紅蓮の侵攻 (2)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~
両軍が動いた。
矢が飛んだ。最初の一斉射だった。
黒い鎧の兵士たちに当たった。何人かが倒れた。でも止まらなかった。
魔導兵が呪文を唱えた。光が飛んだ。爆発した。地面が吹き飛んだ。
第一軍の列が乱れた。でも埋まった。
後ろから前へ押し出されるように、また列が揃った。
「多い」シュウが言った。
「突破させるな」フレイナが槍を構えながら言った。「突破されたら後列が終わる」
両軍が激突した。
剣と剣が交わった。盾が割れた。怒鳴り声が上がった。
誰かが倒れた。誰かが踏み越えた。
ケンが後列にいた。
負傷した兵士を引きずり出していた。前線から引いてきた兵士の傷を確認していた。
押さえる場所を指示していた。怒鳴らなかった。落ち着いた声で言っていた。
それが周囲を落ち着かせていた。
「右腕、まだ動くか」ケンが負傷兵に言った。
「動く」
「じゃあ持てるか、これ」水の入った袋を渡した。「後ろで配ってきてくれ」
負傷兵が頷いた。立ち上がった。
ケンは次の負傷者に向かった。
ユウが戦場を走っていた。
前線から後方へ、後方から前線へ、伝令を運んでいた。矢が飛んでいる中を走っていた。
怖そうな顔をしていた。でも止まらなかった。右から走って左へ抜けて、また右へ戻った。
「左翼が押されています」ユウが伝令を届けながら叫んだ。
「援軍を」
指揮官が動いた。
ジェイドが右翼に突っ込んでいた。
敵の一団に正面から入っていった。籠手が光った。一人を殴り飛ばした。別の一人を掴んで投げた。また別の一人に蹴りを入れた。周囲の戦士たちが驚いていた。でも釣られて前へ出た。右翼が押し返した。
「気持ちいい」ジェイドが笑いながら次の敵を見ていた。
第一軍の中から、一騎の騎士が出てきた。
炎色の鎧だった。馬が黒かった。手に長剣を持っていた。
「あ、あいつは!魔騎士ガース!」フレイナが言った。
「第一軍の幹部だ、人間を辞めたやつだ」
レイオンが前に出た。「俺が行く」
「王子」フレイナが言った。
「見ていてくれ」
レイオンが駆けた。
ガースも動いた。
二つの影がぶつかった。火花が散った。
レイオンが押し込んだ。ガースが受けた。また打ち合った。
レイオンが速かった。攻撃が途切れなかった。ガースが後退しかけた。
レイオンが踏み込んだ。大きく踏み込んだ。
ガースが炎を纏った剣を振った。
レイオンが弾かれた。地面を転がった。立ち上がった。
「まだだ」レイオンが言った。
また向かった。
「頑固だな」フレイナが呟いた。
見ていた。援護のタイミングを測っていた。
中央戦線が押されていた。
敵が突破口を作ろうとしていた。左から右へ圧力をかけた。防衛線の一部が薄くなった。
「右から来る」
エルクが言った。
《残響》が動いていた。
戦場全体の情報が薄く流れていた。死者の記録があった。
似た地形で似た戦い方をした誰かの記録があった。
敵がどこへ向かうか、どこを突こうとしているか、少し先が見えた。
「右から来る。十人以上だ」
隣の指揮官が判断した。すぐに右へ兵を回した。
突撃が来た。
でも待ち構えていた。弾いた。
「どうわかった?」指揮官がエルクに言った。
「勘だ」
「そういう勘を持っていてくれ」
エルクは次を読んだ。
「今度は左だ。同時に中央を狙う。中央が崩れたところを突く」
指揮官が動いた。
リアが前線に出ていた。
大剣を振るっていた。一人倒した。また一人倒した。止まらなかった。踏み込んで、振って、次へ向かった。周囲のヴァルガン兵がそれを見ていた。
「何者だあの女」誰かが言っていた。
