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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第四章 戦士の国

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紅蓮の侵攻 (1)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

夜明け前だった。


王城の作戦室に地図が広げられていた。


北部の地形図だった。山と谷と平野が描かれていた。防衛線の位置に印がついていた。いくつかの印の上に、赤いしるしが重なっていた。壊滅した拠点だった。

ヴァルガン王ガルゴンが地図の前に立っていた。

「敵は第一軍だ」

ガルゴンが言った。

「指揮官はゼルガド。紅蓮のゼルガドとも呼ばれる」

部屋の空気が変わった。


ベテランの将校たちの顔が引き締まった。一人が唇を結んだ。別の一人が地図から目を離せなくなった。その変化が、言葉より雄弁だった。

「そんなにヤバいのか」シュウが小声で言った。

レイオンが答えた。

笑っていなかった。

「魔王軍最強クラスだ」レイオンが言った。

「村を焼くためだけに軍を動かす。あいつはそういう奴だ。強いから止める者がいない。止める必要があると思っていない」

エルクはレイオンを見た。

今まで見た中で、一番真剣な顔をしていた。

「レイオン」王が言った。

「気持ちはわかる。でも今は地図を見ろ」

レイオンが地図に視線を戻した。


ガルゴン王が続けた。

「第一軍の進路はここだ。北部平野を南下している。このまま放置すれば、三日以内にサルガ平野まで来る。そこには農村が十二ある」

「迎撃するしかない」フレイナが言った。黒髪をかき上げた。そして地図を見ながら言った。

「問題は兵力だ。前線基地が壊滅した。即応できる戦力が限られている」

「召喚者たちも出る」ケンが言った。

全員がケンを見た。

ケンは静かな目をしていた。

「俺たちもここに来た理由がある。戦うためだ。使ってくれ」

ジェイドが腕を組んだ。

「当然だ。こんな面白い機会、見逃せない」

ユウが「私も走れます」と言った。

王は三人を順番に見た。それから頷いた。

「よし、全軍招集だ」



城門が開いた朝、街の様子が変わっていた。


武器屋が早朝から開いていた。鍛冶場の炉が全部点いていた。訓練場が空だった。

兵士たちがすでに集結していたからだった。

騎兵が並んでいた。歩兵が並んでいた。魔導兵が後列についた。

城壁から見ると、軍勢が川のように城門を流れていった。


エルクは流れの中にいた。

これだけの人間が一斉に動く光景を、レグルスの戦場でも見ていなかった。あの時は荷馬車に詰め込まれて気づいたら戦場だった。

今回は違った。出撃の瞬間から見ていた。

「こういうのは初めてか?」ケンがエルクの隣を歩きながら言った。

「この規模は初めてだ」

「俺もだ。ゲームならある、こういう場面」

「俺もだ」シュウが横から言った。

「リアは?」ケンが聞いた。

「見たことはある」リアが前を向いたまま答えた。

「レグルスの軍だったが」

誰も何も言わなかった。


城門を抜けた。


街の外は寒かった。北の風が来た。空が低かった。雲が厚かった。

「天気が悪くなるな」ユウが空を見ながら言った。

「戦場向きの天気だ」ジェイドが言った。

「どういう意味だ」

「燃やすと映える」

ユウが「物騒だ」と言った。ジェイドが笑った。


北部へ向かう道中、最初の村が見えた時点で、全員が言葉を失った。


燃えていなかった。

燃えた後だった。


建物の残骸が残っていた。石造りの壁が崩れていた。木材が炭になっていた。地面が焦げていた。石畳が熱で変色していた。

においがした。

火と、それ以外のにおいがした。


「急げ」ガルゴン王が言った。

進んだ。


次の村も同じだった。

さらに進んだ。


また同じだった。


リアが無言になった。

ずっと無言だった。大剣の柄に手を置いていた。前を向いていた。表情がなかった。でも目だけが違った。

エルクは何も言わなかった。


言えることがなかった。


ケンが立ち止まった一瞬があった。瓦礫の中に何かを見た。すぐに歩き始めた。その顔が変わっていた。消防士として何度も現場に立ってきた人間の顔をしていた。

「間に合わなかった」とケンが小声で言った。

自分に言っているようだった。

「でも次は間に合わせる」


偵察兵が戻ってきた。

「敵接近。二十分以内に到達します」

先頭が騒がしくなった。各部隊が動いた。騎兵が左右に展開した。弓兵が後列に配置された。


エルクは前方を見た。


地平線が赤かった。


最初は光かと思った。太陽ではなかった。方向が違った。


炎だった。


たいまつではなかった。旗だった。燃える旗が無数に動いていた。

その下に黒い鎧が並んでいた。前から後ろまで見えなかった。数えられなかった。

先頭に、一つだけ大きな影があった。


馬に乗っていなかった。歩いていた。それなのに軍勢と並んでいた。


「デカすぎだろ」シュウが言った。

「あれが軍団長か」エルクが言った。


レイオンが前に出た。「紅蓮のゼルガドだ」

その名前が、空気を変えた。


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