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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第五章 忘れられた勇者

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聖都エークレイア(1)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第五章


ヴァルガンを発って、三日が経った。


道は西へ。

山岳地帯を抜け、緩やかに下る街道を、四人は歩いた。


エルク。

リア・エ・アルヴェイン。

シュウ。

ミレナン。


四人だった。


シュウの傷はほとんど癒えていた。

だが完全ではない。時折、左の肩を軽く回す癖が出た。

エルクはそれに気づいていたが、何も言わなかった。


ミレナンはエルナトでの研究を終え、正式にパーティへ戻った。

古い地図と新しい手帳を腰の鞄に入れ、歩きながら何かを書き続けていた。


戦いのない旅だった。

それがどれほど久しぶりか、誰もはっきりとは口にしなかった。



「それで、ヴァルガンでは何があったんですか」

ミレナンが手帳を開きながら、エルクの横に並んだ。

「戦士召喚は名前で呼ばれるって、本当ですか」

「本当だ。番号じゃない。みんな仲間って感じだった」

シュウが横から答えた。

「特に召喚組のケン、ジェイド、ユウには世話になったな」


「あ、そうだ、バルゼディスとアルテフェインは実は兄弟だったというのは驚いたな」シュウが言った。

「ねぇ、びっくりですよね」ミレナンが笑った。

「バルゼディスは賢者というより戦士だ」リアが言った。

「戦場にもずっといたし、雪山登ったり大変だったな」エルクが言った。


「そのゼルガドとの戦争は」ミレナンが質問した。

「数千人規模だった。村も焼かれた」

エルクが答えた。

声の温度が少し下がった。


「ルシラとの戦いは」

「精神に干渉された。あいつの魔術は厄介だ。あいつはまた来そうだな」

「見た目は美人」シュウが付け加えた。

リアは黙っていた。

「ゴルゴンナックは」ミレナンの質問が止まらない。

「俺が庇われた。シュウの骨が折れた」

エルクが言うと、シュウが頭を掻いた。

「その話、もういいって」


ミレナンはページを進めながら、戦争の経過を一つずつ拾っていった。

ガルゴン王の引退。

レイオンの即位。

ライディスの動向。

封印施設の構造。


そして、北部の門に話が近づくと、誰の口も重くなった。


「思念体、ですよね。魔王が」

「そう」

「言葉は、覚えてますか」

エルクは少し黙った。

「覚えてる。」エルクは言った。「でも——上手く説明できない」

シュウとリアが、揃って小さく頷いた。

「俺も同じだ」

「私もだ。語ろうとすると、輪郭が崩れる」


ミレナンは手帳を見つめたまま、しばらく何も書かなかった。

「残響自体が、まだ整理できてないんだと思います」


道の先で、川が緩やかに流れていた。

風が草原を撫で、長く伸びる草が波のように揺れた。


その静けさが、四人にはどこか奇妙に感じられた。



四日目の夜、焚き火を囲んだ。


しばらく、誰も口を開かなかった。


「——魔王は、何を言ったんですか」

ミレナンが、ようやく聞いた。

「世界は壊れている。やり直せばいい。終わらせて、始める。それだけだ」

エルクが、火を見ながら言った。

「門を閉じても、意味がないとも言った」

リアが続けた。

「今日閉じても、世界の歪みは消えない。どこかで別の門が開く、と」

「私には時間がある、とも」


三人がそれぞれの断片を持ち寄っていった。

言葉は記憶している。

だが、その重さは、まだ誰の中でも処理しきれていなかった。


ミレナンは黙って、それらを頭の中で組み立てていた。

そして、静かに、結論だけを口にした。


「…門が繋がるんですかね」


誰も否定しなかった。


エルナトの門。

北部の門。

複数の門が、世界の歪みという一つの現象として、繋がり始めている。


火がもう一度爆ぜた。

リアが、火を見つめたまま言った。


「もう、次が起きる」


根拠は示さなかった。

だが、誰もそれを疑わなかった。


夜が、いつもより長く感じられた。



旅は、翌日から再開した。


街道を外れ、森を抜ける道に入ると、魔物の気配が増えた。

牙を持つ獣の群れに襲われたのは、五日目の朝だった。


リアの大剣が一頭を斬り、シュウの複製した短剣がもう一頭の足を止めた。エルクが残響で群れの動きを読み、ミレナンの初歩の攻撃魔法が背後から迫る一頭を退けた。


長い戦闘ではなかった。

だが、四人の連携には、確かな積み重ねがあった。


「ヴァルガンの戦争より、よっぽど楽だな」

シュウが、剣を仕舞いながら笑った。


「そう言えるくらいで、ちょうどいい」

エルクが言った。



森を抜けた先に、それが見えた。


巨大な森。

その中心に、空を突くように立つ、一本の白い樹。


「——あれが」


ミレナンが足を止めた。


樹の幹は、城壁ほどの太さがあった。

枝は街全体を覆うように四方へ広がり、葉の隙間から漏れる光が、根元に広がる白い街並みを淡く染めていた。


聖都エークレイア。


「図書館へ行き情報収集しましょう。ここなら貴重な本がたくさんありそう」ミレナンがワクワクしながら言った。


街は、巨樹と共存するように造られていた。

白い石造りの建物が、樹の根に沿って這うように連なり、その間を、蔦に覆われた回廊が繋いでいた。地上から離れた場所には、優美な弧を描く橋が架けられていた。時折、どこからか、静かな鐘の音が響いた。その音は、長く尾を引いて消えていった。


