推し令嬢レラ・サヴァン2
レラ嬢は拒絶の両手を突き出したまま、顔を伏せている。
「わかりました、それでは私なりに一つ占ってもよろしいでしょうか?」
「え、はい、それはいいですけども……」
彼女は突き出した両手を下げて、おずおずと同意した。
以前のカタリナ様を占ったときと同じ技法、相性を見る結縁詠みを試す。手順も同じ。宝石袋の中から緑のアレキサンドライトを選び出して、盤の中央に置く。
レラ嬢のオドオドした視線を受け止めてから、袋の中の冷たい宝石たちを掴んで取り出す。私の手から放たれた小ぶりな宝石たちが、弧を描き盤の上の人界の一帯に広がる。宝石の数は四つ。淡いピンクのモルガナイトが黒神に、やや濃いピンクのローズクォーツが白神に、アイオライトが中央に位置する。冥界に煙水晶。
統一感のある配置。全体から読み取れるのは純粋な愛と敬意。悪意や欲が全く見られず、純粋な想いが満ちている。ただ、煙水晶だけが読みにくい。主に「素朴」を意味するが「孤立」も意味する。恋愛においてはそぐわない石ではある。
(レラ嬢に悪意はなく、オルロフ侯爵への愛と敬意は本物……これがどう出るか……伴侶……というのとは違う気がするけど……)
反らせた人差し指を額につけて占果を分析する。伴侶探しのために残された日にちはそれほど多くない。いままで見てきた中ではカタリナ様に次ぐ占果だと言える。婚姻においては家格、相性もあるだろうが、伴侶探しとなれば好意と敬意があればこそだ。ここまで純粋な愛に満ちた女性なら、オルロフ侯爵に引き合わせる価値はあるのではないか……と悩んでいると、レラ嬢が不安げな様子で聞いてきた。
「あの……何かわかりましたでしょうか?」
「あ、いえ、レラ様が純粋な方だな……と関心しておりました」
「そんな……」
恥じ入るように俯くレラ嬢を見て、誘いをかけることに決めた。
「レラ様、何の落ち度もないにも関わらず、わざわざお詫びにお越しいただいて、ありがとうございます……」
「いえ、そんな……」
「私から一つ、お申し出がございます」
「はい。なんでしょう?」
レラ嬢は首を僅かに傾けて答える。
「近い内にオルロフ侯爵閣下と、この館で会っていただけませんか?」
「…………」
レラ嬢はたっぷり十秒は固まってから、一言だけ発した。
「……はい?」
「いえ、ですから、近い内にオルロフ侯爵閣下と、この館で会っていただけませんか?」
全く同じ言葉を繰り返す。レラ嬢は再び両手を突き出し、掌を勢いよく振りながら、早口で喋りだした。
「いやいやいやいや無理無理無理無理………おおお……オルロフ様とここで直接会うということは、私が同じ部屋にいるということですよね?同じ空気を吸って、オルロフ様の視界に私が入ってしまいますよね?そんな……無理です。私はオルロフ様を遠くから見れればそれでいいだけで、あの美しいお姿……冬の夜を溶かし込んだつややかな黒髪と翠玉のような瞳を間近で拝見しては……私の眼は焼け落ち、魂は弾け飛んでしまいます!!」
余りにも強烈な拒絶ぶりに面食らう。この調子だと正直に「閣下の伴侶探しのため」と伝えたら、この場で卒倒しかねない。
「そんな大げさな……この場でお茶を飲みながら、歓談されるだけのことで……オルロフ侯爵閣下も喜ばれると思いますよ」とにこやかにフォローする。
「いえ、そんな私がオルロフ様と言葉を交わすなんて……私の発した言葉が、オルロフ様の耳元に届いて、オルロフ様の声が、私に聞こえるということですよね?私の声がオルロフ様の鼓膜を震わせるなんて不遜なことで……そもそも閣下のご思考に私がわずかでも入ることがおこがましいことで……わた、わたしは……あのお声を間近で聞いては、耳は焼け落ち、魂は弾け飛んでしまいます!」
レラ嬢は感極まったように両手で顔を覆って下を向いてしまう。
(よく魂が弾け飛ぶ人だな……)
あまりに興奮しているので、少し引いてみる。
「そうですか……ですが、先程の占いでも、今回はまたとない機会と出ていますが……」
「……」
「ですが、レラ様がそこまでお断りされるのでしたら仕方ありませんね……ご縁やお気持ちもございましょう。差し出がましいことを申し上げました。オルロフ侯爵もがっかりされるかもしれませんが……」
「……」
レラ嬢が顔を覆ったまま聞き取れないつぶやきを発する。
「すいません。なんて言われました?」
「すいません……お願いします……直接オルロフ様にお会いできるなら……もう死んでも良いです……」
レラ嬢は顔を真っ赤にして、涙ぐみながらそう言った。
(本当にこの場で死なれたらどうしよう……)
そんな風に思いながら二回目のお見合い作戦が始まった。




