星門神殿 (1)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~
扉の向こうは、階段だった。
石造りの階段が、さらに下へ続いていた。幅は広かった。
天井が高かった。壁面に魔導結晶が等間隔で埋め込まれていて、青白い光を放っていた。自然の光ではなかった。何百年も前に仕掛けられた光が、今もここで灯り続けていた。
リアが先頭に立った。大剣を手に持ったまま下りた。
エルクが続いた。
ミレナンが壁を見ながら下りた。「文字があります」と言った。
「壁全体に刻まれています」
「読めるか」
「少し待ってください」ミレナンが壁に手を触れた。
「古代語です。標準的な古代語ではなくて、方言に近い表記で——」
「歩きながら読め」
「歩きながらは難しいです」
「読める部分だけでいい」
ミレナンが壁を見ながらゆっくり歩いた。
「……門の守護について書かれています。この施設は門の観測と管理のために建設された、と」
「観測と管理」
「研究施設みたいな用途だったみたいです」
エルクは階段を下りながら、壁を見た。文字は読めなかった。
でも——この場所の雰囲気が、何かに似ていた。
石と金属と、古い光と。整然と配置された構造物。用途のはっきりした設計。
「遺跡というより研究施設だな」
エルクは言った。
ミレナンが振り返った。
「研究施設、ですか」
「なんとなくそう思った」
「なぜですか」
「……わからない」
エルクは自分でもわからなかった。ただそう感じた。
《残響》が、かすかに動いていた。
断片だった。
研究室の光景だった。
モニターの光。データの並ぶ画面。
誰かと並んで何かを見ていた記憶。それがこの場所と、どこかで繋がっていた。
繋がり方が、まだわからなかった。
シュウが後ろから言った。
「深く考えるな。とりあえず下りよう」
「そうだな」
階段を下りきると、通路が続いていた。
通路の幅は三メートルほどだった。床が石畳だった。天井から魔導結晶が吊るされていた。壁に沿って、石造りの台座が並んでいた。
台座の上に、何かが乗っていた。
壊れた機械だった。
形が残っているものと、崩れたものがあった。形の残っているものを見ると、人型に近かった。腕があった。足があった。頭部に相当する部分があった。でも動いていなかった。
「古代機兵の残骸か」とシュウが言った。
「そうだと思います」ミレナンが一つに近づいた。
「胸部に核がありますが、光が消えています。機能停止しています」
「安全か」
「多分」
「多分、がまたついてるな」とシュウが言った。
「断言できないので」
リアが通路の先を見た。
「行くぞ」
四人が歩き始めた。
機兵の残骸が並ぶ通路を進んだ。足音だけが響いた。
通路が曲がった。
曲がった先に、広い空間があった。
部屋だった。
天井が高かった。壁に棚があった。棚に何かが収納されていた。石板だった。魔導結晶だった。羊皮紙ではなかった。この時代のものではなかった。もっと古い素材だった。
床の中央に、石畳のパターンが変わっている場所があった。
模様が違った。少しだけ、周囲の石と色が違った。
ミレナンが部屋に入った。
棚に近づいた。石板を一枚手に取った。
「読めます。古代語ですが、この表記なら——」
足が、何かを踏んだ。
かちり、と音がした。
全員が止まった。
ミレナンが足元を見た。
床の石畳が、少し沈んでいた。
「あ」
「動くな」リアが言った。
静止した。
天井から音がした。石が動く音だった。壁の内側で何かが動いている音だった。
「罠だ」エルクが言った。
「離れろ」
ミレナンが動こうとした。
その瞬間、壁の穴から矢が飛んできた。
大量だった。
リアが前に出た。大剣を横に構えた。矢が大剣に当たった。火花が散った。数本が床に落ちた。シュウがエルクを引っ張って壁際に寄った。
矢が止んだ。
全員、息をついた。
「ミレナン」シュウが言った。「お前——」
かちり、と音がした。
ミレナンの右足の下だった。
別の石畳が、沈んでいた。
また罠か、とエルクは思った。
しかし今度は違った。
壁の別の箇所が動いた。石板が横にずれた。その奥に、小さな装置が露出した。装置の光が消えた。
矢を放った仕掛けの、解除装置だった。
「……あれ?」ミレナンが言った。
シュウが少し黙った。
「偶然踏んだのか」
「多分」
「罠を踏んで、解除装置も踏んだのか」
「多分です」
シュウがエルクを見た。エルクが少し黙った。
「天才かもしれない」シュウが言った。
「違うと思う」リアが言った。
「違うと思います」ミレナンが言った。
二人同時だった。
ミレナンが少し困った顔をした。「あの、フォローしてほしかったんですが」
「フォローになっていないのか」シュウが言った。
「なっていないです」
「そうか」
シュウが笑い始めた。リアが先に歩き始めた。エルクがミレナンの肩を一度叩いて、通路の先へ向かった。
ミレナンが「なんだったんだ今の」と小声で言った。
誰も振り返らなかった。
通路をさらに進んだ。
二つ目の部屋。三つ目の部屋。それぞれに古い装置があった。棚があった。石板があった。ミレナンが読める部分だけ読みながら進んだ。
「この施設は三層構造になっています」ミレナンが言った。
「今いるのが第二層。門のある第三層へ行くには、中央の大扉を通る必要があります」
「大扉はどこだ」
「この先の中央広間です」
「守りはあるか」
「資料にはなかったですが——先ほどの感じだと、資料にないものが多そうで」
「正直でいい」とエルクが言った。
通路の先に、光が見えてきた。
部屋の光ではなかった。広い空間の光だった。
通路が終わった。
広間だった。
広間は高かった。
天井まで十メートル以上あった。壁面全体に魔法陣が刻まれていた。魔法陣が青白く光っていた。床も光っていた。床の中央に大きな魔法陣が描かれていた。部屋全体が発光していた。
その広間に、機兵が立っていた。
通路の残骸とは違った。動いていた。
二足歩行だった。高さは二メートルほどだった。人型だった。右手に剣を持っていた。左手に盾を持っていた。胸部に青白い核が光っていた。
一体ではなかった。
十二体が、広間に等間隔で立っていた。
四人が入ってきた気配を感じた瞬間、全員が向きを変えた。
「門衛兵か」エルクが言った。
「そう読めます」ミレナンが壁の文字を一瞥して言った。
「門を守る番兵、と」
剣を持った一体が、最初に動いた。
「散れ」リアが言った。




