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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

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開く者 (1)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~


眠れなかった。


横になった。目を閉じた。でも声が来た。


声、と呼ぶには多すぎた。


何百もの声が重なっていた。言語が違った。時代が違った。男の声、女の声、子供の声。泣いている声、叫んでいる声、何かを訴えている声。それが全部同時に来た。


《残響》が、ここ数日で明らかに強くなっていた。


エルナト第二の門が近いからかもしれなかった。リアが門を抑えた後、完全には収まっていなかった。裂け目がまだあった。そこから何かが漏れ続けていた。


エルクは起き上がった。

外へ出た。

遺跡の上部に、崩れかけた通路があった。外に出られた。夜風が来た。星が出ていた。

声が少し遠くなった。


外の空気が、《残響》の密度を下げていた。

息をついた。

「また眠れないのか」

リアだった。


通路の端に立っていた。星を見ていた。いつからいたのか、わからなかった。

「最近頭の中がうるさい」エルクが言った。

「声か」

「声だ。日に日に増えている。今は——」エルクは少し考えた。

「昔は声だけだった。今は景色も来る。未来みたいなものまで見える気がする。未来かどうかはわからないが」

リアが星を見たまま言った。「壊れていないか」

「今のところは」

「今のところ、か」

「正直に言った」

リアが少し口元を動かした。笑ったわけではなかった。でも、何かが和んだ。


「準備は整った、という声、心当たりはないのか」

「ない。門から来た。それだけわかる」

リアが振り返った。

遺跡の奥に、第二の門があった。夜でも光っていた。安定はしていた。でも消えていなかった。

「あれが呼んでいるのか」

「そう聞こえた」

リアが何か言いかけた。

その瞬間。

警報が来た。

護衛賢者の声だった。「レグルス軍です」


今回は違った。

前回は結界を叩いてきた。今回は違った。

軍勢ではなかった。

少人数だった。

十人ほどだった。でも——一人一人の動きが違った。訓練が違った。普通の兵士ではなかった。

「特殊部隊だ」エルクが言った。

「どうして分かる」シュウが言った。

「動きを見ろ。連携が違う」

護衛賢者が結界を補強した。でも特殊部隊は結界を正面から叩かなかった。迂回した。弱点を探していた。

「嫌な連中だな」シュウが言った。

「ライディスらしい」リアが言った。

「正面から来るより、弱点を突く。合理的だ」

「褒めてるのか」

「事実を言っている」

アルテフェインが後ろから来た。「結界の東側が薄い。そこを補強しろ」

護衛賢者が動いた。

その瞬間、特殊部隊が動いた。

三方向から同時に来た。

「散れ」リアが言った。


特殊部隊は強かった。

一人一人が対魔物戦だけでなく、対勇者戦の訓練を積んでいた。エルクの動きを読もうとしていた。《残響》の動きを予測しようとしていた。

「こいつら、俺たちの戦い方を知っている」シュウが言った。

「研究されている」エルクが言った。「歴代勇者のデータを集めて訓練したんだろ」

「気持ち悪いな」

「そうだな」

リアが前衛で二人を同時に相手にしていた。それでも押し返していた。シュウがレプリカを展開しながら牽制していた。ミレナンが後方から魔法で援護していた。

エルクが《残響》を使いながら指示を出していた。

それが機能していた。

でも——手数が多かった。消耗戦になっていた。


特殊部隊の一人が、何かを持ち出した。

小さな装置だった。

金属製だった。表面に魔法陣が刻まれていた。

「何だあれ」シュウが言った。

ミレナンが見た。顔色が変わった。

「形が——先生の研究室にあった資料に似ています。まさか」

装置が起動した。

青白い光が出た。

《残響》が、爆発した。


頭の中で、世界が割れた。

一つではなかった。

何百もの世界が、同時に割れた。

声が来た。声だけではなかった。景色が来た。感情が来た。記憶が来た。死の感覚が来た。絶望が来た。怒りが来た。帰りたいという叫びが来た。

全部が同時に。


エルクは膝をついた。

床に手をついた。

目が開かなかった。


「エルク」

リアの声だった。遠かった。

「エルク」

シュウの声だった。もっと遠かった。


《残響》が止まらなかった。

装置が増幅させていた。この世界中の残響の記録が、エルクに向かって流れ込んでいた。

流せ。

エルクは思った。

流れを止めるな。受け取るな。流せ。


でも——量が多すぎた。

流しきれなかった。


意識が、沈んでいった。

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