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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

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世界の境界 (2)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

ノクトが門の前に立っていた。

光の中だった。


エルクの隣に来た。

エルクが言った。

「魔王は門を開き、世界の融合を求めているんだろ」

「魔王様は門を求めている」ノクトが言った。

「だが私は違う」

リアが鎖を引きながら振り返った。

「どういう意味だ」

「今開けば世界は壊れる」ノクトは門を見たまま言った。

「壊れた世界では、魔族も滅ぶ…今は早すぎる」


「魔王の望むものは何だ」

ノクトが少し間を置いた。

「それは——私が言うことではない」

「いずれ話せるか」

「いずれ」

それだけだった。

でも——嘘をついているとは思えなかった。


ノクトが魔力を展開した。門の回転を抑えようとしていた。

黒い光が門に絡みついた。速度が少し落ちた。

「援護する」ノクトが言った。「今だけだ」


エルクはアルテフェインを見た。

アルテフェインが叫んだ。「二人でやれ。開く者と閉じる者の意思だ。意思を示せ。」


エルクはリアを見た。

リアがエルクを見た。


言葉はなかった。

言葉が必要なかった。


二人が同時に動いた。

エルクが《残響》を全開にした。


流すのではなかった。

今度は受け取った。


門から来る全ての情報を、受け取った。

壊れなかった。


選んでいたから壊れなかった。無意識に選んでいた力が、今は意識的に動いていた。

受け取りながら、選んだ。


全部を受け取らなかった。

でも——全部を見た。


リアが手を伸ばした。

エルクも手を伸ばした。


触れた。

リアの手が、冷たかった。


光の鎖が、残響と共鳴した。

二つの力が重なった。


王家の血と、残響が、初めて同じ方向を向いた。

世界が震えた。

光が、内側へ向かって収束を始めた。



門の内部で、エルクは一人立っていた。

無数の世界が見えた。

東京の夜が見えた。

戦場が見えた。

滅びた世界が見えた。

空を飛ぶ都市が見えた。

全部が等しく、そこにあった。


門が問いかけた。

「選べ」

「どの世界を望む」

エルクは沈黙した。


無数の世界を見た。


東京の光を見た。

あの世界で生きている自分がいた。


この世界で出会った者たちがいた。

リアがいた。シュウがいた。ミレナンがいた。アルテフェインがいた。

ノクトがいた。


「まだ決めない」

エルクが言った。


・・・


門が止まった。


初めて止まった。


驚いたように、静かになった。

「俺はまだ知らない」

エルクが続けた。

「この世界も。元の世界も。何一つ、ちゃんと知らない。知らないまま選ぶのは違う」


沈黙があった。


長い沈黙だった。

「だから今は選ばない」


門が、また沈黙した。

長かった。


それから——光が、静かに落ちていった。


収束した。


小さくなった。


消えかけた。


消えなかった。


眠りに戻っていった。



現実に戻った。

空の裂け目が閉じていた。

光の柱が消えていた。

第二の門の回転が、ゆっくりと止まっていった。


裂け目が、狭くなっていった。

完全には消えなかった。


細い線のような裂け目が、一本だけ残った。

でも——暴走は止まっていた。


「防げたか」

アルテフェインが呟いた。

その顔が重かった。

防げた、と言いながら、安堵していなかった。


「先生」ミレナンが言った。「まだ何かあるんですか」

アルテフェインは答えなかった。

門を見ていた。

残った細い裂け目を見ていた。


誰も気づかなかった。


細い裂け目の向こう側で、何かがあった。


遥か遠かった。

距離、という概念が通じない場所だった。

でも——確かにあった。


王座のような形をした何かがあった。

その上に、影があった。


大きかった。

形が見えなかった。


ただ——そこにあった。


その影が動いた。

エルクの方を向いた。

視線があった。


エルクの体を、すっと何かが通り過ぎた。

《残響》が、反応した。


暴走ではなかった。

ただ——何かを感じた。

遠い何かを。


声が来た。


エルクだけに届いた。


「ようやく見つけた」

静かな声だった。


老いた声ではなかった。若い声でもなかった。

ただ——長い時間を経た声だった。


何十年も経た声だった。


裂け目が、その声の直後に、完全に閉じた。

エルクは門を見た。


光が消えていた。

輪が止まっていた。


眠っていた。


