戦士王 (2)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第四章
ジェイドが最前線に飛び込んだ。
魔族の一団に正面から突っ込んだ。籠手が光った。一体を殴り飛ばした。別の一体を掴んで投げた。また別の一体に膝を入れた。
「戦争ってのは嫌いだが」ジェイドが言った。殴りながら言っていた。「負けるのはもっと嫌いだ」
大型の魔族が来た。
人間の三倍はあった。四本の腕があった。それぞれに棍棒を持っていた。
ジェイドが止まった。
「でかい」
棍棒が四本同時に来た。
ジェイドが転がった。四本全部が地面を叩いた。石畳が砕けた。
「数もでかいが一本一本もでかい」ジェイドが起き上がりながら言った。
「最高だな」笑っていた。
突っ込んだ。
四本腕の胴に入った。接近すれば棍棒は使えなかった。腕が邪魔だった。ジェイドがその腕を掴んだ。引いた。体重を乗せた。四本腕が前のめりになった。
ジェイドが膝を上げた。
顔面に当たった。
四本腕が倒れた。
周囲のヴァルガン兵たちがジェイドについて前に出た。
「あの人間、頭おかしい」誰かが言った。
「でも強い」別の誰かが言った。
「ついていくしかない」
ユウが右翼の後方を走っていた。
敵の動きを確認していた。後方から迂回しようとしている部隊がいた。ユウが即座に方向を変えた。指揮官のところへ走った。
「右後方、迂回部隊がいます。十分以内に来ます」ユウが叫んだ。
「確かか」指揮官が言った。
「確かです。今すぐ対処してください」
指揮官が動いた。
ユウがまた走った。
ケンが後方にいた。
前線から引いてきた傷ついた兵士を見ていた。肩を貫かれた兵士がいた。
ケンが近づいた。「動けるか」と聞いた。
「なんとか」と答えた。「右手は使えるか」と聞いた。
「使える」と答えた。「なら盾だけ持て。前に出なくていい。後ろで盾を持て」と言った。兵士が頷いた。
「次」ケンが別の兵士に向かった。
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戦場中央が崩れかけていた。
レイオンが前線に出ていた。
正面に魔族の重装兵がいた。
鎧を着ていた。人間の鎧ではなかった。骨と黒鉄を混ぜたような素材だった。盾を持っていた。大きかった。縦二メートルはあった。その盾を構えたまま、押してきていた。
剣が通らなかった。
横から槍を入れようとした味方が三人いた。
三人とも弾かれた。吹き飛んだ。
「硬い」レイオンが言った。
剣を振った。盾に当たった。手が痺れた。
重装兵が盾ごと押してきた。レイオンが後退した。踏ん張った。それでも押された。
「力任せか」
レイオンが盾の端を狙った。
端は少し薄かった。
剣を叩き込んだ。亀裂が入った。また叩いた。割れた。
重装兵が怯んだ。
レイオンが踏み込んだ。盾が割れた隙間から剣を入れた。重装兵が膝をついた。
「これだ」レイオンが言った。
「盾の端を狙え」
周囲の兵士たちが同じ動きをした。
重装兵が次々崩れた。
「やったか」
そう思った瞬間だった。
後ろから声が来た。
「上だ」
見た。
飛行型が降下してきていた。重装兵に気を取られていた隙に、上空から来ていた。爪を広げていた。
レイオンが反応した。
盾がなかった。
剣で受けようとした。
角度が悪かった。
「レイオン」エルクが叫んだ。
《残響》が走った。
一瞬先が見えた。爪が右肩を狙っていた。
「右に倒れ込め、今すぐ」
レイオンが右へ倒れた。
爪が空を切った。
飛行型が通り過ぎた。
レイオンが立ち上がった。「助かった」
「次は自分で避けろ」エルクが言った。
「わかってる」
しかしまだ来ていた。
魔族の包囲が来ていた。三体、四体が同時に来ていた。
「左後ろが来る。今すぐ右へ」エルクが言った。
レイオンが右へ跳んだ。左後ろから魔族の爪が来た。空を切った。
レイオンが剣を振った。爪を出した魔族が倒れた。
「前が来る」
レイオンが盾を構えた。魔族が激突した。力で押された。後退した。
「右を空けろ」
レイオンが右へずれた。
リアが右から入った。大剣が魔族の横を斬った。倒れた。
「また来る。二体、正面と左だ。正面が速い」
「わかった」
レイオンが正面の一体を先に迎えた。剣が交わった。力で押した。弾いた。
