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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第三章 賢者の国

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星見の谷 (2)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

リアが前に出た。


大剣を両手で構えた。最初の一体が跳んできた。

リアが横に捌いた。

大剣が金属の胴を叩いた。火花が散った。一体が吹き飛んだ。

「硬い」リアが言った。


次の二体が同時に来た。リアが右を斬った。

左を蹴った。蹴った方が石畳の上を転がった。起き上がった。


数が多かった。


「シュウ、左」エルクが言った。


シュウが振り返った。二体来ていた。

シュウが腰の短剣を抜いた。《レプリカ》を発動した。右手の短剣が、左手に複製された。二刀が光った。


シュウが踏み込んだ。


右で一体の首を狙った。硬かった。首は切れなかった。

でも勢いが殺せた。

左で目の部分を突いた。青白い光が消えた。一体が動かなくなった。


「効くじゃないか」シュウが言った。

「目を狙え」エルクが言った。


「光が消えれば止まる」

「わかった」


ミレナンが後ろで魔法の準備をしていた。

両手の間に、橙色の光が集まっていた。

火球だった。狙いを定めていた。


三体が同時にミレナンに向かった。


「右」エルクが言った。

「え?」

「右から一体来る。今撃て」

ミレナンが右に向けた。


火球が飛んだ。


命中した。


石と金属でできた胴体が弾け飛んだ。残った二体がひるんだ。

「当たった」ミレナンが言った。驚いていた。

「当然だ。俺が言ったタイミングで撃てば当たる」


「なんで分かるんですか」

「動きが読める」エルクが言った。


「撃つタイミングを言う。お前は指示通りに撃て」

「……はい」


エルクは戦場全体を見ていた。


《残響》が静かに動いていた。暴走ではなかった。

敵の動きが、少し先まで見えていた。完全な未来予知ではなかった。

でも——どこに向かうか、次に何をするかの気配が、薄く流れ込んでくる感触があった。


「リア、右後方」

リアが振り返らずに後ろへ大剣を振った。


背後から来ていた一体が、大剣に当たって吹き飛んだ。


「シュウ、二体左から来る。一体目は躱せ。二体目の目を狙え」

シュウが左を向いた。一体目が来た。躱した。二体目が来た。短剣を目に刺した。光が消えた。


「ミレナン、正面三体。真ん中に撃て」

火球が飛んだ。真ん中の一体が爆散した。残り二体がひるんだ。


リアが走り込んで二体を同時に叩いた。


数が減っていった。


十体。七体。四体。二体。


最後の一体が、エルクに向かってきた。

エルクは短剣を抜いた。一体が跳んだ。エルクが横に動いた。

着地した瞬間に目を突いた。


光が消えた。


静かになった。


シュウが息をついた。

「今の俺たち、結構やるな」

リアが大剣を下ろした。

「まあまあだ」

「まあまあ!?」

「褒めた」


ミレナンが手を見ていた。まだ火球の余熱が残っていた。

「私、当たりましたよね。複数回」


誰も答えなかった。

「当たりましたよね」


「当たった」エルクが言った。

「ありがとうございます。エルクさんがタイミングを言ってくれたので」


「次は自分で当てろ」

「頑張ります」



休む間もなかった。


地面が、また割れた。


今度は一ヶ所だった。


神殿の中央、石畳の最も大きな石の下から、何かが出てきた。


大きかった。

出てくるのに時間がかかった。


三メートルはあった。石ではなかった。

金属だった。黒みがかった金属の塊が、人型をしていた。

騎士の形をしていた。頭があった。肩があった。腕があった。足があった。右手に剣を持っていた。剣だけで一メートル以上あった。


「でかい」シュウが言った。

胸の部分に、文字が刻まれていた。

ミレナンが青い顔で読んだ。「星骸王……グィウス」


「名前があるのか」

「古代の番人です。最上位の守護兵器です。こんなの聞いていませんでした、絶対に」


グィウスが剣を持ち上げた。

速かった。

その大きさで、速かった。


剣が振り下ろされた。エルクが跳んで避けた。石畳が砕けた。石の破片が飛んだ。


リアが前に出た。大剣を構えた。

グィウスが剣を横に薙いだ。

リアが大剣で受けた。


弾かれた。


リアが後退した。三歩、四歩。


「強い」リアが言った。感想ではなかった。本気の声だった。


シュウが《レプリカ》を発動した。短剣を複製した。投げた。

グィウスの頭部に当たった。弾かれた。

傷もつかなかった。


「効かない」

「目を狙え」エルクが言った。

「雑魚と同じだ」


シュウが目を狙った。短剣を投げた。

グィウスが頭を動かした。避けた。


「避けるじゃないか」

「外側からは無理だ」

「じゃあどうする」

エルクは《残響》に集中した。


流れ込んでくるものを、意図的に広げた。


来た。


古い情報だった。この場所で起きた過去の戦闘の記録だった。誰かがここで戦った。同じ相手と戦った。その記録が、薄く流れ込んできた。


弱点があった。

左肩だった。

左肩の継ぎ目に、製造上の欠陥がある。

そこに強い衝撃を与えれば、腕が外れる。動きが鈍る。


「リア」エルクが言った。

「聞こえている」

「左肩が弱点だ。継ぎ目を狙え」

