勇者A-271 (2)
ちょっぴりダークな異世界転生ファンタジー。
勇者は一人ではない。
番号を与えられ、量産され、戦場へ送られる世界。
“勇者A”と呼ばれた少年は、
モブのまま消えていくのか。
それとも・・・英雄になるのか。
『異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~』
開幕です。
「A-271……って、なんだよそれ」
誰かが小さく呟いた。
広間の空気が、少しだけ緩む。
「なんかゲームみたいじゃね?」
「つーか普通、勇者って名前で呼ばれないの?」
「まあ、ここ異世界だし、そういうもんなのかな?」
召喚された若者たちは、戸惑いながらもどこか浮き足立っていた。
無理もない。
巨大な魔法陣。
豪奢な城。
魔法。
王族。
現実離れした光景に、恐怖より興奮が勝っているのだろう。
実際、法衣の男が適性を読み上げるたび、あちこちで歓声が上がっていた。
「俺、剣術適性Aだった!」
「僕は魔力量B判定、残念だな。」
「風属性持ちか、当たりだな!」
まるで新しいソシャゲのガチャだった。
エルクは、その輪に入れなかった。
騒がしい空気の中にいても、自分だけ別の場所に立っているような感覚があった。
理由はわからない。
ただ、落ち着かなかった。
広間を囲む騎士たちの目。
王族たちの無表情。
そして、“勇者A-271”という番号。
頭の奥に、嫌な引っ掛かりが残っていた。
「おい、お前」
突然、肩を叩かれる。
振り向くと、茶髪の青年が立っていた。
年齢は二十歳前後だろうか。軽薄そうな笑みを浮かべている。
「お前もA?」
男は手首の金属札を見せた。
『A-244』
乱雑に刻まれた番号。
「俺、シュウ。よろしくな。」
「ああ……エルクだ」
「エルク? お、ちゃんと名前あんのか」
シュウは笑った。
だがその直後、近くにいた兵士が低い声で言う。
「私語は慎め」
一瞬で空気が冷える。
シュウは肩を竦め、小声で呟いた。
「なんか怖ぇな、この国」
その言葉に、エルクは小さく頷いた。
怖い。
確かにそうだった。
歓迎されているはずなのに、誰一人として笑っていない。
王も。
騎士も。
魔術師たちも。
彼らが見ているのは、“勇者”ではない。
もっと別の何かだ。
「A組はこっちだ! 移動しろ!」
兵士たちが怒鳴る。
召喚された若者たちは慌てて列を作り始めた。
鎧の擦れる音。
怒号。
足音。
重苦しい空気のまま、一行は広間を後にする。
通されたのは、地下へ続く長い石造りの通路だった。
壁には一定間隔で燭台が並び、赤い炎がぼんやりと揺れている。
湿った冷気が肌にまとわりつき、鉄錆のような臭いが鼻を刺した。
誰かが小声で言う。
「なあ、地下ってなんか嫌じゃね?」
「わかる……」
兵士たちは無言だった。
ただ槍を持ち、前だけを見て歩いている。
エルクは視線を巡らせる。
石壁。
鉄格子。
閉ざされた扉。
そのどれもが古く、薄汚れていた。
とても勇者を迎える場所には思えない。
やがて列が止まる。
「ここで待機だ」
兵士の声。
通されたのは薄暗い待機室だった。
石造りの粗末な部屋。
長椅子が並び、壁際には木箱が積まれている。
何人かの勇者たちは不満そうな顔をした。
「え、ここ?」
「もっとこう……あるだろ、勇者っぽい部屋」
「王宮とかじゃねぇの?」
兵士は答えない。
無機質な目で一同を見回すだけだった。
エルクは壁にもたれ、小さく息を吐く。
その時だった。
――ギィ……。
どこかで、重い扉の開く音がした。
エルクは顔を上げる。
待機室の奥。
半開きになった鉄扉の向こうから、白い光が漏れていた。
兵士たちは気づいていない。
エルクは無意識に立ち上がっていた。
吸い寄せられるように鉄扉へ近づく。
冷たい鉄を押す。
隙間から、さらに奥へ続く通路が見えた。
薄暗い。
嫌な静けさだった。
エルクは少しだけ迷い、それでも足を踏み入れる。
石畳に足音が響く。
奥へ進むほど、空気が冷たくなっていく。
そして。
鉄臭かった。
血の臭い。
思わず顔をしかめた瞬間。
視界の先に、白い布が見えた。
床に並べられた、いくつもの白布。
その数は一つや二つではない。
十。
二十。
もっと。
エルクの喉が鳴る。
ゆっくり近づく。
白布の隙間から、青白い手が覗いていた。
若い男の手だった。
その手首には、金属タグが括り付けられている。
『A-198』
「えっ?」
エルクの呼吸が止まる。
さらに隣。
『A-052』
『A-311』
『A-087』
番号。
全部、“A”。
頭の奥で、嫌な音が鳴った。
理解したくなかった。だが理解してしまう。
勇者Aは、大量にいる。
そして、
何人も死んでいる。
「何をしている」
低い声。
エルクは反射的に振り返った。
通路の入口に、白銀鎧の騎士が立っていた。
兜の奥の視線が、氷のように冷たい。
「……見たのか」
騎士は静かに呟く。
その瞬間。
白布の奥から、ぽたり、と赤黒い血が床へ落ちた。
エルクの背筋を、冷たいものが走る。
騎士はゆっくり槍を構えた。
「戻れ、勇者A-271」
その呼び方が、人間に向けるものではない気がした。
ーー現在分かっている情報ーー
登場人物
No.A-244
名前:シュウ
性別:男
年齢:21




