第二の門 (1)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~
賢者議会塔は、アルテフェインの塔より低かった。
低いが、幅があった。円形の建物だった。外壁に複数の魔法陣が刻まれていた。
入り口に二人の衛士が立っていた。黒い装備だった。魔導杖を持っていた。
ミレナンが衛士に証明書を見せた。衛士が四人を通した。
中に入ると、吹き抜けの円形広間があった。中央に大きな円卓があった。すでに人が座っていた。
十人以上いた。
全員が賢者だった。
服装がそれぞれ違った。白いローブの者。青いローブの者。刺繍の入った厚手の外套を着た者。杖を持つ者。持たない者。年齢もばらばらだった。若い者もいた。アルテフェインより老けて見える者もいた。
「星の賢者です」ミレナンが小声でエルクに教えた。
「あちらが魔導の賢者。あの方が結界の賢者。奥の方が時の賢者で——」
「全員顔と名前を一致させる必要があるか」
「今はなくていいです」
「なら今は聞かなくていい」
ミレナンが少し口をへの字にした。
アルテフェインがすでに円卓についていた。上座に近い場所だった。エルクたちが入ると、老人が顎でそばの席を示した。四人が座った。
円卓が揃った。
アルテフェインが立ち上がった。
エルクが話した。
アルテフェインが先に話すかと思っていたが、エルクに目で合図した。お前が話せ、という意味だった。
エルクは立ち上がって話した。
星門神殿のこと。
扉が開いたこと。
無数の世界を見たこと。
「世界を選べ」という声のこと。
ノクトが現れたこと。神殿が崩壊したこと。
順番に話した。
賢者たちは黙って聞いた。
途中で口を挟む者はいなかった。全員が真剣な顔をしていた。一部は手元に羊皮紙を広げて何かを書いていた。
エルクが話し終えた。
賢者たちがざわついた。
複数人が同時に話し始めた。エルナト語だった。エルクには聞き取れなかった。
ミレナンが小声で訳してくれた。
「残響が門の鍵になったのは初めての事例だと言っています」ミレナンが言った。
「あと、世界を選べという言葉の解釈について議論しています。あの方は門の意志だと言っていて、あちらの方は古代の記録の再生だと言っていて——」
「まとめると」
「みんなびっくりしています」
「わかった」
議論が続く中、一人だけ話していない賢者がいた。
円卓の端に座っていた。
他の賢者より年老いていた。アルテフェインより老けて見えた。白い眉が長かった。杖を持っていたが、立てかけたまま使っていなかった。
その老賢者が、静かに何か言った。
エルクには聞こえなかったが、他の賢者たちが静かになった。
ミレナンが訳した。
「やはり始まったか、と言っています」
「どういう意味だ」とエルクが聞いた。
ミレナンが老賢者に聞いた。老賢者が答えた。ミレナンの顔が少し変わった。
「……もっと前から知っていたと言っています。百年以上前の記録に、同じ現象が起きかけた記録があると」
「百年前にも」
「でも、その時は残響の器がいなかった。だから途中で止まったと」
エルクは老賢者を見た。老賢者もエルクを見ていた。
何かを知っている目だった。
アルテフェインが立ち上がった。議論を静めた。
「エルナト第二の門が活性化している」
アルテフェインが言った。
「星門神殿の崩壊で、連動して動き始めた。時間がない」
場の空気が変わった。
アルテフェインが地図を広げた。
円卓の上に広げた。全員が覗き込んだ。
世界地図だった。エルクが今まで見た中で最も大きな地図だった。
レグルス、エルナト、ヴァルガンだけではなかった。海があった。海の向こうに大陸があった。名前の読めない国が並んでいた。砂漠があった。氷原があった。
その地図に、印がついていた。
七か所だった。
「確認済みの門の位置だ」アルテフェインが言った。
シュウが地図を見た。
「ちょっと待て。そんな重要なもん、世界各地に放置されてるのか」シュウが言った。
「発見できないのだ」アルテフェインが言った。「門は隠れている。現れたり消えたりする。場所を変えることすらある。七か所というのは、過去に一度でも確認された数だ。現在も同じ場所にあるとは限らない」
「じゃあ今どこにあるかもわからないのか」
「大まかにはわかる。だが正確な位置は、残響で追わなければ特定できない」
シュウがエルクを見た。エルクが頷いた。
「さらに問題がある」アルテフェインが続けた。
「過去の記録によれば、門は何度か開いた可能性がある。だが——開いた記録だけが残っていて、その後どうなったかが、わからない」
「どうなったかがわからない、とは」
「記録が途切れている」アルテフェインが言った。
「記録した者が、いなくなったのかもしれない」
円卓が静かになった。
エルクは地図を見た。
七つの印が、世界に散らばっていた。
もし門が開いたなら。
世界が融合したなら。
記録した者がいなくなったのは——世界そのものが変わったからかもしれなかった。
帰れるのか。
その問いが、また頭の中に浮かんだ。
浮かんで、沈んだ。
答えが出なかった。
リアが横にいた。
エルクの顔を、ちらりと見た。
何も言わなかった。
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会議が終わったのは昼過ぎだった。
広間を出たところで、ミレナンが待っていた。
大きな本を両手で抱えていた。三冊重ねていた。抱えきれないくらいの量だった。歩きながら読んでいた。
「ミレナン」シュウが言った。
「あ、皆さん」ミレナンが顔を上げた。
足が石畳の段差につっかかった。
体が前に傾いた。
本が飛んだ。
シュウが手を出した。三冊のうち二冊をキャッチした。一冊が床に落ちた。
ミレナンが石畳に手をついた。転ばなかった。ギリギリで踏みとどまった。
「惜しかった」シュウが言った。
「今日は転びませんでした」ミレナンが立ち直りながら言った。
「転びかけた」
「転びかけただけです」
リアが落ちた一冊を拾った。ミレナンに渡した。
ミレナンが「ありがとうございます」と受け取った。
「それで。何かわかったか」エルクが言った。
「第二の門の調査隊が出ます」ミレナンが言った。
「皆さんも同行です」
シュウが少し止まった。「え、俺たち強制?」
「もちろんだ」
声がした。
振り返った。
アルテフェインが広間から出てきたところだった。
「もちろんなのか」シュウが言った。
「残響なしでは門の位置を特定できない」アルテフェインが言った。
「お前たちが必要だ。それだけだ」
シュウがエルクに小声で言った。「まぁ断れる雰囲気じゃないな」
「最初から断れない。行くって言ったしな…」エルクが返した。
リアが少し笑った。