「距離が要る」

「わかってる。作る」


エルクがグィウスの正面に出た。

グィウスの目がエルクを向いた。剣が振り上がった。


「ミレナン」

「はい」

「リアが踏み込む直前に、リアの背中に風を当てろ。加速させる」

「風魔法ですか。精度が——」

「リアの背中だけでいい。大きく外れても構わない。前だけに向けろ」

「……やります」


グィウスの剣が振り下ろされた。エルクが左に跳んだ。剣が地面に刺さった。石畳が割れた。


グィウスが剣を引き抜こうとした。

一瞬、止まった。


「今だ」

リアが走った。


ミレナンが両手を前に出した。風が出た。細い風だった。精度は低かった。でもリアの背中に当たった。


速度が上がった。


リアがグィウスの懐に飛び込んだ。

大剣を左肩の継ぎ目に叩き込んだ。

金属が軋んだ。


継ぎ目が歪んだ。


グィウスの左腕が、不自然な角度に曲がった。

動きが止まった。


「シュウ」エルクが言った。

シュウがすでに動いていた。《レプリカ》で槍を複製していた。

腰の短剣ではなかった。地面に落ちていた雑魚の残骸から、金属の破片を拾って複製していた。


槍が三本、連続でグィウスの左肩に刺さった。


継ぎ目が広がった。


内部が見えた。青白く光る球体があった。


核だった。


「エルク」リアが言った。

「わかってる」

エルクは《残響》を絞った。

グィウスの次の動きが来た。右腕で払う。タイミングがわかった。


「リア、払いが来る。左に躱して即踏み込め」


リアが構えを変えた。


グィウスの右腕が動いた。リアが左に躱した。グィウスの右腕が空を切った。


その瞬間、リアが踏み込んだ。

大剣を全力で振った。


核に当たった。

青白い光が弾けた。


グィウスが止まった。


右腕が落ちた。左腕がすでに動いていなかった。

足が折れた。巨体が崩れた。


轟音とともに、グィウスが倒れた。

石畳が割れた。粉塵が上がった。


静かになった。


四人は立っていた。


全員、息が上がっていた。

しばらく誰も何も言わなかった。


粉塵が晴れていった。倒れたグィウスが見えた。

動いていなかった。核の光が消えていた。


シュウが膝に手をついた。

「今の俺たち、結構強くね?」

リアが大剣を収めた。

「少しだけな」

「少しだけって言い方」

「以前より少しだけ強い、という意味だ」

「褒め方が渋すぎる」

ミレナンが自分の手を見ていた。風魔法が成功した手だった。

「私も活躍しましたよね」

シュウが水筒を取り出した。リアが岩に腰を下ろした。エルクが粉塵の落ち着いた空間を見回した。

「しましたよね」

ミレナンが繰り返した。


「した」エルクが言った。


「ありがとうございます」

「次は指示なしで当てろ」

「頑張ります」ミレナンが言った。

それから少し間を置いた。

「……一言くらい、すごかったとか言ってもらえませんか」


シュウが水を飲みながら

「すごかったよ」と言った。


ミレナンが「シュウさんありがとうございます」と言った。

眼鏡を直した。少し嬉しそうだった。


リアが岩の上から立ち上がった。

「行くぞ」


「休憩は」とシュウが言った。

「ここで止まる理由がない」

シュウが立ち上がった。

「まあそうだな」


四人が神殿の奥へ進んだ。


グィウスが出てきた穴を避けて、崩れた柱の間を歩いた。神殿の床に、魔法陣が刻まれていた。古代語だった。ミレナンが読みながら歩いた。

「この先に、階段があります。地下へ続いています」

「見えてる」リアが言った。


石造りの階段だった。幅は広かった。一度に三人が並んで下りられた。階段の両側に、魔導結晶が等間隔で埋め込まれていた。結晶が薄く光っていた。自動で灯る仕組みらしかった。


下りながら、エルクは《残響》に耳を傾けた。

深くなるにつれて、強くなっていた。


暴走ではなかった。

でも——確実に強くなっていた。この場所が何かを持っている。

長い時間をかけて積み上げられた何かが、地下に眠っている。

その感触が、足を踏み出すたびに濃くなった。


階段を下りきった。


通路があった。石造りの通路だった。幅は二メートルほどだった。天井が低かった。魔導結晶が光り続けていた。


通路の奥に、光があった。

青白い光だった。

結晶の光ではなかった。それより強かった。それより深い色だった。


《残響》が、強く動いた。


声が来た。

今まで聞いたことのない声だった。性別がわからなかった。年齢がわからなかった。この世界の声なのかどうかも、わからなかった。


「来い」

声が言った。


「門はここだ」

エルクは止まった。


後ろの三人も止まった。

「エルク?」リアが言った。

「聞こえたか」エルクが言った。

「何が」

「声だ」

リアが首を振った。

「聞こえていない」

シュウも首を振った。ミレナンも。


エルクだけだった。

エルクだけに届いていた。


通路の奥を見た。


青白い光が、壁の向こうから漏れていた。通路の先に、扉があった。石の扉だった。扉の表面に、魔法陣が刻まれていた。光の源は、その扉の向こうだった。


ミレナンが小声で言った。

「見つけました……」


リアが前を向いた。

「行くぞ」


エルクは扉を見た。

《残響》が、今までで一番強く鳴っていた。


向こう側が、呼んでいた。

自分を呼んでいた。


名前を知っているかのように、呼んでいた。


エルクは一歩踏み出した。


扉が、近づいた。


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