戦士たち (2)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第四章
夜になった。
酒場に全員が集まった。
ヴァルガンの酒場は昨夜と同じように賑やかだった。
卓を囲んで、エルク、シュウ、リア、ケン、ジェイド、ユウ、そしてギルドマスターのリブラが並んだ。
杯が並んだ。
エルクが聞いた。「戦士召喚と勇者召喚は、何が違うんだ?」
リブラが答えた。
「勇者召喚は英雄を求める」リブラが言った。
「一人の特別な存在を召喚して、世界を救わせようとする。だから番号をつけて、適性を測って、使えるものと使えないものを選別する」
「ヴァルガンは違うか?」
「戦士召喚は仲間を求める」リブラが続けた。
「一人の英雄が世界を救う、という考えをヴァルガンは信じていない。全員で戦う。それが戦士の国の考え方だ。だから誰か一人を特別扱いしない。召喚された者も、ヴァルガン生まれの者も、同じ戦士として扱う」
エルクはそれを聞いていた。
「それでも召喚したのは、戦力が必要だからだろ」
「そうだ」リブラが認めた。
「理念が違っても、召喚の理由は同じだ。戦争のために人を呼んでいる。それは否定しない」
ケンが杯を置いた。
「でも気持ちが違う。レグルスで召喚されていたら、俺は今頃どうなっていたかわからない」
「俺は脱走してたな、番号つけられたら絶対嫌だ」ジェイドが言った。
「お前なら最前線に送られるだろ」シュウが言った。
「それでもだ」ジェイドが笑った。「名前で呼ばれない戦いなんか、やりたくない」
エルクはリアを見た。
リアは杯に視線を落としていた。
「レグルスで召喚された勇者たちのことを考えているか」エルクが聞いた。
「ずっと考えている」リアが静かに言った。
「こういう場所があったなら、あの人たちも違う生き方ができたかもしれない。でも生き残れない。レグルスに来てしまったから」
誰も何も言わなかった。
酒場の騒がしさが続いていた。
「だから止めたいんだろ、召喚を」シュウが言った。
「そうだ」リアが言った。
それだけだった。
酒場が引けた後、リアは一人で城壁に上がった。
夜風が冷たかった。ヴァルガンの北の夜は、エルナトより寒かった。
城壁の上から街が見えた。
酒場の明かりがまだいくつか灯っていた。遠くで笑い声が聞こえた。訓練場は暗かった。兵舎の窓にぼんやりと灯りが見えた。
こういう光景は、レグルスの城でも夜に見ていた。
でも違った。
レグルスの夜は静かだった。緊張していた。明かりはあったが、人の声が少なかった。戦争が街の奥まで染み込んでいた。
ここは違った。
夜でも人の声がした。笑い声があった。剣を磨く音があった。戦争の中にいながら、日常を持っていた。
もしレグルスもこうだったなら。
リアは小さく呟いた。
城で知った勇者たちの顔が浮かんだ。名前を覚えている者もいた。覚えていない者もいた。
帰りたいと泣いていた者がいた。笑おうとして笑えなかった者がいた。戦場から戻らなかった者がいた。
全員が番号で呼ばれていた。
全員が使い捨てだった。
風が吹いた。
リアは大剣の柄に手を置いた。
止められなかった。今まで止められなかった。
でもエルナトで知ったことがあった。
門のことを知った。召喚の仕組みを知った。何が必要かが少しずつ見えてきていた。
まだわからないことのほうが多かった。
でも動いている。
それだけが確かだった。
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北部国境の前線基地は、夜通し見張りを続けていた。
雪原だった。
白かった。暗かった。風があった。見張りの兵士が交代で立っていた。何日も同じだった。時々遠くで魔物の声がする程度だった。
夜明け前だった。
見張りの一人が北の地平線を見た。
「あれ」と言った。
何かが光っていた。
遠かった。
赤かった。
星ではなかった。
動いていた。
最初は一つだった。
二つになった。十になった。百になった。
「なんだあれ」
隣の兵士が覗き込んだ。
火だった。
たいまつではなかった。
それより大きかった。ずっと大きかった。
軍勢だった。
無数の炎の旗が動いていた。黒い鎧が見えた。先頭に巨大な影があった。騎乗していた。
兵士が口を開いた。
言葉が出なかった。
「魔王軍だ」
ようやく言葉が出た。
「第一軍だ」
警報を鳴らした。基地中に音が響いた。兵士たちが起き出した。混乱が広がった。誰かが馬を走らせた。
その頃には、軍勢が近かった。
軍勢の先頭に、ゼルガドがいた。
魔王軍第一軍団長、紅蓮のゼルガド。
馬ではなかった。
歩いていた。
その速さで軍勢と並んでいた。
赤黒い鎧だった。炎の紋様が鎧の表面を走っていた。右手に大剣を持っていた。刃が赤く光っていた。燃えていた。
副官が言った。
「閣下、前線基地に到着します」
ゼルガドが前を向いたまま答えた。「見えている」
「命令を」
ゼルガドが少し間を置いた。
大剣を肩に担いだ。
「簡単だ」
言った。
「全部壊せ」
第一軍が動いた。
雪原を炎が走った。
前線基地が揺れた。城壁が崩れた。
兵士たちが吹き飛んだ。悲鳴が上がった。
警報が続いていた。でも誰も止められなかった。
ゼルガドは歩き続けた。
崩れる城壁を見ていなかった。燃える建物を見ていなかった。
ただ前を見ていた。
まだ退屈そうな目をしていた。
雪原が赤く染まった。
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ヴァルガン王城に、伝令が駆け込んだ。
深夜だった。
王ガルゴンがいた。レイオンとフレイナが隣にいた。
エルクたちも呼ばれていた。ケン、ジェイド、ユウも来ていた。
伝令が息を切らして言った。
「北部防衛線、壊滅しました」
静まり返った。
「第一軍団長ゼルガド、確認されました」
ガルゴン王が立ち上がった。
レイオンが笑った。笑い方が戦士のものだった。「やっと出番だな」
リアが大剣の柄を握った。
エルクが立ち上がった。
ケンが目を細めた。ジェイドが拳を握った。ユウが唇を引き結んだ。
「全軍招集」
王が言った。
部屋の外から、夜通し続いていた訓練の音が止まった。
街が動き始めていた。
ゼルガド
・魔王軍第一軍団長
・異名 紅蓮のゼルガド
・武力至上主義
・ヴァルガン最大の脅威




