星見の谷 (2)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~
リアが前に出た。
大剣を両手で構えた。最初の一体が跳んできた。
リアが横に捌いた。
大剣が金属の胴を叩いた。火花が散った。一体が吹き飛んだ。
「硬い」リアが言った。
次の二体が同時に来た。リアが右を斬った。
左を蹴った。蹴った方が石畳の上を転がった。起き上がった。
数が多かった。
「シュウ、左」エルクが言った。
シュウが振り返った。二体来ていた。
シュウが腰の短剣を抜いた。《レプリカ》を発動した。右手の短剣が、左手に複製された。二刀が光った。
シュウが踏み込んだ。
右で一体の首を狙った。硬かった。首は切れなかった。
でも勢いが殺せた。
左で目の部分を突いた。青白い光が消えた。一体が動かなくなった。
「効くじゃないか」シュウが言った。
「目を狙え」エルクが言った。
「光が消えれば止まる」
「わかった」
ミレナンが後ろで魔法の準備をしていた。
両手の間に、橙色の光が集まっていた。
火球だった。狙いを定めていた。
三体が同時にミレナンに向かった。
「右」エルクが言った。
「え?」
「右から一体来る。今撃て」
ミレナンが右に向けた。
火球が飛んだ。
命中した。
石と金属でできた胴体が弾け飛んだ。残った二体がひるんだ。
「当たった」ミレナンが言った。驚いていた。
「当然だ。俺が言ったタイミングで撃てば当たる」
「なんで分かるんですか」
「動きが読める」エルクが言った。
「撃つタイミングを言う。お前は指示通りに撃て」
「……はい」
エルクは戦場全体を見ていた。
《残響》が静かに動いていた。暴走ではなかった。
敵の動きが、少し先まで見えていた。完全な未来予知ではなかった。
でも——どこに向かうか、次に何をするかの気配が、薄く流れ込んでくる感触があった。
「リア、右後方」
リアが振り返らずに後ろへ大剣を振った。
背後から来ていた一体が、大剣に当たって吹き飛んだ。
「シュウ、二体左から来る。一体目は躱せ。二体目の目を狙え」
シュウが左を向いた。一体目が来た。躱した。二体目が来た。短剣を目に刺した。光が消えた。
「ミレナン、正面三体。真ん中に撃て」
火球が飛んだ。真ん中の一体が爆散した。残り二体がひるんだ。
リアが走り込んで二体を同時に叩いた。
数が減っていった。
十体。七体。四体。二体。
最後の一体が、エルクに向かってきた。
エルクは短剣を抜いた。一体が跳んだ。エルクが横に動いた。
着地した瞬間に目を突いた。
光が消えた。
静かになった。
シュウが息をついた。
「今の俺たち、結構やるな」
リアが大剣を下ろした。
「まあまあだ」
「まあまあ!?」
「褒めた」
ミレナンが手を見ていた。まだ火球の余熱が残っていた。
「私、当たりましたよね。複数回」
誰も答えなかった。
「当たりましたよね」
「当たった」エルクが言った。
「ありがとうございます。エルクさんがタイミングを言ってくれたので」
「次は自分で当てろ」
「頑張ります」
休む間もなかった。
地面が、また割れた。
今度は一ヶ所だった。
神殿の中央、石畳の最も大きな石の下から、何かが出てきた。
大きかった。
出てくるのに時間がかかった。
三メートルはあった。石ではなかった。
金属だった。黒みがかった金属の塊が、人型をしていた。
騎士の形をしていた。頭があった。肩があった。腕があった。足があった。右手に剣を持っていた。剣だけで一メートル以上あった。
「でかい」シュウが言った。
胸の部分に、文字が刻まれていた。
ミレナンが青い顔で読んだ。「星骸王……グィウス」
「名前があるのか」
「古代の番人です。最上位の守護兵器です。こんなの聞いていませんでした、絶対に」
グィウスが剣を持ち上げた。
速かった。
その大きさで、速かった。
剣が振り下ろされた。エルクが跳んで避けた。石畳が砕けた。石の破片が飛んだ。
リアが前に出た。大剣を構えた。
グィウスが剣を横に薙いだ。
リアが大剣で受けた。
弾かれた。
リアが後退した。三歩、四歩。
「強い」リアが言った。感想ではなかった。本気の声だった。
シュウが《レプリカ》を発動した。短剣を複製した。投げた。
グィウスの頭部に当たった。弾かれた。
傷もつかなかった。
「効かない」
「目を狙え」エルクが言った。
「雑魚と同じだ」
シュウが目を狙った。短剣を投げた。
グィウスが頭を動かした。避けた。
「避けるじゃないか」
「外側からは無理だ」
「じゃあどうする」
エルクは《残響》に集中した。
流れ込んでくるものを、意図的に広げた。
来た。
古い情報だった。この場所で起きた過去の戦闘の記録だった。誰かがここで戦った。同じ相手と戦った。その記録が、薄く流れ込んできた。
弱点があった。
左肩だった。
左肩の継ぎ目に、製造上の欠陥がある。
そこに強い衝撃を与えれば、腕が外れる。動きが鈍る。
「リア」エルクが言った。
「聞こえている」
「左肩が弱点だ。継ぎ目を狙え」
「距離が要る」
「わかってる。作る」
エルクがグィウスの正面に出た。
グィウスの目がエルクを向いた。剣が振り上がった。
「ミレナン」
「はい」
