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無礼令嬢の乱暴な訪問

昼間のオルロフ侯爵とのやり取りを思い出す私にターニャが声をかけてくる。


「どう?なにかヒントになるようなことあった?」

「えっと、そうね……まず、すごい美形だった……」

「そこか!それはこの国の全女子が知ってるでしょ!??」


 ターニャの鋭いツッコミが入る。それはそうなのだが、あの胸に迫る表情を思い起こすと、つい口にせずにはいられない。あの完璧侯爵の迷うような視線。


「一つは……何かに悩まれてるようだった……切実な悩みに見えた……」

「ほうほう。それはやっぱり侯爵家のこととか?」

「家のことも大事に考えているようだったけど、もっと大事なこともあるようだった」

「うーん、なんかふわっとしてない?さっき同じ事言ってるよ?」

「いや、そうなんだけど……」


 まだ言葉にはできないが、彼の表情や態度から、何かあるとだけは感じている。

「それで? ミリミリの占い的にはどうだったの? 肝心のお相手は誰って出たわけ?」

 身を乗り出してきたターニャの追及に、私の心臓が跳ねた。

「……それは……」

 脳裏に、あの占いの結果――占い盤の中央に位置した緑と紫の宝石――を思い浮かべて、また耳が赤くなるのを感じる。ターニャ相手とは言え、自分がお相手と出たとはとても言えない。そもそも、その読み方は間違った見立てだとも思っているし。言葉を濁しながらも言い方を選ぶ。

「……特別、誰という相手は出なかった……」


 うん。言い方としては間違ってない。


「それは侯爵に伴侶が現れないってこと?」


 ターニャが素朴な疑問を差し挟む。


「いや、そういうわけではないけど……」


 その可能性は考えてなかった。ただ、そうだとしたらもっと違う占いの結果だったはずだ。占いの結果はすべて、伴侶がいずれ現れることを示唆している。そこは間違いなさそうだった。なおもぐるぐる考える私の反応を見て、ターニャは腑に落ちない顔をしている。


「ミリミリの占いで、そこまで結果が出ないって珍しくない?なにか手がかりとかないの?」


 当然の疑問だ。私は右手のアメジストを右手に握り込んで、私がたどり着いた「もう一つの見立て」を答える。


「これは……確信のある読みじゃないんだけど……私が、伴侶探しの鍵になるっぽいのよね……」


「へぇ!ミリミリがお相手を探すってこと?じゃあ、あの完璧侯爵また来るのかな?」


「そうかも……」


「それは楽しみが増えたねぇ。売上もすごそうだし」


 現金に目を輝かすターニャを見て、あの占いの結果は「私」だけではなくこの「占いの館」を指していて、ターニャも伴侶探しに含まれるのでは?という可能性に思い当たった。占い盤の中央、世界樹の人界(ミール)は個人より、人の集まりを示唆することも多い。


「そっか……そういう読み方もあるか……」

「何何?どういうこと?」


 ターニャは私のつぶやきに興味深そうに反応する。


「楽しいかどうかはともかく……ターニャにも手伝ってもらうことあるかもしれない……」

「もちろん!私ができることなら何でもやるよ!」


 鼻息荒く胸を張り、小さな拳を己の胸に当てるターニャ。その自信満々な姿が、頼もしく見える。生家が没落してからの日々を一緒に戦い抜いてきた戦友だ。私よりずっと世知に長けていて、実務は有能そのもの。そして誰よりも信頼できる。そう思うと、何時間も突っ伏すほどに重く感じていた気持ちが軽くなってきた。


「で、どうやって探すの?」


 ターニャの丸眼鏡が光る。話が早いのが彼女の良いところだ。


「それなんだけど……」


 と切り出そうとしたところで、ドン、ドン、ドン!と館の表扉を激しく叩く音が響き渡った。


「ターニャ……今日ってまだ予約あったっけ?」

「無い。そもそも業務時間外だし……もう……!」

 ターニャは露骨に不機嫌な声を上げ、苛立ちを露わに足音を荒げて受付への扉を開け、対応に飛び出していった。扉の向こうの受付で、押し問答する声が漏れ聞こえてくる。甲高くて感情的な女性の声、それをいなすターニャ。占いの場を守るため、分厚い扉を使っているので、何を言っているのかは聞き取れないが、たちの悪い飛び込みの客であろうことはわかる。

 やがて扉を乱暴に開けて現れたのは、鮮やかな青いドレスを着た令嬢。

「貴女があの占い師ミリヤ・ミリヤッドね!?」

 有無を言わさぬ乱暴な物言いにうっかり「はい。そうですが……」と答えてしまう。

「ちょっとお客さん! 今日はもう営業時間終了ですって、言ったじゃないですか!」

 肩で息を荒げたターニャが、勝手に室内に足を踏み入れた女性を咎めた。

「そんなの関係ないでしょう? この私が――ブレー伯爵家のタチアナ・ブレーがわざわざ足を運んで来てやったのよ? ありがたく思いなさい?」

「はぁ……それでその伯爵令嬢様がどのような御用でしょう?」

 あくまで冷静に問う。タチアナは畳んだ扇子を突き出し、信じられない無茶を言い放った。

「今日、ここにオルロフ侯爵がいらっしゃったでしょう? 今すぐ私と彼を引き合わせなさい!」

「「はぁ?」」

 あまりにも突然で傲慢な要求に、私とターニャは揃って目を丸くし、呆然と固まってしまった。


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