門を追う者 (1)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第四章
戦いが終わっても、街は静かではなかった。
別の意味で騒がしかった。
壊れた建物を直す音がしていた。石を運ぶ音がしていた。木材を切る音がしていた。どこかで誰かが怒鳴っていた。荷車が石畳の上を走っていた。
エルクは宿の窓から街を見ていた。
朝だった。
三日が経っていた。
戦いの直後は動けなかった。体が言うことを聞かなかった。翌日も同じだった。三日目にようやく歩けるようになった。
「勝った感じしないな」
シュウが隣に来て言った。
「戦争ってそういうもんだ」
ケンの声だった。
振り返ると、ケンが部屋の入り口に立っていた。食事を持ってきていた。木製の皿に、パンと干し肉と温かいスープが乗っていた。
「ありがとう」エルクが言った。
「さっき市場で買ってきた」ケンが皿を机に置いた。
「街の店がほとんど開いていた。焼けたのは北の区画だけだ。」
「商売熱心な国だな」シュウが言った。
「ヴァルガンだからな」ケンが答えた。
「戦争の次の日にも商売する。俺は好きだ」シュウは頷いた。
エルクはスープを一口飲んだ。
温かかった。
「今回の戦いは勝ったというより、追い返しただけだからな」ケンが言った。
「そうだな」エルクは窓の外を見た。
窓の外で、子供が走っていた。木剣を持っていた。友人と打ち合っていた。戦いの翌日でも、その光景は変わっていなかった。
「この国の人たちは強いな」エルクが言った。
「慣れてるんだろ」ケンが言った。「戦争が五十年続いている。生まれた時から戦争がある。それが日常になっている」
「それが良いことかどうかはわからないが」エルクが言った。
ケンが頷いた。「わからない。でも彼らは諦めていない。それだけは確かだ」
エルクは街を見た。
レグルスで見た街があった。エルナトで見た街があった。そしてここがある。どの街も、戦争の影響を受けていた。でも傷の形が違った。諦め方が違った。立ち直り方が違った。
国は違っても、傷つく人々は同じだった。
でも戦い方が違った。
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王城の作戦室に、全員が集まった。
ガルゴン王が地図の前に立っていた。レイオンが隣にいた。フレイナが後ろに控えていた。リブラが端に座っていた。エルクたちが入ってきた。
最後に、一人が入ってきた。
黒と金の賢者衣だった。長い銀髪だった。エルクがこれまで見た賢者の中で、一番年老いていた。でも背筋が真っすぐだった。眼が鋭かった。杖を持っていたが、それは体を支えるためではなかった。
レイオンが姿勢を正した。
エルクはその変化に気づいた。ガルゴン王の前でも、レイオンは比較的自然な立ち方をしていた。でも今は違った。
老賢者は挨拶をしなかった。
部屋を見渡した。全員を確認した。
それから言った。
「北部の門が活性化している」
驚かなかった。伝令からの報告は戦場まで届いていたからだ。
でも次の言葉で空気が変わった。
「封印が破られ始めている」
「封印?」エルクが聞いた。
老賢者が地図を指した。地図には北方山脈が描かれていた。山の中心部に印がついていた。その周囲に、いくつかの小さな印が散っていた。
「私はバルゼディスという。ヴァルガンの最高賢者だ」老賢者が言った。
「挨拶が遅れた。だが今は時間が惜しい」
「続けてください」エルクが言った。
バルゼディスが頷いた。
「門そのものはまだ開いていない。だが門を封じる施設が存在する。その施設が、門の周囲に複数ある。一種の檻のようなものだ。その一部が既に破壊されている」
「檻みたいなもんか」シュウが言った。
「その認識で良い」
「誰が壊した」リアが言った。
バルゼディスが少し間を置いた。
「ノクトの痕跡が確認されている」
全員が顔を見合わせた。
バルゼディスが続けた。
「だが、説明がつかない部分がある」
「何が」エルクが聞いた。
「封印は数年前から少しずつ破壊されている」
「数年前?」
「ノクトがヴァルガン北部に来たのは最近だ。数年にわたる破壊には関与できない」
部屋が静かになった。
エルクが言った。「つまりノクトだけではない」
「そうだ。誰かがもっと前から、門へ近づいていた」
リアが言った。「ライディスか」
「断定はできん」バルゼディスが言った。
「だが門を追う者は増えている。我々の知らない者が動いている可能性がある」
ガルゴン王が腕を組んだ。
「封印施設の残りは無事か」
「現時点では、破壊されたのは外縁の一施設だけだ。だが急がなければならない。封印が完全に破られれば、門は制御不能になる」
「エルナトと同じことが起きる」リアが言った。
「もっと規模が大きくなる可能性がある」バルゼディスが言った。
「ヴァルガンの門はエルナトの門より古い。眠っていた時間が長い。目覚めれば、影響が広範囲に及ぶ」
エルクは地図を見た。
北方山脈の印を見た。
《残響》が、ここに来てから微かに鳴り続けていた。
その方向から来ていた。
「調査に行く」エルクが言った。
ガルゴン王が頷いた。
「わかった、門の調査を優先しろ。ゼルガドの次の動きは俺たちが抑える」
それだけだった。
それ以上の言葉がいらなかった。
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出発は翌朝だった。
メンバーが決まった。
バルゼディス、エルク、リア、シュウ。
それにレイオン、フレイナ、案内役にリブラが加わった。
「俺は王子なのに前線より調査か」レイオンが言った。不満そうではなかった。ただ確認しているだけだった。
「お前の腕が必要だ。これは観光ではない」バルゼディスが言った。
「わかっている」
ケンが見送りに来ていた。ジェイドとユウも来ていた。
「気をつけろ」ケンが言った。
「そっちもな」エルクが言った。
ジェイドが腕を組んだ。「面白そうなことがあったら呼べ。すぐ行く」
「そういう案件だったら一番最初に呼ぶ」シュウが言った。
ユウが「行ってらっしゃい」と手を振った。
城門を抜けた。
北への道が続いていた。
バルゼディス
・ヴァルガン最高賢者




