閉じる者 (2)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~
リアが続けた。
「王家には、代々伝わる秘密がある」
空気が変わった。
ミレナンが手帳を取り出しかけた。エルクが目で止めた。ミレナンが手帳を仕舞った。
「門を閉じる力だ」
誰も口を挟まなかった。
「王家の本来の役目は、勇者召喚ではない。遥か昔、最初の融合期に——世界が崩壊しかけた時、門を閉じた者がいた。その血が今も続いている。それが王家だ」
アルテフェインが石板を置いた。
初めて石板から目を離した。
「知らなかった」アルテフェインが言った。
「王家の最高機密か」
「誰も知らない。王族の中でも、当主だけが知る話だ。私は父から聞いた。父が死ぬ前に」
「父上は」
「前王だ」リアが言った。
「現在の王に殺された」
部屋が静かになった。
シュウが少し前に乗り出した。「殺された、って——」
「今の王は偽物だ」リアが静かに言った。そして続けた。
「正確には——王家の血を引いてはいるが、正当な継承者ではない。前王を謀殺して即位した。そこからレグルスの軍事化が始まった」
「ライディスは」
「ライディスは知っている。全部知った上で、今の王に従っている」リアが言った。
「彼には彼の理由がある。それは否定しない。でも——正しいとは思わない」
エルクはリアを見た。
今まで断片的に見えていたものが、繋がった気がした。
リアがレグルスを追われている理由。ライディスがリアを知っている理由。異邦喰いがリアを無視する理由。
全部、繋がった。
「王家の血が門を閉じる…それは本人が意識してできることなのか」エルクが言った。
「わからない」リアが言った。
「父から聞いた話では、血が反応するとだけ聞いた。使い方は教わっていない。教わる前に、父が死んだ」
「つまりお前自身も、使えるかどうかわからない」
「そうだ」
アルテフェインが立ち上がった。
「整理する」
全員がアルテフェインを見た。
「エルクは残響を持つ。残響は門の鍵だ。門を開く側の資質だ。そして、
リアは王家の血を持つ。王家の血は門を閉じる。二者が揃って、門の制御が可能になる」アルテフェインが言った。
「偶然とは思えないな」エルクが言った。
「偶然ではないかもしれない」アルテフェインが言った。
「門が——二人を引き寄せている可能性がある」
ミレナンが手帳を取り出した。今度は止めなかった。
「まるで対になってます」ミレナンが書きながら言った。
「開く者と閉じる者。二つ揃って一つの機能が成立する」
「その可能性は高い」アルテフェインが言った。
「じゃあ、なんでライディスはリアじゃなくてエルクを優先するんだ。リアだって王家の血があるなら、門を使えるんじゃないか」」シュウが言った。
「開くためには残響が必要だからだ」アルテフェインが言った。
「閉じる力だけあっても、開けなければ意味がない。ライディスは門を開いて使おうとしている。だから残響を優先する」
「でも、もしリアの力が本物なら、俺がいても意味がない。リアが門を閉じれば終わりじゃないか」エルクが言った。
「そこが問題だ」アルテフェインが言った。
「閉じる力が発現するかどうか、まだわかっていない。リア自身も使い方を知らない。だから——今は」
そのとき。
警報が来た。
護衛賢者が走ってきた。「来ました。レグルス軍です」
・
・
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遺跡の外が明るくなった。
魔導灯の光ではなかった。
魔導砲の光だった。
轟音が来た。結界が揺れた。
「散れ」リアが大剣を抜きながら言った。
全員が動いた。
護衛賢者が結界の補強に走った。アルテフェインが遺跡の中心に向かった。ミレナンが走りながら資料を抱えた。シュウが《レプリカ》の準備をした。
エルクは門の方向を見た。
第二の門が光っていた。
戦闘の振動が伝わっているのか、光が揺れていた。
「エルク、来い」リアが言った。
走った。
遺跡の入り口へ向かった。入り口に結界が張られていた。外からレグルスの魔導兵が結界を叩いていた。
結界が揺れた。
リアが前に出た。
「俺は指示を出す」エルクが言った。
「リア、右から二人が同時に突っ込もうとしている。結界が破れた瞬間が来る。その直前に——」
轟音。
結界の一部が割れた。
三人が突入してきた。
リアが最初の一人を大剣で弾いた。
