元令嬢占い師は占わない2
私は被告席から、イヴァンの席に歩み寄り、彼を見下ろして、指さした。
「イヴァン・モロゾフ伯爵。私は占い師ですが……占わなくても、あなたのことは当てて差し上げますよ」
イヴァンは、当初の余裕をなくし、椅子に座ったまま足を神経質に揺らしている。
「イヴァン……ずいぶん必死ですね?モロゾフ家がもうひと月も持たないようですから無理もありませんが」
「?!」
イヴァンの震えが止まり、ひどく顔を歪ませる。聴衆の興味はその表情に集中した。
「私もあなたと付き合いが長いですからよく存じ上げてますが……あなたは本当に贅沢がお好きですよね……どんなときも良いものを使う……そんなあなたが、今は何故、安物の煙草を吸っているのですか?」
イヴァンがハッとして床に転がる金の煙管を見る。
「タチアナ嬢が借金をされていたのも不思議でした。金を使うにも器量がいりましょう……タチアナ嬢は傲慢で放蕩なたちかもしれませんが、そこまで大きな無駄遣いができるお方にも見えない……ですが、あなたがタチアナ嬢を嵌めたのなら筋が通りそうですね……そう、例えば、誰かを使って儲け話をもちかけて金をむしり取り……そして、借金を負ったタチアナ嬢に、支援を持ちかけた……とか……最初からブレー家の財産を狙ってのことでしょう。あの時の我が家のように……」
「あ……あなた!なにを勝手なことを!」
タチアナ嬢が立ち上がって、反論するが、その声には力がない。
「タチアナ嬢、あなたが借金を負った時、誰かからもっともらしい書類を見せられたことはありませんか?言葉ではなく、書類で人を騙すのがこの男の手口なんですよ」
私は静かに指摘する。
「そ……そんな……」
彼女は扇子を取り落とした。扇子は床にあたって軽い音を立てる。心当たりがあるようだ。
「そして、そこにある私の資産。だいぶ抜かれているようですね?見た目のかさは変わらないように見えますが、高額紙幣を中心に抜かれているようです。モロゾフ家の金庫を探したら残りが見つかるかもしれませんね?」
「ぐっ」
イヴァンは喉を鳴らし、反射的に台の上の札束を見る。
「ブレー家乗っ取りという大がかりな計画を企てておきながら、こんな短絡的なことをするなんて馬鹿げた話ですが、答えは単純。すぐに現金が欲しかったというだけのこと。よほどたちの悪いところから金を借りているんじゃありませんか?」
「……っ」
イヴァンが私を無言で睨みつけ、唇をわずかに噛む。
無意識の防御反応。推測は当たっているようだ。
「つまりこういうことです。借金を重ねに重ねたあげく、ついに危険な相手から借り、返済に窮して、私の蓄えに目をつけた。役人を抱き込んで不意打ちで私を拘束し、押収に乗じて高額紙幣を抜き取った。その上で『証明できない嫌疑』を被せて財産を凍結させれば、抜かれた資産の額が公的に記録される。嫌疑がいずれ晴れようと、あなたには関係ない――盗んだ金で危険な借金を清算し、私が身柄を拘束されている間に、よその国へ高跳びするつもりだったから――違いますか?」
一息に真相を言い立て、私はすくむ元婚約者を冷たく見下ろした。
イヴァンはまぶたをピクピクと痙攣させ、口を開けたまま何も言えなかった。
「伯爵家が借金のために書類偽造で泥棒とはひどくお粗末な話ですね?イヴァン・モロゾフ伯爵?!」
「な……何を勝手なことを!お前の言っていることはすべて言いがかりだ!何の証拠もない!裁判官!彼女のオルロフ侯爵脅迫の嫌疑があきらかになるまで彼女の勾留と財産凍結を!」
イヴァンはなりふり構わず裁判官に迫る。
「しかし……それは……」
裁判官は目が泳ぐ。聴衆の誰もが彼女への嫌疑を疑ってはいない。それでも裁判官は逃げ手を探す。
「け……嫌疑不十分なれど、完全に疑いが晴れてはおらず……さ、再度の裁きの場を……」
裁判官が強引に保留にしようと木槌を振り上げたその時、
重厚な法廷の扉が、三度、開かれた。
そこに立っていたのは――漆黒の長髪をなびかせた、背の高い一人の男。
アレクセイ・フォン・オルロフ侯爵その人であった。




