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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

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閉じる者 (2)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

リアが続けた。

「王家には、代々伝わる秘密がある」

空気が変わった。


ミレナンが手帳を取り出しかけた。エルクが目で止めた。ミレナンが手帳を仕舞った。

「門を閉じる力だ」

誰も口を挟まなかった。

「王家の本来の役目は、勇者召喚ではない。遥か昔、最初の融合期に——世界が崩壊しかけた時、門を閉じた者がいた。その血が今も続いている。それが王家だ」


アルテフェインが石板を置いた。

初めて石板から目を離した。

「知らなかった」アルテフェインが言った。

「王家の最高機密か」

「誰も知らない。王族の中でも、当主だけが知る話だ。私は父から聞いた。父が死ぬ前に」

「父上は」

「前王だ」リアが言った。


「現在の王に殺された」

部屋が静かになった。


シュウが少し前に乗り出した。「殺された、って——」

「今の王は偽物だ」リアが静かに言った。そして続けた。

「正確には——王家の血を引いてはいるが、正当な継承者ではない。前王を謀殺して即位した。そこからレグルスの軍事化が始まった」

「ライディスは」

「ライディスは知っている。全部知った上で、今の王に従っている」リアが言った。

「彼には彼の理由がある。それは否定しない。でも——正しいとは思わない」


エルクはリアを見た。

今まで断片的に見えていたものが、繋がった気がした。

リアがレグルスを追われている理由。ライディスがリアを知っている理由。異邦喰いがリアを無視する理由。

全部、繋がった。


「王家の血が門を閉じる…それは本人が意識してできることなのか」エルクが言った。

「わからない」リアが言った。


「父から聞いた話では、血が反応するとだけ聞いた。使い方は教わっていない。教わる前に、父が死んだ」

「つまりお前自身も、使えるかどうかわからない」

「そうだ」


アルテフェインが立ち上がった。

「整理する」

全員がアルテフェインを見た。


「エルクは残響を持つ。残響は門の鍵だ。門を開く側の資質だ。そして、

リアは王家の血を持つ。王家の血は門を閉じる。二者が揃って、門の制御が可能になる」アルテフェインが言った。

「偶然とは思えないな」エルクが言った。

「偶然ではないかもしれない」アルテフェインが言った。

「門が——二人を引き寄せている可能性がある」


ミレナンが手帳を取り出した。今度は止めなかった。

「まるで対になってます」ミレナンが書きながら言った。

「開く者と閉じる者。二つ揃って一つの機能が成立する」


「その可能性は高い」アルテフェインが言った。

「じゃあ、なんでライディスはリアじゃなくてエルクを優先するんだ。リアだって王家の血があるなら、門を使えるんじゃないか」」シュウが言った。

「開くためには残響が必要だからだ」アルテフェインが言った。


「閉じる力だけあっても、開けなければ意味がない。ライディスは門を開いて使おうとしている。だから残響を優先する」

「でも、もしリアの力が本物なら、俺がいても意味がない。リアが門を閉じれば終わりじゃないか」エルクが言った。


「そこが問題だ」アルテフェインが言った。

「閉じる力が発現するかどうか、まだわかっていない。リア自身も使い方を知らない。だから——今は」


そのとき。


警報が来た。


護衛賢者が走ってきた。「来ました。レグルス軍です」


遺跡の外が明るくなった。

魔導灯の光ではなかった。

魔導砲の光だった。

轟音が来た。結界が揺れた。


「散れ」リアが大剣を抜きながら言った。

全員が動いた。


護衛賢者が結界の補強に走った。アルテフェインが遺跡の中心に向かった。ミレナンが走りながら資料を抱えた。シュウが《レプリカ》の準備をした。

エルクは門の方向を見た。

第二の門が光っていた。


戦闘の振動が伝わっているのか、光が揺れていた。

「エルク、来い」リアが言った。

走った。


遺跡の入り口へ向かった。入り口に結界が張られていた。外からレグルスの魔導兵が結界を叩いていた。

結界が揺れた。

リアが前に出た。

「俺は指示を出す」エルクが言った。


「リア、右から二人が同時に突っ込もうとしている。結界が破れた瞬間が来る。その直前に——」

轟音。


結界の一部が割れた。

