほどにな」
***
案内されたのは、表通りから一本入ったところにある煉瓦造りの工房だった。
窓の上に、杖と歯車を描いた古い看板が掛かっている。隣に住んでいる持ち主のおじいさんに声をかけると、すぐに鍵を持ってきてくれた。
「久しぶりだね、リーナ。今度は何を壊したんだい?」
「む、失礼な。今日は工房を見たい人を連れてきた」
「エリシアです。こんにちは」
ぺこりと挨拶すると、おじいさんは笑って扉を開けた。
「散らかってるが、好きに見ていきな」
窓から差し込んだ光が、奥の大きな作業台を照らしていた。
壁際には工具が掛かり、台の上には紙やペンが雑然と並べられている。
「うわ……!」
思わず、奥まで歩いていった。
両腕を広げてみても、作業台の端には全然届かない。
これなら大きな図面を広げたまま、その隣で魔法陣を刻めそうだ。
「中にある道具も、全部つけるつもりだよ。持っていても、わしにはもう使えんからね」
壁に掛かった工具も、棚に並んだ型も。
これがあれば、日傘よりずっと大きなものだって作れる。
日傘を壁に立てかけ、コハクを床に下ろした。
肩の上のハクヨウ様も下りると、二匹そろって窓辺の日なたに向かっていく。
ごろ~と寝っ転がっている。気持ちよさそうだ。
(……あんな感じで、空でもごろ~んとくつろぎたいなあ)
お菓子でも食べながら、異世界でぐ~たら生活を満喫したい!
(空飛ぶ椅子? う~ん。どうせなら、もっとゆったり座れるものがいいな……)
「あの、紙を一枚いただいてもいいですか?」
「エリシア?」
「ちょっと試してみたいことが!」
「わお。これは天才発明家……」
じとーっとした目で、リーナさんが私を見てくるが気にしない。
私は作業台の上を、指で大きくなぞった。
これぐらいの幅があれば、二人でも座れるだろうか。
せっかくならコハクたちの場所も欲しい。
「そこの引き出しにあるよ。ペンも使いな」
「ありがとうございます!」
椅子に腰を下ろして、紙を広げる。
まずは、座るところを大きめに。背もたれもつけて──。
「ハッ!」
つい夢中になってしまった。
興味があることにすぐに熱中してしまうのは、前世からの悪い癖だ。
「エリシア、続きは?」
「えーっと、今日は見学に来ただけですし……」
「気にしない。魔道具師たるもの、寝食を忘れてこそ一人前」
「三食昼寝はどこにいったんですか!?」
嫌な格言すぎる……! でも分かる!
リーナさんも工房オーナーのおじいさんも、描きかけの図面に興味津々だった。
──私は、再び魔道具の設計図に向き直る。
許可はもらったからね!
「それ、ソファ?」
「はい。空を飛ぶふかふかソファがほしいなと」
「……わお。これまたマニアック」
「でも面白そうじゃないですか?」
「分かる」
リーナさんも楽しそうだ。
「それ、私も乗る」
「もちろん、そのつもりです」
「横になれるぐらい、大きいのがいい」
「いいですね! そうだ。ならソファにカップを置けるテーブルも備え付けますか。それなら途中でお菓子も食べられますし」
「待て待て。あんまりでかくすると、今度は持ち運びに邪魔になる。そこは取り外し式にして──」
リーナさんと私のやり取りに、オーナーのおじいさんも入ってきた。
それからは三人で、あ~でもないこ~でもないと魔法陣を囲みながら話し合う。
親方たちと工房で難題にうんうんと頭を悩ませていた修羅場のようで、少し楽しい──って違う、修羅場は楽しくない! 社畜生活はもう勘弁!!
……どれぐらいの時間が経っただろう。
壁に掛かった定規に手を伸ばしかけて、ようやく我に返った。
「あ、すみません! ついつい自分の工房みたいに」
「じゃあ、本当に自分の工房にしていくかい?」
「買いましょう!!」
「……まいどあり」
「はっ、しまった! リーナさんまで、してやったりって顔してる~!?」
おじいさんの提示してきた値段は、この規模の工房にしては格安なんてものではなかった。
黒鎧竜の討伐報酬で、あっさりと買えるどころかお釣りが出る。ただし条件として、新しい魔道具を作るときには自分も同席させることなんて真顔で言われてしまって──
「久々にこころがときめいた!」
おじいさんは、とってもいい顔をしていた。