街を行き交う人々の中には、人間の姿もあれば、長い耳を持つエルフの姿もあり、背の低いドワーフの姿もあった。

種族の違う者たちが、特に気に留めることもなく、隣り合って歩いていた。


「なんか……別の世界みたいだな」

シュウが、思わずそう漏らした。


ヴァルガンの熱気とも違う。

レグルスの張り詰めた緊張とも違う。

エルナトの整然とした閉塞感とも違う。


ここには、時間の流れそのものが緩やかであるような、独特の異質さがあった。



聖都の門をくぐった。

空気が変わったのを、エルクは肌で感じた。


戦争の匂いがしない。

血の匂いがしない。


代わりに、もっと古い、時間そのものが積み重なったような匂いがした。


「とりあえず、図書館に行く前に、街を見ていいか」

シュウが言った。

「賛成です」

ミレナンが即答した。


「装備も少し見たい」

リアが言った。


四人は、まずは街を歩くことにした。


大通りを進むと、すぐに鍛冶の音が聞こえてきた。

道の脇に、ドワーフの鍛冶屋が並んでいた。


「おお、剣が傷んでるな」

店主のドワーフが、リアの大剣を一目見て言った。

顎髭の長い、がっしりとした体格の男だった。


「刃が欠けてる。戦争でやったのか」

「ヴァルガンで」リアが言った。

「ヴァルガンか。あそこの連中の打った剣は、頑丈だが荒っぽい。預けな、手入れしてやる。安くしとくよ」


リアが剣を渡すと、ドワーフは満足げに頷いた。

「半日で仕上げる。その間、店でも見て回りな」


シュウが、その隣で別の鍛冶台を覗き込んでいた。

「これ、いい短剣ですね」

「お、見る目あるな、兄さん」

別のドワーフが、にやりと笑った。

「それは火竜の牙を混ぜた鋼だ。軽くて、よく斬れる」

「これ、買います」

「気に入ったか」

「めちゃくちゃ気に入りました」


シュウが財布を出すと、ドワーフが豪快に笑った。

「人間にしちゃ、わかってるな。一杯やるか」

「いいすねぇ。じゃあ、飲みながら待たせてもらいます!」シュウは元気よく答えた。

「この短剣はな、鍛えるときはこうに打つんだ」ドワーフはハンマーを持ち鍛治の仕草をした。

「へー、すごいっ!」

二人はすぐに意気投合し、盛り上がり始めた。


エルクとリアとミレナンは、その様子を見て笑った。

「あいつ、どこに行ってもこうだな」

「友達になるの、早いです」

「リアの剣は預けたから、待つ間に見て回ろう」


三人は、鍛冶屋を後にして、別の通りへ向かった。

通りには食べ物の屋台や、雑貨店など店が並んでいた。

荷物を抱えた人や、ドワーフの家族など賑わっていた。人数は少ないがエルフの姿も見かけた。


エルフの魔法道具屋に入ると、ミレナンの目がすぐに輝いた。

「杖だ……」

棚に並んだ杖の一本を、ミレナンが手に取った。

細く、白い木で作られた杖で、先端に小さな結晶がついていた。

「攻撃魔力を強化する杖です。エルナトのものより、構造が綺麗……」

「気に入ったなら買えよ。これからどうなるかわからない。武器の強化は必要だ。」

エルクが言うと、ミレナンは少し迷ってから頷いた。

「買います。次の戦いで、ちゃんと役に立ちたいので」


エルクは、店の奥の棚に目を留めた。

そこに、一つの双眼鏡が置かれていた。

「これは?」

エルクは双眼鏡を指差した。

「魔導双眼鏡だ」

店主のエルフが答えた。

「遠くを見るだけじゃない。魔力の流れも、可視化して見える」

「誰でも使えるのか」

「いや。扱える者は少ない。素質が必要だ」


エルクは、それを手に取った。

持った瞬間、わずかに馴染むような感覚があった。


「俺が使えるかどうかは——」

「試してみるといい」

エルクは双眼鏡を構え、窓の外、街の景色に向けた。


景色が、はっきりと近づいて見えた。

それだけではなかった。

建物の輪郭の向こうに、淡い光の流れが、確かに見えた。

誰かが使った魔法の残滓か、あるいは、街そのものに流れる魔力の経路か。


「見えてるみたいだな」

店主が、興味深そうに言った。


「お前さん、勇者か」

「ええ、まあ」

「なら、納得だ」

エルクは、それを買うことにした。

理由は説明できなかったが、これは必要なものだという確信があった。


三人が鍛冶屋に戻る頃、リアの大剣は、刃の欠けがすべて直り、新しく研ぎ上げられていた。

リアは大剣を手に取った。

「いい仕事だ」

リアが、剣を一振りして言った。

「だろう」

ドワーフが、得意げに胸を張った。

「また傷んだら持ってこい」


四人は礼を言って店を出た。

日が高くなっていた。


図書館へ向かう道を、四人はゆっくりと歩いた。

<登場人物>

エルク(A-271)

・元ゲーム開発者

・スキル《残響》持ち、門を開く鍵

・冷静だが内面は活発


シュウ(A-244)

・元小学校教師

・スキル《レプリカ》(一時的な複製・武器複製・物資支援)

・ムードメーカー

・ゴルゴンナックの攻撃からエルクを庇い重傷、戦線離脱したが回復し復帰


リア・エ・アルヴェイン

・元レグルス軍所属、レグルス前王の娘(公にされていない)

・門を閉じる者(王家の血による)

・寡黙・面倒見が良い。

・武器:大剣


ミレナン・アーク

・エルナト魔導学院、アルテフェインの弟子

・18歳

・天然・方向音痴・古代語読める


<世界地図>

聖都エークレイア

・巨大な樹を中心にした白い街

・人間、エルフ、ドワーフが住んでいる

・世界で最も古い都市


<便利アイテム>

魔導双眼鏡

能力:遠距離観測、魔力を見る、魔力の痕跡を見る

エルクだけが扱うことができた

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