表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/143

星門神殿 (2)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

リアが前衛に出た。

最初の一体の剣を大剣で受けた。弾かなかった。受け流した。

勢いを殺して横に逸らした。昨日の星骸獣より洗練されていた。動きを見てから対応していた。


「エルク」

「見えてる」

エルクは広間全体を視野に入れた。《残響》を広げた。

十二体の動きの気配が、薄く流れ込んでくる。完全ではなかった。でも一瞬先が、わかった。


「シュウ、右の二体が同時に来る。一体目を右へ流せ。二体目は目を狙え」

シュウが右を向いた。《レプリカ》を発動した。短剣が複製された。

一体目が来た。右に躱した。流れた。

二体目の目に短剣を投げた。光が消えた。

止まった。


「ミレナン、左の三体。真ん中が先に動く。動いた瞬間に撃て」

ミレナンが左を向いた。火球を溜めた。真ん中の一体が動いた瞬間に撃った。命中した。残り二体がひるんだ。リアが来て二体を同時に薙いだ。

「リア、後ろに二体来る」

リアが振り返らずに後退した。後退しながら振り向いた。来た二体を迎え撃った。大剣が一体の核を直撃した。もう一体の剣を弾いた。


数が減っていった。

九体。六体。四体。

以前より速かった。

以前より無駄がなかった。


指示を出す前に動けている場面が増えていた。

リアは言われなくても後衛を守る位置に入った。

シュウは複製を惜しまず使った。

ミレナンは指示のタイミングを待つようになっていた。


残り二体になったとき、エルクは指示を出さなかった。

三人が自分で動いた。


リアが左を取った。シュウが右を取った。ミレナンが後方から牽制した。二体が同時に止まった。

静かになった。


「指示なしでできたな」エルクが言った。

「なんとなくわかってきた」シュウが言った。

「リアさんが動くと、自然とスペースができるんですよね」ミレナンが言った。

「それに合わせると上手くいく気がします」

リアが何も言わなかった。でも、わずかに頷いた。


奥から音がした。

重い音だった。

床が震えた。


広間の奥の壁に、亀裂が入った。

壁が割れた。内側から押し出されるように、何かが出てきた。


大型だった。

通常の門衛兵の倍はあった。四メートル近かった。

同じ形をしていたが、全身の装甲が厚かった。核も大きかった。胸部だけでなく、両肩にも副核があった。

「大型か」リアが構えを変えた。


「三つ核がある」エルクが言った。

「全部壊さないと止まらないかもしれない」

「全部壊せるか」

「試す」

大型門衛兵が動いた。

速かった。大きさの割に、速かった。


リアが前に出た。剣を大剣で受けた。

今度は受け流せなかった。

力で押された。

足が後退した。二歩、三歩。

「重い」


シュウが複製した短剣を投げた。

副核に当たった。傷がついた。

貫通しなかった。

「硬い」とシュウが言った。


「足を止める必要がある」エルクが言った。

シュウが少し考えた。

「足を止める、か」

シュウが周囲を見た。床に、倒れた門衛兵の残骸があった。

残骸の中に、鎖状の部品があった。

《レプリカ》。武器だけではなかった。


右手に鎖を持った。左手に複製された鎖が現れた。

シュウが大型門衛兵の足元に走り込んだ。


鎖を足に巻いた。複製した鎖で反対側を固定した。

大型門衛兵の足が、絡んだ。動きが鈍った。


「今だ」エルクが言った。

リアが飛び込んだ。大剣を副核に叩き込んだ。副核が割れた。

大型門衛兵がよろめいた。


「もう一方の副核、左肩」エルクが言った。

シュウが鎖を放して飛び退いた。大型門衛兵が左腕を動かした。

エルクが見えた。右に躱した。

シュウが左腕が動いた隙に左肩へ回り込んだ。

持っていた短剣を副核に刺した。副核が割れた。


大型門衛兵が速度を落とした。

でも止まらなかった。


胸部の主核がまだ光っていた。

「主核を狙う」リアが言った。

「装甲が厚い」エルクが言った。


「正面からは無理だ。背中にも核があるかもしれない——ミレナン」

「はい」


「全力で火球を胸部に当てろ。装甲を焼く。焼いてからリアが叩く」

「全力、ですか」

「全力だ。外すな」


ミレナンが両手を前に出した。

今までより大きかった。

溜めた。


大型門衛兵がミレナンを向いた。来ると気づいた。

「今」エルクが言った。

火球が飛んだ。


大型門衛兵の胸部に直撃した。

装甲が焼けた。

赤く変色した。変形した。


その瞬間、リアが全力で踏み込んだ。

大剣を両手で振り上げた。


焼けた装甲を叩いた。

装甲が割れた。主核が露出した。


リアがもう一度、全力で叩いた。

主核が砕けた。


青白い光が消えた。


大型門衛兵が止まった。


ゆっくりと、崩れた。


轟音。粉塵。


静かになった。


シュウが膝に手をついた。

「今の鎖、我ながらよかったな」

「よかった」エルクが言った。

「今思いついたんだけどな」シュウが笑った。

「もっと色々使えそうだ」

「考えながら動け」

「了解、司令」


ミレナンが手を見ていた。全力の火球を出した後の手だった。少し震えていた。

「大丈夫か」エルクが聞いた。

「大丈夫です。ただ、全力は疲れます」

「うまかった」

ミレナンが少し顔を上げた。

「本当ですか」

「本当だ」

ミレナンが眼鏡を直した。満足そうだった。


広間の奥に、通路があった。

そこを抜けると、さらに広い空間があった。

天井が、さっきの広間より高かった。

直径三十メートルはあった。円形の空間だった。中央に祭壇があった。石造りの台座だった。台座の上に、何も乗っていなかった。かつては何かが乗っていたはずだった。台座の形がそれを示していた。今は空だった。


