世界の向こう側 (1)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~
天井が落ちてきた。
石だった。人の頭より大きい石が、音もなく落ちてきた。エルクが横に跳んだ。石が床に当たって砕けた。破片が飛んだ。
「走れ」リアが言った。
走った。
神殿全体が鳴っていた。壁の内側で何かが軋んでいた。床の亀裂が広がっていた。魔法陣の光が乱れていた。点滅していた。消えかけていた。
ミレナンが走りながら叫んだ。
「出口まで持ちません」
「距離的に絶対持ちません」
「持たせろ」リアが言った。
「持たせ方がわかりません」
「黙って走れ」
「走ってます」
シュウが横で笑った。笑いながら走っていた。
「毎回こうなるな」
「笑うな」エルクが言った。
「笑わないとやってられない」
天井からもう一枚、大きな石が落ちた。
ノクトが横を走り抜けた。速かった。四人より明らかに速かった。でも、先に逃げなかった。四人の速さに合わせていた。
「前だ」ノクトが言った。
前を見た。
通路の先が、崩れていた。
大きな石が積み重なっていた。天井が落ちていた。道が塞がれていた。
ミレナンが止まった。「やっぱり持ちませんでした」
「退け」
ノクトが前に出た。
両手を前に出した。黒い光が集まった。雷が走った。重力が圧縮されるような音がした。
瓦礫が吹き飛んだ。
一瞬だった。
積み重なった石が、砕けて通路の両側へ弾け飛んだ。道が開いた。
「行け」
シュウが走りながらノクトを見た。
「お前、敵だろ」
「死なれると困る」
「なんで」
ノクトは答えなかった。
走り続けた。
シュウがエルクに小声で言った。
「何考えてるんだあいつ」
「わからない」エルクが返した。「今は走れ」
走りながら、エルクは通路の壁を見た。
崩れていない部分に、まだ文字が残っていた。ミレナンが走りながら読もうとしていた。
「読むな」エルクが言った。
「でもここの文字が——」
「後で読め」
「後には崩れてます」
「諦めろ」
ミレナンが悔しそうな顔をしながら走り続けた。
広間に出た。
大型門衛兵を倒した広間だった。天井の亀裂が、さっきより広がっていた。床の魔法陣が消えかけていた。
そこに、何かがいた。
広間の中央に、何かがいた。
大きかった。
広間いっぱいに広がるほど大きかった。石と金属でできていた。形は人型だった。でも、これまでの門衛兵とは違った。これまでのものが人の大きさなら、これは神殿の大きさだった。天井に頭が届いていた。足が床に埋まっていた。それほど大きかった。
胸部に、核があった。
これまでのものより大きかった。光が強かった。青白い光ではなく、白い光だった。眩しかった。
全員が止まった。
ノクトが、珍しく少し間を置いた。
「面倒なものを起こしたな」
感情のない声だったが、いつもより少しだけ——何かがあった。
「何だあれは」シュウが言った。
「門番機兵だ」ノクトが言った。
「神殿最深部の最終防衛機構だ。こいつが動いたということは、神殿が終わりに近い」
「倒せるのか」
「一人では難しい」
「お前が難しいのか」
「難しい」ノクトが言った。淡々と言った。嘘をついている感じではなかった。
巨大な機兵が動いた。
腕を上げた。腕だけで通路の幅があった。降ろした。床が割れた。
「逃げるのか戦うのか」リアが大剣を構えながら言った。
「どちらも試みる、逃げながら削る」ノクトが言った。
「戦い方が雑だな」
「有効だ」
機兵が動いた。
速くはなかった。大きすぎて速く動けなかった。でも一歩の幅が大きかった。距離が詰まるのは速かった。
「散れ」エルクが言った。
四人が広間を走った。ノクトが反対側へ回った。
機兵の足が広間の床に落ちた。石畳が砕けた。穴が開いた。
「ミレナン」エルクが言った。
「何かわかるか。弱点でも構造でも」
ミレナンが機兵を見ながら走っていた。資料を出していた。走りながら資料を見ていた。
「これ、星門神殿の設計図に載っています。最終防衛機構の記述が——」ミレナンが叫んだ。
「何が書いてある」
「核が三つあります。胸部、背部、頭部です。ただし——」
機兵の腕が横に薙いだ。全員が伏せた。腕が頭上を通った。
「ただし、何だ」エルクが言った。
「核に直接攻撃しても駄目です。装甲が厚すぎます。核同士を共鳴させる必要があります」
「共鳴?」
「三つの核に同時に衝撃を与えると、共鳴して過負荷が起きます。それで止まります」
「同時に三箇所か」
「同時か、ほぼ同時か。ただし——胸部と背部は同じ位置から攻撃できません。反対側から同時に当てる必要があります」
シュウが叫んだ。「聞こえた。ミレナン、頭部はどこだ」
「一番上の光っている部分です」
「わかった」
シュウが《レプリカ》を発動した。
作戦が組み上がった。
言葉にした作戦ではなかった。
全員が同時に理解した。
ノクトが機兵の背後へ回った。雷を溜め始めた。
リアが機兵の正面へ出た。大剣を構えた。
シュウが右側に走り込んだ。複製した鎖を持った。
ミレナンが安全な場所へ後退した。
エルクが《残響》を絞った。
機兵の動きの気配が来た。
次に右腕が動く。
「シュウ、右腕が来る。躱した後に頭部へ投擲しろ」
シュウが頷いた。
「リア、俺が合図したら正面の核を全力で叩け。ノクトと同時になる」
リアが頷いた。
機兵の右腕が動いた。
シュウが躱した。複製した槍を投げた。頭部の核に当たった。核が光った。
「今だ」
リアが踏み込んだ。全力で大剣を正面の核に叩き込んだ。
同時に、ノクトの雷が背部の核に当たった。
三つの核が同時に光った。
光が増した。
増した。
増した。
機兵全体が光に包まれた。
轟音がした。
機兵が止まった。
光が消えた。
巨大な体が、ゆっくりと崩れた。
崩れながら、広間の壁に倒れた。壁が崩れた。天井が落ちた。
「走れ」ノクトが言った。
走った。