左から来た一体にレイオンが気づいた時には遅かった。
距離が近かった。
間に合わなかった。
大きな体が来た。
「レイオン」ガルゴン王の声がした。
横から戦斧が来た。
魔族が吹き飛んだ。
ガルゴン王が横に立っていた。息が上がっていた。戦場を動き回っていた体だった。でも目が笑っていた。
「馬鹿者」ガルゴン王が言った。
「助かった」レイオンが言った。
「次は自分で避けろ。余がいつも横にいるわけではない」
「わかってる。でも今日は父上がいた」
「今日は、な」
二人の周囲で戦いが続いていた。でも二人だけ、一瞬別の空気があった。
「王族は死ぬな」ガルゴン王が言った。
「父上も王族だろ」
ガルゴン王が笑った。声を立てて笑った。「余は王だ。先に死ぬわけにはいかん」
「順番が逆だと思うが」
「逆で構わん。そういうものだ」
ガルゴン王が戦斧を担いだ。また前へ向いた。「続くか、レイオン」
「もちろん」
二人が同時に前へ出た。
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戦場全体が揺れた。
別の揺れ方だった。
地震ではなかった。
爆発でもなかった。
一点から来ていた。
空が赤くなった。
戦場の右手から、炎が上がった。
一本の炎柱ではなかった。
広がっていた。
地面から空へ、広がりながら上がっていた。
その炎の中から、影が出てきた。
巨大だった。
黒鉄の鎧だった。鎧の隙間から炎が漏れていた。腕が長かった。脚が太かった。右手に大剣を持っていた。刃が燃えていた。
周囲の温度が上がった。
近くにいた兵士たちが後退した。熱さが届いていた。
ゼルガドだった。
「弱い」
ゼルガドが言った。
周囲を見回した。戦っている兵士たちを見た。
「弱すぎる」
大剣を抜いた。
振った。
炎の衝撃波が走った。
ヴァルガン兵が何十人か吹き飛んだ。
「うわ」ジェイドが言った。遠くから見ていた。驚いていた。あのジェイドが驚いていた。「あれに突っ込んだら死ぬな」
「わかってて言うな」ユウが隣にいた。
「わかってて言う。でも行くけどな」
「行くな」
ゼルガドが歩き始めた。
止める者がいなかった。
一歩ごとに地面が焼けた。歩いた後が黒くなった。
兵士たちが左右に開いた。
道が開いていた。
ゼルガドは止まらなかった。
エルクは《残響》を絞った。
ゼルガドの情報を拾おうとした。
来た。
でも多すぎた。
この男と戦った者の恐怖が大量に来た。生き延びた者がほとんどいなかった。そのわずかな生存者の記録が、ノイズと混ざって流れ込んできた。
頭が痛かった。
「エルク。無理するな」リアが来た。
「わかってる」
「そういう顔をしていない」
「少しだけ見えた。弱点は——今の段階ではわからない」
「わかった」リアが前を向いた。「なら今は避ける」
ゼルガドが戦線の中央へ来ていた。
誰も止められていなかった。
戦線が崩れかけていた。
その時だった。
ガルゴン王が前へ出た。
ゼルガドと戦線の中央で向き合う形になった。
誰よりも先に出た。
誰よりも堂々と立った。
後ろを向かなかった。兵士たちを見なかった。ゼルガドだけを見た。
「お前か」ゼルガドが言った。
「そうだ」ガルゴン王が言った。戦斧を構えながら言った。「余がヴァルガンだ」
名乗りではなかった。
国と王が一つになった言葉だった。
戦線から音が消えた。
戦っていた兵士たちが止まった。止まって、王の背中を見た。
逃げかけていた者が足を止めた。
振り返った。
王がいた。
王が一番前にいた。
王がゼルガドの前に立っていた。
「王がいる」
誰かが言った。
それだけだった。
ヴァルガン軍の兵士たちが前を向いた。
崩れかけていた戦線が止まった。
止まって、また固まった。
右翼から声が上がった。
「王に続け」
中央から声が上がった。
左翼から声が上がった。
ライディスが右翼から戦場を見ていた。
その光景を見ていた。
何も言わなかった。
でも少し動いた目があった。
エルクはガルゴン王の背中を見た。
振り返らなかった。
ただ前にいた。
ゼルガドと向き合っていた。
ガルゴン王の言葉があった。
「下を向くな」
言っていなかった。
でも聞こえた気がした。
「余が前にいる。だからお前たちは進め」
そういう背中だった。