「リアが踏み込む直前に、リアの背中に風を当てろ。加速させる」
「風魔法ですか。精度が——」
「リアの背中だけでいい。大きく外れても構わない。前だけに向けろ」
「……やります」
グィウスの剣が振り下ろされた。エルクが左に跳んだ。剣が地面に刺さった。石畳が割れた。
グィウスが剣を引き抜こうとした。
一瞬、止まった。
「今だ」
リアが走った。
ミレナンが両手を前に出した。風が出た。細い風だった。精度は低かった。でもリアの背中に当たった。
速度が上がった。
リアがグィウスの懐に飛び込んだ。
大剣を左肩の継ぎ目に叩き込んだ。
金属が軋んだ。
継ぎ目が歪んだ。
グィウスの左腕が、不自然な角度に曲がった。
動きが止まった。
「シュウ」エルクが言った。
シュウがすでに動いていた。《レプリカ》で槍を複製していた。
腰の短剣ではなかった。地面に落ちていた雑魚の残骸から、金属の破片を拾って複製していた。
槍が三本、連続でグィウスの左肩に刺さった。
継ぎ目が広がった。
内部が見えた。青白く光る球体があった。
核だった。
「エルク」リアが言った。
「わかってる」
エルクは《残響》を絞った。
グィウスの次の動きが来た。右腕で払う。タイミングがわかった。
「リア、払いが来る。左に躱して即踏み込め」
リアが構えを変えた。
グィウスの右腕が動いた。リアが左に躱した。グィウスの右腕が空を切った。
その瞬間、リアが踏み込んだ。
大剣を全力で振った。
核に当たった。
青白い光が弾けた。
グィウスが止まった。
右腕が落ちた。左腕がすでに動いていなかった。
足が折れた。巨体が崩れた。
轟音とともに、グィウスが倒れた。
石畳が割れた。粉塵が上がった。
静かになった。
四人は立っていた。
全員、息が上がっていた。
しばらく誰も何も言わなかった。
粉塵が晴れていった。倒れたグィウスが見えた。
動いていなかった。核の光が消えていた。
シュウが膝に手をついた。
「今の俺たち、結構強くね?」
リアが大剣を収めた。
「少しだけな」
「少しだけって言い方」
「以前より少しだけ強い、という意味だ」
「褒め方が渋すぎる」
ミレナンが自分の手を見ていた。風魔法が成功した手だった。
「私も活躍しましたよね」
シュウが水筒を取り出した。リアが岩に腰を下ろした。エルクが粉塵の落ち着いた空間を見回した。
「しましたよね」
ミレナンが繰り返した。
「した」エルクが言った。
「ありがとうございます」
「次は指示なしで当てろ」
「頑張ります」ミレナンが言った。
それから少し間を置いた。
「……一言くらい、すごかったとか言ってもらえませんか」
シュウが水を飲みながら
「すごかったよ」と言った。
ミレナンが「シュウさんありがとうございます」と言った。
眼鏡を直した。少し嬉しそうだった。
リアが岩の上から立ち上がった。
「行くぞ」
「休憩は」とシュウが言った。
「ここで止まる理由がない」
シュウが立ち上がった。
「まあそうだな」
・
・
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四人が神殿の奥へ進んだ。
グィウスが出てきた穴を避けて、崩れた柱の間を歩いた。神殿の床に、魔法陣が刻まれていた。古代語だった。ミレナンが読みながら歩いた。
「この先に、階段があります。地下へ続いています」
「見えてる」リアが言った。
石造りの階段だった。幅は広かった。一度に三人が並んで下りられた。階段の両側に、魔導結晶が等間隔で埋め込まれていた。結晶が薄く光っていた。自動で灯る仕組みらしかった。
下りながら、エルクは《残響》に耳を傾けた。
深くなるにつれて、強くなっていた。
暴走ではなかった。
でも——確実に強くなっていた。この場所が何かを持っている。
長い時間をかけて積み上げられた何かが、地下に眠っている。
その感触が、足を踏み出すたびに濃くなった。
階段を下りきった。
通路があった。石造りの通路だった。幅は二メートルほどだった。天井が低かった。魔導結晶が光り続けていた。
通路の奥に、光があった。
青白い光だった。
結晶の光ではなかった。それより強かった。それより深い色だった。
《残響》が、強く動いた。
声が来た。
今まで聞いたことのない声だった。性別がわからなかった。年齢がわからなかった。この世界の声なのかどうかも、わからなかった。
「来い」
声が言った。
「門はここだ」
エルクは止まった。
後ろの三人も止まった。
「エルク?」リアが言った。
「聞こえたか」エルクが言った。
「何が」
「声だ」
リアが首を振った。
「聞こえていない」
シュウも首を振った。ミレナンも。
エルクだけだった。
エルクだけに届いていた。
通路の奥を見た。
青白い光が、壁の向こうから漏れていた。通路の先に、扉があった。石の扉だった。扉の表面に、魔法陣が刻まれていた。光の源は、その扉の向こうだった。
ミレナンが小声で言った。
「見つけました……」
リアが前を向いた。
「行くぞ」
エルクは扉を見た。
《残響》が、今までで一番強く鳴っていた。
向こう側が、呼んでいた。
自分を呼んでいた。
名前を知っているかのように、呼んでいた。
エルクは一歩踏み出した。
扉が、近づいた。




