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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

朝の空気が、緊張していた。


遺跡の外に出た護衛賢者が戻ってきた。足音が速かった。顔色が悪かった。

「距離が縮まっています」護衛賢者が言った。

「このままでは昼過ぎには到達します」

アルテフェインが地図を見た。遺跡の位置と、軍勢の位置を確認した。

「門の解析は中断だ。まず門を守る」アルテフェインが言った。


「守るといっても、俺たちの人数じゃ——」シュウが言った。

「エルナトへ連絡を入れている。増援が来るまで持たせる必要がある」アルテフェインが言った。

「結界を重ねる。遺跡の構造を使って守りを固める。それだけだ」


護衛賢者が動き始めた。ミレナンも手伝いに走った。

エルクは地図を見ていた。


ライディスがエルクを最優先にしている、という報告を護衛賢者から聞いていた。門よりも先に、エルクを確保しようとしている。

なぜか。

門があれば残響を使える。なら門を先に確保するはずだ。でもライディスはそうしない。

「ライディスはなぜ俺を先に狙うんだろうな」エルクが言った。

「門を持っていても使い手がいなければ意味がないからじゃないか」シュウが言った。


「鍵のない扉だ」

「そうかもしれないが——」

リアが黙っていた。

いつもと違う沈黙だった。


エルクはリアを見た。リアは地図を見ていた。地図を見ているようで、見ていなかった。

「リア」

リアが顔を上げた。

「何か知っているか」

リアが少し間を置いた。

「夜に話す」

それだけ言った。


昼間は準備で終わった。


結界を張り直した。遺跡の入り口に障害物を設置した。護衛賢者が魔導陣を組んだ。ミレナンが古代の防衛機構が残っていないか調べた。シュウが食料の確認をした。リアが遺跡の周囲の地形を確認して回った。


エルクは門を見ていた。

エルナト第二の門は、昨夜より光が強くなっていた。

回転が続いていた。

裂け目がわずかに広がっていた。


《残響》が反応していた。昨夜ほどではなかった。でも——この門から、何かが来ていた。呼んでいるような感触があった。


触れるべきではないと思った。


星門神殿で何が起きたか、わかっていた。

それでも——引き寄せられる感触があった。

「近づくな」

アルテフェインが後ろから言った。

「わかっている」

「わかっていても近づくのが、お前の問題だ」

エルクは門から離れた。


夜になった。


遺跡近くに仮設の拠点を作った。

護衛賢者たちが見張りに立った。アルテフェインが石板を読んでいた。ミレナンが手伝っていた。シュウが保存食を温めていた。

リアが遺跡の外壁に寄りかかっていた。

一人だった。

エルクが近づいた。隣に立った。

「話す」リアが言った。エルクが声をかける前に言った。


リアが外を見た。夜の森だった。月が出ていた。木々の間から月光が差し込んでいた。

「幼い頃の話だ」リアが言った。

「聞いたことはある」

「全部は話していない」

「そうだな」

リアが少し間を置いた。

「召喚された勇者がいた。まだ十代だった。名前は——今は覚えていない。名前を覚えていないのではなく、後で調べたが記録がなかった。消されていた」

「消されていた」

「城に連れてこられた日、その勇者は怯えていた。帰りたいと言っていた」リアが言った。

「兵士たちは気にしなかった。慣れていた。またいつもの新入りだ、という顔をしていた」


「でも、お前は違った」エルクは言った。


「なぜかはわからない。当時の自分が何を考えていたかは、よく覚えていない。ただ——帰りたいと泣いている人間を見て、そのまま通り過ぎることができなかった」リアが言った。


エルクは月を見た。

「城を案内した。図書室を見せた。庭を一緒に歩いた。名前を呼び合った。数ヶ月の間、城の中で会うたびに話した。笑った。怖い夢を見たと言っていた。でも少しずつ、笑う回数が増えた」

リアが続けた。

「出兵の命令が来た。その勇者も行った。行って——戻らなかった」

「戦死したのか」

「戦死したと聞かされた。だが確認できなかった。遺体もなかった。記録も残らなかった」リアが言った。


「城に残ったのは、その勇者が図書室で借りていた本だけだった。返さないまま行ってしまったから」

静かだった。


「その本は今も持っているのか」エルクが聞いた。

「持っている」

エルクは何も言わなかった。


リアが続けた。

「誰も悲しまなかった。王も悲しまなかった。将軍も悲しまなかった。次の勇者の配備を考えていた。それが当たり前だった。私が最初に怒ったのはその時だ。なぜ誰も悲しまないのか。なぜ帰してあげないのか。なぜこれを続けるのか」

「今も同じ疑問か」

「今も同じだ」リアが言った。

「ただ——理由がわかってきた。止め方も、少しだけ見えてきた」

「それが、お前が俺たちと旅をしている理由だな」

「そうだ」


シュウが保存食を持ってきた。「飯できたぞ」と言った。

三人で食べた。

食べながら、シュウが「聞いていいか」と言った。

「何だ」

「リアって、何者なんだ。本当に」

リアが少し間を置いた。

「何者、とは」

「育ちが違う感じがずっとしていた。城を知っていた。ライディスを知っていた。軍の編成を知っていた。王家に出入りしていた賢者を知っていた。普通じゃないだろ」


リアが保存食を見た。

「やっぱりか」エルクが言った。

シュウが頷いた。「だよな」

「何がやっぱりなんだ」リアが言った。


「とっくに気づいていたんだろ、二人とも」

「大体は」

リアが短く息を吐いた。


そして言った。

「私はレグルス王家の人間だ」

後ろでミレナンが資料を持って来たところだった。

止まった。

「えええええ」

遺跡に響いた。


護衛賢者が振り返った。

「声が大きい」アルテフェインが言った。

「だって王族ですよ」ミレナンが言った。


「一緒に旅してたんですよ私たち。王族と旅してたんですよ。え、本当に。本当ですか。本当ですよね」

「本当だ」リアが言った。

ミレナンが固まった。


シュウが笑い始めた。

「お前の反応が一番面白い」

「笑いごとじゃないです」ミレナンが言った。

「先生に報告しないといけないです。先生知ってたんですか。知ってたんですよね。なんで教えてくれなかったんですか先生」

「お前が聞かなかったからだ」アルテフェインが言った。石板から目を離さずに言った。

ミレナンが固まったまましばらくいた。


それから座った。

「……続けてください」

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