「知らんが、前に出るな」別の誰かが言った。
「潰される」
シュウが後方で動いていた。
兵士のところへ走った。消耗した矢を《レプリカ》で複製して補充した。弓兵が驚いた顔をした。
「ありがたい」弓兵が言った。
「すぐに使ってくれ。崩れるから」シュウが言った。「崩れたら教えてくれ、次を出す」
膠着していた戦線が、突然崩れた。
後方だった。
轟音がした。
地面が揺れた。
炎が上がった。
「紅蓮のゼルガドが動いた」誰かが叫んだ。
大剣が振り抜かれた。
炎の衝撃波が走った。ヴァルガン兵が数十人、まとめて吹き飛んだ。
地面が溶けていた。石畳が液体になっていた。
ゼルガドが戦場を歩いていた。
止めようとした兵士が大剣の一振りで飛んだ。
魔導兵が呪文を撃った。大剣で弾いた。
騎馬が突撃した。大剣の柄で馬を止めた。馬が倒れた。
退屈そうだった。
その目が退屈そうだった。
防衛線が崩れた。
レイオンが魔騎士から離れた。ゼルガドへ向かった。
「来るな」フレイナが叫んだ。
「目の前にいる」レイオンが言った。
ゼルガドがレイオンを見た。初めてこちらを見た。
「王子か」ゼルガドが言った。
レイオンが剣を構えた。「そうだ」
「面白くない」
ゼルガドが大剣を振った。
レイオンが受けた。
吹き飛んだ。
十メートル以上飛んだ。地面に叩きつけられた。
転がった。立ち上がろうとした。膝をついた。
フレイナが槍を構えながら飛び込んだ。ゼルガドが槍を大剣で払った。
フレイナが横へ弾かれた。でも着地した。
リアが前に出た。
ゼルガドと向き合った。
大剣と大剣だった。
リアが踏み込んだ。全力で振った。ゼルガドが受けた。火花が散った。地面が揺れた。
止まった。
ゼルガドが笑った。
「面白い」ゼルガドが言った。声が低かった。
「久しぶりだ。こういうのは」
リアが次を振った。またゼルガドが受けた。今度は押し込んだ。ゼルガドが一歩後退した。
「面白いが」ゼルガドが言いながら押し返した。
「まだ足りんな」
エルクがゼルガドへ向かった。《残響》を使いながら横に回った。ゼルガドの動きを読もうとした。
ゼルガドがエルクを見た。
一瞬だけ見た。
「お前が勇者か」ゼルガドが言った。
エルクが止まった。
ゼルガドが目を細めた。見ていた。エルクを見ていた。何かを測るような目だった。
「違うな」
ゼルガドが言った。
「まだ足りん」
もう一度言った。
エルクに向けた言葉なのか、自分自身への言葉なのか、わからなかった。
ゼルガドが大剣を肩に担いだ。
「もういい」
踵を返した。
第一軍が動いた。
前進していた軍勢が止まった。後退し始めた。
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日が沈んだ。
戦闘が一旦止まった。
決着ではなかった。第一軍が引いた。
ヴァルガン王ガルゴンが地図を見ていた。
レイオンは腕に包帯が巻かれていた。フレイナが隣に立っていた。
「ゼルガドを全く止められなかった」レイオンが言った。悔しそうだった。
「あいつ、本当に化け物だ」
「今日のところはここまでだ」ガルゴン王が言った。
「傷の手当てをしろ」
「でも」
「今は休め」
レイオンが口を閉じた。
「おそらくゼルガドは、また来る。今夜か、明日か。今日は偵察みたいなものだったのだろう」ガルゴン王が言った。
「次は我々を全滅させにくる、今はみんな休め!戦いに備えろ!」
エルクはゼルガドの言葉を頭の中で反芻していた。
勇者か。違うな。まだ足りん。
ゼルガド
・魔王軍第一軍団長
・異名 紅蓮のゼルガド
・武力至上主義
・ヴァルガン最大の脅威
魔騎士ガース
・魔王軍第1軍の幹部
・人間を辞めて魔族なった者




