お見合いの結果は
会合を終えたカタリナ様はニルスににこやかに話しかける。
「ニルス。ご苦労。さすが時間通りだな」
「はい。お迎えに上がりました」
ニルスは色よい声でカタリナ様に近づく。さっきまで見られた声の棘は毛筋ほども見られない。二人の醸し出す密な雰囲気に首をかしげていると、カタリナ様はこちらへ歩み寄り、私の両手をがっしりと包み込んで、心からの礼を言った。
「ミリヤ!ありがとう!本当に素晴らしい時間だったよ!君の言う通り、このひと時は両家に、いや、ファベル王国にとっても重要なものになるだろう!」
カタリナ様から、熱のある感謝の言葉を聞いても心が温まらなかった。私の狙い通りのはずだ。カタリナ様とオルロフ侯爵の相性はとても良かったのだ。それを引き合わせたのは私だ。占い師としての名声は揺るぎなくなるだろう。すべては狙い通りなのに、何故か、ざらついた後悔が出てきてしまう。
「そう言っていただけて何よりです」
心の戸惑いに蓋をして、ぎこちない笑顔を浮かべ、軽く礼をする。
「カタリナ様。馬車がお待ちです」
ニルスがカタリナ様に近づいて告げる。
「では行こうか」
カタリナ様がニルスの肩をごく軽く触れると、ニルスは「はい!」と元気よく答えて、カタリナ様の後ろをついていった。子犬が尻尾を振ってるかのような光景だった。二人はドアをくぐり大声で談笑しながら消えていく。
「いかがでしたか、カタリナ様!?」
「今日の会合は実に素晴らしかったぞ……ニルス……まずな……」
二人を見送ってから、私は反対側の扉に手をかける。いつものノブが普段より重く感じる。その重みを破るように、ゆっくりとノブを下げ、扉を開けて、自分の仕事部屋に入る。オルロフ侯爵は奥の椅子に座ったまま、晴れやかな笑顔を私に向けた。
「おお、ミリヤ。ありがとう。素晴らしいひとときだったよ」
「それは何よりです」
大窓から入りこむ朝日に照らされた閣下の笑顔から目を背けるように、顔を伏せる。オルロフ侯爵は興奮覚めやらぬように続ける。
「カタリナ嬢が聡明で素晴らしい人とは知っていたものの、これほど深く有意義な対話ができる機会を得られるとは想像以上だ……ありがとうミリヤ」
オルロフ侯爵からのまっすぐな感謝の言葉が私の心をざわつかせた。かろうじて「……お役に立てたようでなによりです。閣下」と答える。答えた後、喉が渇いたような感じがする。
(大丈夫。作戦は成功したんだから)
自分に何度も言い聞かせる。私の占いどおりにオルロフ侯爵とカタリナ様の相性は良く、二人の婚姻は、国を上げての関心事になるだろう。私の占い師としての評判も高くなるにちがいない。ただ、よほどうまく行ったとしても婚姻はまだ先の話。貴族の婚姻には様々な手続きがいるものだ。婚姻に向けた日取りの見通しくらい聞いても失礼ではないだろう――と思って、閣下に質問をする。あくまで仕事の予定を聞くように平静に。
「次のご予定はお決まりでしょうか」
「そうだな。まず喫緊の課題……国境の警備について、オルロフ家で支援をすることになった」
(ん??)
思っていたのと違うトーンの「警備」という言葉に戸惑いを覚える。
「ここ数年、近隣諸国とはうまくやっているが、最近、野盗を装った偵察が増えているようでな。密かに問題視していたのだが、私以外にも注目している人がいたとは。まったく心強い」
閣下はうっとりと語るが「野盗」という言葉にはロマンがまるで感じられない。
「あの……閣下、カタリナ様とは未来について語り合ったのでは?」
「無論、それも語り合った。王国の産業振興と人材育成について、彼女は実に先進的な考えを持っていた。心底感服したよ」
閣下はなおも語るが、「産業振興」もまたロマンスと程遠い。
「あの……両家のつながりは……」
「もちろんだ。両家の共同関係については、近い内に覚書をかわして、密に進めることで合意した。これ以上無いほど円滑に進みそうだよ。ありがとうミリヤ」
「は、はぁ……占った甲斐がありました。」
甘い雰囲気の欠片もない。見事なまでに、国政と政策論議だけに花を咲かせた会合だったようだ。肩の力が抜け、ざわついていた胸の奥が凪いで行く。
(カタリナ様も「国のためになる」としか言っていなかったもんね……)
「実に素晴らしかった。さすが王都一の占い師ミリヤ・ミリヤッド嬢だ。私の伴侶探しにも期待が持てそうだ。そちらの方もよろしく頼むよ」
「えっ。あっ。はい」
この時の私の笑顔は実に微妙で不思議なものだったに違いない。礼を言えば良いのか、自信を持てば良いのか、ホッとすれば良いのか、残念がれば良いのか、いろいろな感情がまぜこぜで自分でも整理できていなかったからだ。
一つ確かなこととして、私の占いは間違ってなかった――オルロフ侯爵家とベスタス公爵家の「血盟」が「豊穣」と「幸福」をもたらし、「繁栄」の果実を結ぶ――この占いは現実のものとなるだろう。そこに「恋愛」と「婚姻」がないだけで。
私の最初のお見合い作戦はこのようにして失敗した。




