推し活令嬢はひるまない
「レラ・サヴァン様……ありがとうございます……巻き込んでしまってすいません……」
小声でお礼を言う。
「いえ、あなたには良くしてもらいましたから。それにこのままではオルロフ様も悲しまれるでしょう……」
彼女は緊張したまま硬い笑みを私に向けると、私の一歩前に出て、精一杯に声を張る。
「ミリヤ・ミリヤッド様は、人を騙すようなお方ではありません!」
細く真摯な声が法廷中に響き渡った。
「彼女は私が分不相応にもオルロフ侯爵をお慕い申し上げていることを笑わずに、親身に寄り添ってくださいました……そして、実際にオルロフ侯爵と引き合わせてくださったのです!」
「なんですって?」
傍聴席がざわつくより早く、タチアナ嬢が驚きの声をあげる。
「ですから、彼女が甘言を弄したなどというのは言いがかりです。彼女は、私のために大事な機会を設けてくれました!」
「レラ様!!そんなこと一度もおっしゃってませんでしたよね?」
タチアナ嬢が噛みつくように言う。
「当然です!私がそのようなことを言えば、オルロフ様にご迷惑がかかります。それに、周囲の方々から嫉妬されることに、私は耐えられません!」
白いドレスの胸のあたりを掴んで激しく訴える。
「レラ様?この占い師を庇っても良いことはありませんよ?オルロフ侯爵に会ったというのは本当なのでしょうか?この女に話を合わせているだけでは?」
扇子で口元を隠しながら、真偽を正そうとする。
「彼女の占いの館で、オルロフ侯爵とひと時を過ごさせていただいたのは事実です。あれは私の人生最良の時でした。オルロフ様のためにも死ぬまで心に秘めるつもりでしたが……友人を守るためなら、オルロフ様も許してくれるでしょう」
レラ嬢は細い左腕を突き出すと、手首に結ばれた深緑のリボンが踊るように舞う。
「オルロフ様を思う乙女の一念!誰にも否定させません!」
か細い令嬢の凛とした宣言は聴衆をざわめかせた。
タチアナ嬢は顔を歪ませて絶句する。
私もおとなしくて緊張しがちなレラ嬢がそこまで言い切ったことに心底驚く。彼女の勇気を無駄にしないように、畳みかける。
「裁判官。私がオルロフ侯爵にレラ嬢を紹介したのは事実です。ですが、誰彼構わず紹介するわけにはいきません。人には相性というものがございますから。私は占い師として、レラ嬢をオルロフ侯爵にふさわしいと思い、推薦しました。そこに嘘偽りはございません」
小太りの裁判官が告げる
「あぁ……その……被告人によって、オルロフ侯と引き合わせられた方が現におられる以上、彼女が人をたばかったと断ずるのは難しいようですな……」
「いや、そんな!私は会ってませんし、金銭も支払いました!」
なおも食い下がるタチアナ嬢。
「それは……今のところどちらの証拠もありませんし……嫌疑だけでは……さすがに……」
裁判官はへどもどする。
余裕ぶって椅子に座っていたイヴァンがゆっくり拍手をしながら立ち上がる。
「すばらしいね。ミリヤ。さすがは僕がかつて愛した女性だ」
金髪をかき上げて挑発するように、私を見る。
「それにしても不思議だ……どうやって彼女をここに呼んだのかな?助けを求める余裕なんてなかったはずだが……外に協力者がいるのかもしれないね……」
イヴァンは金の煙管を振りかざし、私を指して、言い放った。
「裁判官!イヴァン・モロゾフ伯からミリヤ・ミリヤッド嬢を告発させていただく!」




