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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

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世界の境界 (1)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

空が、裂けた。


音ではなかった。


光だった。


エルナト第二の門から伸びた光の柱が、空を縦に割った。

割れた隙間から、別の色が見えた。

この世界の空の色ではなかった。青でも黒でもなかった。

何と呼べばいいかわからない色だった。


大地が揺れた。


遺跡の壁が崩れた。


石が落ちた。


護衛賢者の一人が展開していた結界が、砕けた。砕けた結界の破片が光になって散った。

もう一人が別の結界を張り直そうとした。展開した瞬間に吹き飛んだ。


「離れろ」

アルテフェインが叫んだ。


上位賢者たちが後退した。


ミレナンが倒れかけた。シュウが腕を掴んで引き上げた。

エルクは動けなかった。

動かなかった、ではなかった。

動けなかった。


《残響》が、全開になっていた。

門から来る情報が、全部流れ込んでいた。流せなかった。量が多すぎた。



世界が見えた。


この世界だけではなかった。


無数の世界が、重なって見えた。


草原の世界。海に沈んだ世界。空を飛ぶ都市の世界。

焦土になった世界。光だけがある世界。人のいない世界。無数だった。

全部が、この一点に重なっていた。


門の内側だった。

世界と世界の接点だった。


全ての世界線が交差する場所だった。


「これが」エルクは呟いた。

「門の中心だ」


声が来た。

門の声だった。

「開け」


機械的ではなかった。

今回は違った。

意志があった。

「世界を進めろ」

「融合を恐れるな」


エルクは流れ込む情報の中で、声に向かった。

「なぜだ」

問いかけた。


門が答えた。

「停滞は滅び」

「変化こそ進化」

「世界は動かなければ死ぬ」


エルクは声を受け取った。

悪意がなかった。

門は人間を憎んでいなかった。魔族を憎んでいなかった。

ただ——価値観が違った。


人間が一つの命を大切にするように、門は世界全体を一つの命として見ていた。

世界が融合することは、死ではなかった。進化だった。


でも——その進化に巻き込まれて消える命は、ただ消えるだけだった。

「俺には賛同できない」エルクは言った。

門が沈黙した。

一瞬だけ、静かになった。

「だが——お前の意志があることは、わかった」


現実の世界で、リアが前に出た。

膝をついていた。

立ち上がった。


胸元が光っていた。

王家の紋章だった。

前回より強かった。腕だけではなかった。全身に広がっていた。

銀色の光が、リアの輪郭を縁取っていた。


上位賢者の一人が息を呑んだ。

「閉門の力——本物か」

アルテフェインが見ていた。

何も言わなかった。

見ていた。


リアの体から、光の鎖が現れた。

細い鎖だった。

でも数が多かった。

十本、二十本、増え続けた。鎖が門へ向かって伸びた。門の輪に絡みついた。


門が抵抗した。

鎖が軋んだ。


一本が砕けた。

また一本が砕けた。


門の回転が速くなった。鎖を振り払おうとしていた。

残った鎖が引っ張られた。リアの体が引かれた。一歩、前に引き寄せられた。


膝をついた。


地面に手をついた。

でも、立った。


鎖を手繰り寄せた。


「私は」

リアが言った。

声が、震えていなかった。

「もう誰も犠牲にさせない」


名前のない勇者が死んだ夜のことを思っていた。

幼い頃に城で笑い合った顔を思っていた。

記録に名前すら残らなかった者たちのことを思っていた。

「これ以上は」


「絶対に」

鎖が、増えた。



遺跡の南方、ライディスは馬の上にいた。

門からの光が空を貫いていた。


大地が揺れていた。


馬が怯えていた。御しきれなかった。降りた。地面に立った。

「閣下」側近が叫んだ。


「命令を。前進しますか」

ライディスは答えなかった。

前進できなかった。


門からの力が、波のように来ていた。

魔力ではなかった。もっと根本的な何かだった。

この世界の法則が、揺らいでいた。


兵士たちも動けていなかった。

腕が上がらなかった。

足が前に出なかった。

魔導砲の発動命令を出した術師が、命令を出したまま固まっていた。


「動けません」側近が震えた声で言った。

「体が——」

「わかっている」

ライディスは門を見た。


光の柱が空を割っていた。

世界が、今この瞬間、人間の手の届かない場所で動いていた。


ライディスはその光景を見た。

三十年間、止まったことがなかった。

迷ったことがなかった。


でも今は——動けなかった。

体が動かないのではなかった。

足が地面に根を張っていた。


この力の前で、剣を抜く意味がわからなかった。

「これは」

ライディスは小さく言った。

「戦争ではない」

側近が聞いた。

「では何ですか」

ライディスは答えなかった。


ただ、光の柱を見ていた。


世界そのものが動いていた。

自分が三十年間戦い続けてきた戦争が、どれほど小さなものかが、今この瞬間だけ、わかった。

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