三人が突入してきた。


リアが最初の一人を大剣で弾いた。

エルクが二人目の動きを《残響》で読んで前に出た。短剣で狙った。

三人目がシュウの方へ向かった。シュウがレプリカの鎖で足を絡めた。


三人が止まった。


結界が再び張られた。


「持たせろ」アルテフェインが叫んだ。


「増援が来るまで持たせろ」


戦闘が続いた。

結界が何度も揺れた。その度に護衛賢者が補強した。リアが前衛で弾き続けた。

シュウが牽制した。エルクが指示を出した。ミレナンが後方から魔法を撃った。


その最中。


エルクの《残響》が反応した。


後ろから来た。

門の方向から。

振り返った。


エルナト第二の門が、光を強くしていた。

回転が速くなっていた。


「ミレナン、後ろだ」エルクが叫んだ。

ミレナンが振り返った。「門が——」


リアも振り返った。


その瞬間。


門が、さらに光を強くした。

リアが一歩、門に近づいた。

無意識だった。


リアが近づいた瞬間、門の光が変わった。


暖かくなった。

青白い光が、銀色に近い色になった。


アルテフェインが叫んだ。

「リア、離れろ」

リアが止まった。

でも遅かった。


光が、リアの体に走った。

腕だった。

細い光の線が、腕を伝った。胸元に広がった。文様だった。王家の紋章だった。


リアが自分の腕を見た。

「何だ、これは」

声が出ていた。でも動けなかった。


光が広がった。

肩に。首に。

瞳が変わった。

銀色に光った。

一瞬だけ。

でも確かに光った。


門が変わった。


暴走していた回転が、緩やかになった。


光が落ち着いた。


青白い光が、安定した。


裂け目が——狭くなった。


完全には閉じなかった。でも、広がるのが止まった。


全員が息を呑んだ。


戦闘していたレグルス兵も止まった。

遺跡全体が静かになった。


光が、リアの体から引いていった。

紋章が消えた。

瞳が戻った。

リアが膝をついた。


エルクが走った。リアの腕を掴んだ。

「大丈夫か」

「……わからない」リアが言った。

「何かが——動いた。自分の中で、何かが動いた」


アルテフェインが来た。リアの腕を見た。紋章が消えた腕を。

「証明された」老人が言った。静かに言った。


「何が」リアが言った。

「お前が閉じる者だということが」

リアが門を見た。


門はまだ光っていた。まだ動いていた。でも——安定していた。暴走していた時とは違った。

「私が…」

「血だ」アルテフェインが言った。「王家の血が、門に反応した。使い方を知らなくても——血が知っていた」


リアが立ち上がった。

エルクの手を借りて、立ち上がった。

エルクが手を離した。

リアが門を見た。

その目に、何かがあった。

怖れではなかった。

覚悟に近い何かだった。


遠くから、ライディスは見ていた。

馬の上からだった。

魔導望遠鏡を持っていた。

遺跡の方向を見ていた。


銀色の光が遺跡から上がるのが見えた。


門の暴走が収まるのが見えた。


光が消えるのが見えた。


ライディスが望遠鏡を下ろした。

側近が言った。「予想通りですか」

ライディスが少し間を置いた。

「いや」

「違うのですか」

「予想より早い」ライディスが言った。

「発現にはもっと時間がかかると思っていた」

「どういたしますか」

ライディスが前を向いた。

遺跡の方向を見た。


「今動いても得られるものが少ない。両方が揃っていない。エルクだけでも、リアだけでも、門は制御できない。二人が揃った状態で確保する必要がある」

「では」

「一度引く。」ライディスが言った。

「そして特殊部隊を出す。」

側近が頷いた。軍に撤退の命令が伝わった。

ライディスは最後に遺跡を見た。


門がまだ光っていた。

そして。

声が来た。

ライディスには聞こえなかった。


エルクだけに届いた。

「開く者よ」

声だった。

門の方向から来た声だった。

「準備は整った」

エルクが振り返った。


門があった。


銀色の光が落ち着いていた。裂け目が、わずかに残っていた。その裂け目の向こうは暗かった。

でも。


誰かがいた気がした。

向こう側に。


「エルクどうした」シュウが来た。

「声が聞こえた」エルクが言った。

「門からか」

「そうだ」

「何と言った」

エルクは少し間を置いた。


「準備は整った、と言った」

シュウが門を見た。

「何の準備だ」

エルクは答えられなかった。

答えがなかった。

門の裂け目が、静かに光っていた。

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