旅立ちの日 (2)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第四章
夕方になった。
城門の前だった。
ライディスが部隊を整えていた。
出発前だった。
エルクが来た。リアが来た。
「出るのか」エルクが言った。
「ヴァルガンに長くいる理由はない。レグルスへ戻る。報告がある。それに——」ライディスが言った。少し止まった。
「あの場所で見たものを、整理する時間が必要だ」
「お前もか」エルクが言った。
「お前ほど詳しくは見ていない。だが——あれが何だったか、考え続けている」
「答えは出たか」
「出ない」ライディスが言った。「だから戻る。情報を集める」
「そうか」
「エルク」ライディスが言った。
「何だ」
「次はレグルスで会おう」
「敵としてか」
ライディスが少し考えた。
「願わくば」ライディスが言った。「違う形でな」
笑ったのか、それに近い何かなのか、わからなかった。
レイオンに向かって、少し頭を下げた。王への礼だった。
「次の王よ」ライディスが言った。「良い統治を」
「軍務卿。今回は助かった」レイオンが言った。
「今回だけだ。次は保証しない」ライディスが言った。
「わかっている」
ライディスが歩き始めた。
部隊が続いた。
レグルスへ向かった。
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夜になった頃、城門の前に馬車が来た。
旅装束の人物が降りてきた。
大きな荷物を持っていた。
「あの、すみません」
声がした。
馴染みのある声だった。
「エルクさんたちはここにいますか」
全員が振り返った。
ミレナンだった。
「なんでいるんだ」シュウが言った。
「先生に追い出されました」ミレナンが言った。
シュウが目を瞬かせた。
「アルテフェインに?」
「追い出されたというより」ミレナンが荷物の中から羊皮紙を出した。
「手紙を渡されて、ヴァルガンへ行けと言われました」
リアが手紙を受け取った。
読んだ。
「何が書いてある」エルクが言った。
「現地で学べ」リアが言った。
「それだけか」
「それだけだ」
シュウが笑った。
「アルテフェインらしいな」
「先生は新しいことが起きたから、同行して情報を集めてこいと言ってるのだと思います」ミレナンが言った。
「思います?」
「直接は言ってもらえませんでした」
「そういう人だからな」エルクが言った。
ミレナンが荷物を持ち直した。「一緒に行っていいですか」
「来るな、とは言えない。手紙があるから」エルクが言った。
「では行きます」
「危険だぞ」
「知ってます」ミレナンが言った。「慣れました。たぶん」
「たぶん、か」
シュウが笑った。リアが少し笑った。エルクも笑った。
「来い」エルクが言った。
「また迷子になるなよ」シュウが言った
「なりません」
「絶対なるな」
「ちゃんと地図を持っています」ミレナンが荷物から地図を出した。
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翌朝だった。
出発の朝だった。
レイオンが城門の前に来た。
ガルゴンも来た。
ケンとジェイドとユウも来ていた。
「どこへ行く」レイオンが言った。
「目的地は決めた。聖都エークレイアだ」エルクが言った。
「エルフの国か」
「門について、魔王について、何か知っているかもしれない」
「そうか」レイオンが言った。「ヴァルガンには戻ってこい。扉はいつでも開いている」
「世話になった、ありがとう」
「こちらこそ」
ジェイドが拳を突き出した。
「また一緒に戦おう」
「戦争になったらな」
「戦争にしようとは思わないが」ジェイドが言った。「なった時には呼んでくれ。一番に行く」
「そういうやつだな、お前は」
ユウが手を振った。「気をつけて」
「そちらもな」
ケンが言った。「また会おう」
「また会える」
ガルゴンが前に出た。
左腕だけだった。
でも立っていた。
「エルク」ガルゴンが言った。
「何でしょう」
「お前たちは何のために戦っている」
エルクが少し考えた。
「帰るためです」エルクが言った。
「それと、帰れるようにするために、門のことを知る必要がある」
「帰る場所があるか」
「あるかわかりません。でも、あるかどうかを確かめに行く」
ガルゴンが頷いた。
「戦士だな」
「そうでしょうか」
「戦士は戦う相手を選ばない。お前は世界と戦っている。立派な戦士だ」ガルゴンが言った。
エルクは少し黙った。
「ありがとうございます」
四人が歩き出した。
エルクとリアとシュウとミレナン。
城門を抜けた。
道があった。
空が青かった。
吹雪が止んでいた。
「久しぶりだな。四人で歩くの」シュウが言った。
「エルナト以来ですね」ミレナンが言った。
「そうだな」
「ミレナンがいない旅、結構大変だったぞ」シュウが言った。
「何がですか」
「いろいろと」
「具体的に」
「戦争があって。魔王が出て」シュウが言った
「先生から聞いています。詳しく教えてください。記録が必要です」ミレナンが言った。
「記録か」
「先生に報告しなければなりません」
リアが前を向いたまま言った。「歩きながら話す」
「そうします」ミレナンが道具を取り出した。
「話してください、エルクさん」
エルクが前を向いた。
「どこから話す」
「エルナト出発から」
「長くなるぞ」
「構いません」
「では歩きながら」
四人が歩いた。
南でも北でもなく、別の方向だった。
新しい道だった。
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聖都エークレイアは、巨大な樹を中心にした白い街だった。
その街の奥、古い屋敷の一室に、一人のエルフがいた。
長い髪だった。
歳を感じさせない顔だった。でも目だけが、長い時間を生きてきた者の目をしていた。
古い肖像画を見ていた。
布で覆われていた。長い間、誰にも見せていなかった肖像画だった。
布を少しめくった。
描かれていたのは、一人の青年だった。
剣を持っていた。
顔に、覚悟があった。
一人のエルフ。グローワが、静かに言った。
「遅かったな」
「勇者よ」
布を、また被せた。
窓の外を見た。
南から、誰かが近づいてくる気配があった。
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その夜。
レグルス王城に、報告が届いていた。
暗い部屋だった。
燭火が一本だけあった。
王座に男が座っていた。
年老いていた。白い髪だった。
報告が読み上げられた。
ヴァルガン北部の門の活性化。
魔王の出現。
エルクたちの行動。
全部読み上げられた。
沈黙があった。
「以上です」
王が静かに笑った。
「予定通りだ」
その声に、感情がなかった。
計算した通りだ、という声だった。
「残響の継承者は動いている」王が続けた。「門も動いている。魔王も動いている」
燭火が揺れた。
「次の一手を打つ時が来た」
暗い部屋に、笑い声だけが残った。
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第四章 完結
第五章へ物語は続く。




