インターミッション(アレクセイ視点)
王都から辺境へ向かう馬車の中、窓の外の黄色と青の地平線を眺める。秋に差し掛かった青い空と、風に波打つ小麦の色合いが目に染みるように美しい。彼女の占いの部屋から見た空はいつも美しかったと思いだす。
(あの紫の瞳を見た瞬間に、私は恋に落ちていたのだろうな)
今思えば、なんと情けなく気恥ずかしい悩みだったことか。オルロフ侯爵家の当主が、生涯を共にする伴侶すら自らの力で見つけられず、占いに縋ろうというのだから。
けれど、そんな私の不器用な悩みに、彼女はいつも真剣に向き合ってくれた。 ベスタス公爵家の晩餐会で彼女の給仕姿を見かけた時は、思わず追いかけてしまった。
今にして思えば、あれも私に伴侶を見つけるための彼女なりの奮闘だったのだろう。そんな健気な姿が愛おしくてたまらない。将来の伴侶たる彼女が、伴侶を探すために奮闘していたのだからなんともおかしな話だ。彼女が私のためにしてくれたことを一つ一つ思い返すだけで、背すじに甘い痺れが走るのを感じる。
なんと素晴らしい滞在だったことか。ベスタス公爵家とのつながりは強固になり、行方知れずだった姉オルガと再会し、あれほど願っていた愛する伴侶も見つけることができたのだ。
……ただ、たったひとつだけ、耐えがたい後悔があった。
どうして私は『冬に招待する』などと言ってしまったのだろう。
彼女の気持ちを尊重したかったのは本当だ。ただ、余裕のない男だと思われたくないという情けないプライドもあるにはあった。 だが……もしあの時、なりふり構わず彼女を抱きしめることができたなら、今頃この馬車の隣には、彼女が乗っていたかもしれないのだ。そう思うと、身を掻きむしりたくなるような焦燥を覚える。
ああ……冬までの日々の焦燥を、一体どうやって耐え忍べばいいのだ。
馬車の席の空いた空間を見て、彼女が笑う姿を幻視してしまう。
諸国の歴訪を終え、居城に戻ったら、すぐに招待状を出そう。
いや、戻る前に早馬で出すことにしよう
思いの丈を山程書き綴ろうか。いや、彼女の返事を待つといった以上、あまり重たい言葉を連ねるのも彼女を驚かしかねない。できるだけ簡素な招待状にしよう。ただ、せめて良い紙を使って送ろう。
首筋に手をやって、今はそこにない銀の鎖の感触を思い出す。彼女はあのネックレスを持っていてくれているだろうか。彼女が私を好いてくれるといいのだが――
私は後に、このときの甘い夢想を後悔することになった。
この『冬の招待状』こそが彼女を窮地に追いやる原因になったのだから。




