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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

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星門神殿 (1)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

扉の向こうは、階段だった。


石造りの階段が、さらに下へ続いていた。幅は広かった。

天井が高かった。壁面に魔導結晶が等間隔で埋め込まれていて、青白い光を放っていた。自然の光ではなかった。何百年も前に仕掛けられた光が、今もここで灯り続けていた。


リアが先頭に立った。大剣を手に持ったまま下りた。

エルクが続いた。


ミレナンが壁を見ながら下りた。「文字があります」と言った。

「壁全体に刻まれています」

「読めるか」

「少し待ってください」ミレナンが壁に手を触れた。


「古代語です。標準的な古代語ではなくて、方言に近い表記で——」

「歩きながら読め」

「歩きながらは難しいです」

「読める部分だけでいい」


ミレナンが壁を見ながらゆっくり歩いた。

「……門の守護について書かれています。この施設は門の観測と管理のために建設された、と」

「観測と管理」

「研究施設みたいな用途だったみたいです」


エルクは階段を下りながら、壁を見た。文字は読めなかった。

でも——この場所の雰囲気が、何かに似ていた。

石と金属と、古い光と。整然と配置された構造物。用途のはっきりした設計。

「遺跡というより研究施設だな」

エルクは言った。


ミレナンが振り返った。

「研究施設、ですか」

「なんとなくそう思った」

「なぜですか」

「……わからない」

エルクは自分でもわからなかった。ただそう感じた。


《残響》が、かすかに動いていた。

断片だった。

研究室の光景だった。

モニターの光。データの並ぶ画面。

誰かと並んで何かを見ていた記憶。それがこの場所と、どこかで繋がっていた。

繋がり方が、まだわからなかった。


シュウが後ろから言った。

「深く考えるな。とりあえず下りよう」

「そうだな」


階段を下りきると、通路が続いていた。

通路の幅は三メートルほどだった。床が石畳だった。天井から魔導結晶が吊るされていた。壁に沿って、石造りの台座が並んでいた。

台座の上に、何かが乗っていた。

壊れた機械だった。

形が残っているものと、崩れたものがあった。形の残っているものを見ると、人型に近かった。腕があった。足があった。頭部に相当する部分があった。でも動いていなかった。

「古代機兵の残骸か」とシュウが言った。

「そうだと思います」ミレナンが一つに近づいた。

「胸部に核がありますが、光が消えています。機能停止しています」

「安全か」

「多分」

「多分、がまたついてるな」とシュウが言った。

「断言できないので」

リアが通路の先を見た。

「行くぞ」

四人が歩き始めた。


機兵の残骸が並ぶ通路を進んだ。足音だけが響いた。

通路が曲がった。

曲がった先に、広い空間があった。


部屋だった。

天井が高かった。壁に棚があった。棚に何かが収納されていた。石板だった。魔導結晶だった。羊皮紙ではなかった。この時代のものではなかった。もっと古い素材だった。


床の中央に、石畳のパターンが変わっている場所があった。

模様が違った。少しだけ、周囲の石と色が違った。


ミレナンが部屋に入った。

棚に近づいた。石板を一枚手に取った。

「読めます。古代語ですが、この表記なら——」


足が、何かを踏んだ。

かちり、と音がした。

全員が止まった。


ミレナンが足元を見た。

床の石畳が、少し沈んでいた。

「あ」

「動くな」リアが言った。

静止した。


天井から音がした。石が動く音だった。壁の内側で何かが動いている音だった。

「罠だ」エルクが言った。

「離れろ」

ミレナンが動こうとした。


その瞬間、壁の穴から矢が飛んできた。

大量だった。


リアが前に出た。大剣を横に構えた。矢が大剣に当たった。火花が散った。数本が床に落ちた。シュウがエルクを引っ張って壁際に寄った。


矢が止んだ。


全員、息をついた。


「ミレナン」シュウが言った。「お前——」

かちり、と音がした。


ミレナンの右足の下だった。

別の石畳が、沈んでいた。

また罠か、とエルクは思った。


しかし今度は違った。

壁の別の箇所が動いた。石板が横にずれた。その奥に、小さな装置が露出した。装置の光が消えた。

矢を放った仕掛けの、解除装置だった。


「……あれ?」ミレナンが言った。

シュウが少し黙った。

「偶然踏んだのか」

「多分」

「罠を踏んで、解除装置も踏んだのか」

「多分です」

シュウがエルクを見た。エルクが少し黙った。

「天才かもしれない」シュウが言った。

「違うと思う」リアが言った。

「違うと思います」ミレナンが言った。

二人同時だった。


ミレナンが少し困った顔をした。「あの、フォローしてほしかったんですが」

「フォローになっていないのか」シュウが言った。

「なっていないです」

「そうか」

シュウが笑い始めた。リアが先に歩き始めた。エルクがミレナンの肩を一度叩いて、通路の先へ向かった。

ミレナンが「なんだったんだ今の」と小声で言った。

誰も振り返らなかった。


通路をさらに進んだ。

二つ目の部屋。三つ目の部屋。それぞれに古い装置があった。棚があった。石板があった。ミレナンが読める部分だけ読みながら進んだ。

「この施設は三層構造になっています」ミレナンが言った。


「今いるのが第二層。門のある第三層へ行くには、中央の大扉を通る必要があります」

「大扉はどこだ」

「この先の中央広間です」

「守りはあるか」

「資料にはなかったですが——先ほどの感じだと、資料にないものが多そうで」

「正直でいい」とエルクが言った。


通路の先に、光が見えてきた。

部屋の光ではなかった。広い空間の光だった。


通路が終わった。

広間だった。


広間は高かった。

天井まで十メートル以上あった。壁面全体に魔法陣が刻まれていた。魔法陣が青白く光っていた。床も光っていた。床の中央に大きな魔法陣が描かれていた。部屋全体が発光していた。

その広間に、機兵が立っていた。


通路の残骸とは違った。動いていた。

二足歩行だった。高さは二メートルほどだった。人型だった。右手に剣を持っていた。左手に盾を持っていた。胸部に青白い核が光っていた。


一体ではなかった。

十二体が、広間に等間隔で立っていた。


四人が入ってきた気配を感じた瞬間、全員が向きを変えた。

「門衛兵か」エルクが言った。

「そう読めます」ミレナンが壁の文字を一瞥して言った。

「門を守る番兵、と」


剣を持った一体が、最初に動いた。

「散れ」リアが言った。

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