戦士たち (1)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第四章
朝から金属の音がしていた。
ヴァルガンの訓練場は、夜明けと同時に始まっていた。
剣の打ち合う音、足を踏み込む音、指導者の怒鳴り声。宿の窓からそれが聞こえてきた。
エルクが外に出ると、すでに十数人が動いていた。
ヴァルガンの兵士たちだった。年齢がばらばらだった。
若い者がいた。白髪交じりの者がいた。それが同じ訓練場で同じ動きをしていた。
その端に、見知った顔があった。
ケンが剣を振っていた。基本の素振りだった。丁寧だった。速くなかった。でも一振り一振りが安定していた。
ジェイドが別の場所にいた。素手だった。相手をした兵士二人が、数秒で地面に転がっていた。もう二人が向かっていった。
ユウが走っていた。訓練場の外周を走っていた。軽かった。足が速かった。すれ違う兵士が振り返った。
シュウが入り口に立っていた。
「朝から元気すぎだろ」
「戦う国だからな」
ジェイドが別の兵士を投げながら答えた。
「ほんと元気だな」シュウが言った。
ケンがこちらに気づいた。素振りを止めた。「エルク、早いな」
「眠れなかった」
「昨夜の話か」
ノルザ村が消えた話だった。
生存者がほとんどいなかったという話だ。エルクは頷いた。
「俺もだ」ケンが言った。静かな声だった。
「こっちに来てから何度かある。眠れない夜が」
訓練場の向こうで、ジェイドがまた笑い声を上げていた。三人目を投げ飛ばしていた。
訓練が終わった後、エルクとケンは武器の手入れをした。
石造りの小屋だった。武器用の油と布が置いてあった。ケンは手慣れていた。剣を丁寧に拭いていた。
「帰りたいと思うか」エルクが聞いた。
ケンが少し間を置いた。
手を止めなかった。剣を拭き続けながら答えた。
「思うさ」
「そうか」
「娘がいる。七歳だ」ケンが言った。「記憶は断片しかないが、今頃どうしてるか、毎日考える。嫁さんも心配してるだろうな。なんの説明もなく消えたんだから」
エルクは黙って聞いた。
「帰りたい。当然だ。でも」ケンが剣を持ち直した。
「でも助けを求められたら、放っておけない。それが仕事だったから」
「消防士だったな」
「そうだ。誰かが現場に行かなきゃいけない。怖くても、疲れてても。それが俺たちの仕事だった」ケンが言った。
「こっちに来ても、同じだと思ってる。召喚されたのは理不尽だ。でも目の前で困っている人間を見て見ぬふりはできない。そういう生き方をしてきたから」
エルクは手の中の剣を見た。
「割り切れるのか」
「割り切れてない」ケンが笑った。
「ただ、動くしかないから動いてる。それだけだ」
窓の外で、訓練がまだ続いていた。
金属の音が続いていた。
昼前に、ジェイドが闘技場にいた。
ヴァルガンの街の中心部に、闘技場があった。円形の石造りの空間だった。試合をする場所だった。観客席があった。でも今は訓練に使われていた。
ジェイドが四人を相手にしていた。
素手だった。籠手だけをつけていた。四人の戦士が一斉にかかっていった。
終わるのに十秒かからなかった。
一人目が横に吹き飛んだ。二人目が腕を取られて地面に叩きつけられた。三人目が膝を崩した。四人目が踏み込む前に止まった。ジェイドが目の前に立っていた。
「次」
ジェイドが言った。
誰も動かなかった。
「弱すぎる」
シュウが横でそれを見ていた。「元格闘家っていうか、もうこれは重機だな」
ジェイドがこちらを見た。「何か言ったか」
「いや、すごいな、と」
「そうか」ジェイドが笑った。「負けるのが嫌いだから鍛えた。それだけだ」
「負けるのが嫌いってレベルじゃないだろ、この強さ」
「負けた時の気分が最悪だろ、だから負けないようにした。単純だ」ジェイドが言った。
「単純すぎる」
「単純でいい」ジェイドが闘技場の中央に戻りながら言った。
「難しく考えるより、鍛えれば強くなる。強くなれば負けない。それだけだ」
シュウがエルクに小声で言った。「こいつすごいな」
「こういう奴が一番厄介だ」エルクが言った。
「なんで」
「理屈じゃなく動くから」
ジェイドがまた笑った。「聞こえてる。褒めてると受け取っておく」
闘技場に次の対戦者が入ってきた。
今度はヴァルガンの若い戦士だった。気合が入っていた。「今度は俺が」と言いながら構えた。
ジェイドが構えを変えた。
始まった瞬間から圧倒的だった。
シュウが腕を組んで見ていた。「毎日これやってるのか」
「毎日だ」と誰かが後ろから言った。
振り返ると、ユウが立っていた。
走り終えたのか、少し息が上がっていた。
「ジェイドはここに来てから毎日訓練してる。ヴァルガンの戦士と一緒に。最初は言葉も通じなかったのに、気づいたら仲良くなってた」
「言葉は?」
「戦えば分かり合えるらしい」ユウが笑った。
「そういう国だから、ここは」
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昼過ぎに、市場へ出た。
ユウとリアが並んで歩いていた。エルクたちは少し後ろを歩いていた。
ユウはよく喋った。
市場の食材を見ながら、あれが何かをリアに聞いた。リアが答えた。
また別のものを指して聞いた。リアが答えた。ユウがへえと言って次のものを見た。
「リアって笑わないよね」ユウが言った。
「そうか」リアが答えた。
「そうだよ。ずっと見てたけど、笑ったの一回か二回しか見てない」
「必要があれば笑う」
「必要ってなんだよ」ユウが笑った。
「笑いたい時に笑えばいいじゃん」
「笑いたい時がそんなにない」
「じゃあ作ればいい」ユウが屋台の果物を一つ買って、リアに渡した。
「はい、これ甘いらしいよ。試してみて」
リアが受け取った。
見た。
一口食べた。
甘かった。目がわずかに動いた。
「どう」
「甘い」
「それだけ?」
「甘すぎる」
ユウが笑った。「正直だ」
リアが少し口元を動かした。笑ったのかどうかわからなかったが、何かが動いた。
エルクはそれを遠くから見ていた。
「リアがけっこう喋ってる、しかも顔がちょっと違う」シュウが言った。
「ユウが引き出したな」
「あのキャラのせいかな、引き出すの上手そう」
「人懐っこいからな」
ユウがまた何かを買ってリアに渡していた。
リアが受け取っていた。断らなかった。