エルクが二人目の動きを《残響》で読んで前に出た。短剣で狙った。
三人目がシュウの方へ向かった。シュウがレプリカの鎖で足を絡めた。
三人が止まった。
結界が再び張られた。
「持たせろ」アルテフェインが叫んだ。
「増援が来るまで持たせろ」
戦闘が続いた。
結界が何度も揺れた。その度に護衛賢者が補強した。リアが前衛で弾き続けた。
シュウが牽制した。エルクが指示を出した。ミレナンが後方から魔法を撃った。
その最中。
エルクの《残響》が反応した。
後ろから来た。
門の方向から。
振り返った。
エルナト第二の門が、光を強くしていた。
回転が速くなっていた。
「ミレナン、後ろだ」エルクが叫んだ。
ミレナンが振り返った。「門が——」
リアも振り返った。
その瞬間。
門が、さらに光を強くした。
リアが一歩、門に近づいた。
無意識だった。
リアが近づいた瞬間、門の光が変わった。
暖かくなった。
青白い光が、銀色に近い色になった。
アルテフェインが叫んだ。
「リア、離れろ」
リアが止まった。
でも遅かった。
光が、リアの体に走った。
腕だった。
細い光の線が、腕を伝った。胸元に広がった。文様だった。王家の紋章だった。
リアが自分の腕を見た。
「何だ、これは」
声が出ていた。でも動けなかった。
光が広がった。
肩に。首に。
瞳が変わった。
銀色に光った。
一瞬だけ。
でも確かに光った。
門が変わった。
暴走していた回転が、緩やかになった。
光が落ち着いた。
青白い光が、安定した。
裂け目が——狭くなった。
完全には閉じなかった。でも、広がるのが止まった。
全員が息を呑んだ。
戦闘していたレグルス兵も止まった。
遺跡全体が静かになった。
光が、リアの体から引いていった。
紋章が消えた。
瞳が戻った。
リアが膝をついた。
エルクが走った。リアの腕を掴んだ。
「大丈夫か」
「……わからない」リアが言った。
「何かが——動いた。自分の中で、何かが動いた」
アルテフェインが来た。リアの腕を見た。紋章が消えた腕を。
「証明された」老人が言った。静かに言った。
「何が」リアが言った。
「お前が閉じる者だということが」
リアが門を見た。
門はまだ光っていた。まだ動いていた。でも——安定していた。暴走していた時とは違った。
「私が…」
「血だ」アルテフェインが言った。「王家の血が、門に反応した。使い方を知らなくても——血が知っていた」
リアが立ち上がった。
エルクの手を借りて、立ち上がった。
エルクが手を離した。
リアが門を見た。
その目に、何かがあった。
怖れではなかった。
覚悟に近い何かだった。
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遠くから、ライディスは見ていた。
馬の上からだった。
魔導望遠鏡を持っていた。
遺跡の方向を見ていた。
銀色の光が遺跡から上がるのが見えた。
門の暴走が収まるのが見えた。
光が消えるのが見えた。
ライディスが望遠鏡を下ろした。
側近が言った。「予想通りですか」
ライディスが少し間を置いた。
「いや」
「違うのですか」
「予想より早い」ライディスが言った。
「発現にはもっと時間がかかると思っていた」
「どういたしますか」
ライディスが前を向いた。
遺跡の方向を見た。
「今動いても得られるものが少ない。両方が揃っていない。エルクだけでも、リアだけでも、門は制御できない。二人が揃った状態で確保する必要がある」
「では」
「一度引く。」ライディスが言った。
「そして特殊部隊を出す。」
側近が頷いた。軍に撤退の命令が伝わった。
ライディスは最後に遺跡を見た。
門がまだ光っていた。
そして。
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声が来た。
ライディスには聞こえなかった。
エルクだけに届いた。
「開く者よ」
声だった。
門の方向から来た声だった。
「準備は整った」
エルクが振り返った。
門があった。
銀色の光が落ち着いていた。裂け目が、わずかに残っていた。その裂け目の向こうは暗かった。
でも。
誰かがいた気がした。
向こう側に。
「エルクどうした」シュウが来た。
「声が聞こえた」エルクが言った。
「門からか」
「そうだ」
「何と言った」
エルクは少し間を置いた。
「準備は整った、と言った」
シュウが門を見た。
「何の準備だ」
エルクは答えられなかった。
答えがなかった。
門の裂け目が、静かに光っていた。