でも——声が、頭の中に残っていた。

「ようやく見つけた」

誰の声だ。


答えがなかった。

数日後、エルナトに戻った。

街は落ち着きを取り戻していた。


門の暴走の影響で壊れた建物があった。修復が始まっていた。

魔導灯が一部消えていた。新しいものに交換されていた。

賢者議会塔の壁にひびが入っていた。職人が足場を組んでいた。


光の噴水は止まっていなかった。

広場に来たとき、エルクはそれを見た。

青白い光の粒が、今日も上がって、弾けて、落ちていた。


子供たちが走り回っていた。

笑い声がした。


アルテフェインが四人を塔に呼んだ。

朝だった。

観測儀の前だった。いつもの場所だった。

「エルナト第二の門は沈静化した」

アルテフェインが言った。


「だが終わってはおらん」

地図が広げられた。


世界地図だった。


アルテフェインが北方に指を置いた。

レグルスより北だった。


ヴァルガンだった。


「昨夜、ヴァルガンの賢者から報告が来た」

全員が顔を上げた。

「ヴァルガンの門が反応を始めた」

静かになった。


リアが言った。「まさか」

アルテフェインが頷いた。「活性化だ。エルナト第二の門と同じ兆候が出ている」

「連動しているのか」エルクが言った。


「おそらく。第二の門が起動したことで、別の門が連鎖的に目を覚ます」アルテフェインが言った。

「そしておそらくライディスもすでに動いている。ノクトもだ。全員、次の目的地が同じだ」

「ヴァルガンか」

「そうだ」


シュウが天井を見た。「次は北か」

ミレナンが青ざめていた。「ヴァルガンは戦士の国です。エルナトより遥かに危険で——」

「とりあえず行くことになるな」シュウが言った。

ミレナンが「そうなりますよね」と小さく言った。


リアは地図を見ていた。

ヴァルガン。


これまで名前だけ聞いていた国だった。

北方の戦争を支えてきた国だった。魔王軍と五十年間戦い続けている国だった。

「いつ出る」リアがアルテフェインに言った。


「準備ができ次第、だが——急いだほうがいい。ヴァルガンの門が完全に起動する前に着く必要がある」

エルクは地図を見た。


ヴァルガンの位置に、アルテフェインの指があった。

その先に、門が眠っている。


声が、まだ頭の中に残っていた。

「ようやく見つけた」

何を見つけたのか。


まだわからなかった。

わからないまま、進む。

知るために。


エルクは窓の外を見た。

エルナトの空だった。

魔導灯が並んでいた。輸送艇が流れていた。普通の朝だった。


この街で知ったことがあった。

この街で出会った者がいた。

この街を離れても——ここで知ったことは、消えない。

「行こう」

エルクが言った。

その夜。

北の空に、星が出ていた。

ヴァルガンの方向だった。

雪と鉄の国だった。

城塞の国だった。

戦火の国だった。


その大地の奥深くで、何かが脈動していた。

ゆっくりと。

規則的に。

眠る門が、呼吸するように。

目覚めを待ちながら。



ーー現在わかっている情報ーー


<登場人物>

エルク

・固有能力:残響

・異世界・並行世界・過去未来の断片的情報を受信する能力。

・勇者召喚でこの世界へ来た

・元の世界ではITエンジニアだったようだ


リア・エ・アルヴェイン

・戦争を終わらせたい、勇者召喚をやめさせたいと思っている

・固有資質:門を閉じる者

・レグルス王家の血筋

・幼少期に勇者に救われた過去を持つ

・武器は大剣を使う


シュウ

・勇者召喚組。

・元小学校教師

・固有能力:レプリカ

・右手に持ったものを左手に複製する、複製したものは数秒後崩壊する


ミレナン・アーク

・エルナトの若き研究者

・アルテフェインの弟子

・少しドジ、魔法はまだ未熟。


ノクト

・魔王軍第四軍幹部

・死霊軍団を率いる

・門について深い知識を持つ

・エルクの残響に興味を持っている


ライディス

・レグルス軍務卿

・合理主義者

・勇者を兵器として扱う

・故郷滅亡と弟の死が現在の思想の原点

・門の危険性を理解


アルテフェイン

・エルナトの賢者

・上位賢者

・門研究の第一人者、門について深い知識を持つ

・ミレナンの師匠


<世界地図>


レグルス聖王国

・通称 勇者の国

・世界最大級の人間国家。

・長年に渡り魔王軍と戦い続けている

・勇者召喚を国家戦略として運用

・魔王軍との戦争維持の中心国家

・国力が高い

・軍事力が高い

・人々を守る意志が強い

・勇者を消耗品として扱う


魔導国家エルナト

通称 賢者の国

・魔法研究の中心地

・賢者評議会が国を支配、約50名の賢者が存在

・門研究の本拠地

・魔法技術が高い

・比較的平和な国


ヴァルガン王国

通称 戦士の国

・第四章の舞台となる。





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