壁面に、文字がびっしり刻まれていた。

古代語だった。

天井に、魔法陣があった。天井全体が魔法陣だった。光を放っていた。青白かった。部屋全体が、その光に満ちていた。


四人が中央に入った。

その瞬間。

エルクの頭の中で、何かが弾けた。

《残響》が、一気に広がった。


声だった。


一つではなかった。

二つではなかった。

何百もの声だった。


重なっていた。

時代が違う声が、距離が違う声が、全部同時に来た。


男の声だった。女の声だった。子供の声だった。老人の声だった。


帰りたい。

帰りたい。

助けて。

開けるな。

開けろ。

頼む。

誰か。


様々な声が、重なって、ぶつかって、混ざって、引き裂かれた。

頭が割れそうだった。


エルクが膝をついた。

「エルク」

リアの声だった。

「大丈夫か」

答えられなかった。


声が多すぎた。情報が多すぎた。一つ一つを聞き取れなかった。全部が同時に来ていた。

床に手をついた。

腕を誰かが掴んだ。


リアだった。

リアがエルクの腕を両手で掴んでいた。

引き上げようとしていた。

「立て」

「少し待ってくれ」

「待てない」

「なんで」

「倒れる前に立て」リアが言った。

「立ってから待つ」

理屈がよくわからなかったが、リアの手が腕を引いていた。

エルクは引かれるままに立ち上がった。

立ったまま、壁に寄りかかった。


リアが手を離さなかった。腕を掴んだまま、エルクの横に立った。

「声が来た」エルクは言った。

「歴代の勇者たちの声だ。帰りたい、という声と、開けるな、という声が——両方来た」


「全員の声か」

「全員かどうかはわからない。でも——大勢だ。何百人か、何千人か」


シュウが少し黙った。

「開けるな、という声のほうが多かったか」

エルクは考えた。

「わからない。どちらも同じくらい来た」

ミレナンが手帳を取り出した。書こうとした。

「今は仕舞え」エルクが言った。

「……はい」

ミレナンが手帳を閉じた。


声が少しずつ引いていった。

波が引くように、遠くなっていった。完全には消えなかった。でも収まった。

エルクは息をついた。

「大丈夫じゃない」エルクが言った。

誰も笑わなかった。

シュウが隣に来た。「座るか」

「いい。立っていられる」


リアがようやく手を離した。

離す直前に、一度だけ強く掴んだ。それだけだった。

エルクはその感触を、特に何も考えずに受け取った。

受け取ってから、少し後で、気づいた。


部屋の奥に、扉があった。

大きかった。


高さは五メートル以上あった。幅も広かった。石造りだった。表面に複雑な文様が刻まれていた。文様の中心に、文字があった。

「読めるか」エルクがミレナンに言った。


ミレナンが扉に近づいた。文字を見た。手を触れた。

しばらく読んだ。

「読めます」


「何と書いてある」

ミレナンが少し間を置いた。


「門に触れる者よ」

静かに読んだ。


「世界を選べ」

全員が黙った。


扉の前に、四人で立っていた。


世界を選べ。


その言葉が、空間に残った。

エルクの頭の中に残った。

さっきの歴代勇者の声と重なった。

帰りたい、という声と。開けるな、という声と。

世界を、選べ。


「開けるのか」シュウが言った。


「まだわからない」エルクが言った。

「アルテフェインに報告してからでも——」


パン。

パン。

パン。


拍手の音だった。


ゆっくりとした拍手だった。


全員が振り返った。

神殿の入口側、来た方向の暗がりに、人がいた。

黒い外套だった。

銀に近い色の髪だった。


金色の瞳が、暗がりの中で光っていた。

「随分早かったな」

ノクトが言った。

「器どもにしては」


シュウが言った。

「またお前か」

「また私だ」

ノクトは拍手を止めた。

腕を組んだ。全く警戒していない立ち方だった。

リアがすでに大剣に手をかけていた。ノクトはそれを見ても動じなかった。むしろ——楽しそうだった。


「戦いに来たわけではない」ノクトが言った。「見物だ」

「見物」

「お前たちがここまで来るのを待っていた。予想より早かった」

「追いかけてきたのか」

「追いかけてきたのは一度目だ」ノクトが言った。

「今回は先に来た」


エルクはノクトを見た。あの山の廃砦で初めて会ったときと、変わっていなかった。

静かだった。理知的だった。圧倒的だという感触が、この距離でもはっきりわかった。


「その扉の向こうに、門がある」ノクトが扉を見た。

「お前たちも気づいているだろう」

「気づいている」


「開けるつもりか」

「まだ決めていない」

ノクトが少し笑った。

「正直だな」


ノクトが扉を見た。その目に、何かがあった。感情ではなかった。長い時間をかけて積み上げられた、何かがあった。

「一つだけ言っておく」

ノクトが言った。

エルクを見た。

「その扉の向こうにあるものを見れば」

静かに言った。

「お前たちは二度と元には戻れない」

部屋が静かになった。


脅しではなかった。

警告でもなかった。

ただの、事実の提示だった。

神殿の灯が揺れた。


魔法陣の光が、波のように動いた。

ノクトはそれ以上何も言わなかった。

扉の前に、四人が立っていた。


ノクトが暗がりの中に立っていた。


世界を選べ、という文字が、扉の上で光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