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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

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ただいま(4)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~

翌日、復興祭が終わり、エルクは一人で、丘へ登った。


ここは、かつて、門があった場所だった。


今は、石畳の跡だけが残っていた。


草が、少しずつ、その隙間を埋めていた。


夕暮れが、近づいていた。


空が、橙色に、染まり始めていた。


亀裂のない、完全な空だった。


エルクは、丘の上に立って、その空を見た。


《残響》を、静かに、開いた。


世界の声が、流れ込んできた。


門の声。

大地の声。

風の声。


そして——


気配が、あった。


いつもの気配だった。


三年間、ずっと続いている、その気配だった。


しかし、今日は、違った。


「……近い」


エルクが、呟いた。


これまでで、最も、近かった。


これまでは、遠くの灯りを眺めるような感覚だった。


しかし今は——


手を伸ばせば、届きそうな距離だった。


エルクは、魔導双眼鏡を取り出した。


空へ向けた。


何気なく、空を見た。


魔力が見えた。

風の流れが見えた。

精霊の光が見えた。


その中に——


見覚えのある光が、あった。


「——っ」


双眼鏡が、止まった。


空間が、わずかに、揺れていた。


一筋の光が、静かに、現れていた。


小さかった。


これまで見てきた門とは、まるで違う、小さな光だった。


しかし、確かに、そこに、あった。


静かに、開いていた。


エルクは、双眼鏡を下げた。


走った。


丘の上を、光の方へ向かって、走った。


草を踏んで、走った。


息が上がった。


それでも、走った。


光の前に立った。


《残響》が、最大まで、広がった。


世界の声が、一度に、流れ込んできた。


その中に——


声が、あった。


気配ではなく、確かな声だった。


「ただいまと言いに戻る」


三年間、聞き続けてきた言葉だった。


しかし今日は、違った。


これまでとは、まったく違った。


隣で言っているような、大きさで、聞こえた。


エルクの目が、光へ向かった。


光が、広がっていた。


人の形に、なっていった。


背丈が、見えた。


髪の色が、見えた。


長い、赤い髪だった。


「……!」


体が、前へ出ていた。


光が、消えた。


丘の上に、人が、立っていた。


少し、辺りを見回していた。


そして、エルクを見つけた。


少し困ったように、笑った。


「待たせたね」


エルクの目から、涙が、出てきた。


言葉が、出てこなかった。


足が、動かなかった。


リアが、一歩、前へ出た。


「エルク」


「……」


エルクは、ゆっくり歩いた。


一歩。


また一歩。


涙が、止まらなかった。


言葉は、まだ、出てこなかった。


リアは、少し照れたように、笑顔で言った。


「ただいま」


エルクは、リアを、優しく、抱きしめた。


言葉にならなかった。


ならなくていい、とも思った。


「おかえり」


それだけ言った。


それだけで、十分だった。


二人は、静かに、抱き合った。


風が、吹いた。


夕暮れの、温かい風が。


空は、どこまでも、青かった。



しばらくして、リアが言った。


「門の中では、時間がほとんど流れていなかった」


「そうか」


「お前には、何年経った」


「三年だ」


「三年か」


「ああ」


「長く、待たせた」


「ずっと、聞こえていた」


「何が」


「声が。ただいまと言いに戻る、と、ずっと言っていた」


「……そうか」


「消えなかった。だから、信じていた」


リアは、エルクから少し離れて、その顔を見た。


泣いていた。


リアは、それを見て、何も言わなかった。


ただ、もう一度、エルクへ向かって、言った。


「ただいま」


夕暮れの光が、丘を染めていた。


二人の影が、長く、伸びていた。



世界は壊れていた。


だから人は争った。


世界は救われた。


だから終わったわけではない。


人はこれからも迷う。


傷つく。


失う。


それでも歩いていく。


未来は、やり直すものではない。


未来は、誰かから託され、誰かへ繋いでいくもの。


勇者Aが託した未来。


エルクたちが守った未来。


そして、これから生まれてくる誰かへ続く未来。



丘の上。


エルクとリアは、ゆっくりと、歩き始めた。


その背中を、夕日が、優しく、照らしていた。


二人の影が、草の上に、長く伸びていた。


どこまでも続く道が、前にあった。


「エルク」


「何だ」


「これから、どこへ行く」


「どこへでも」


「一緒に行くか」


「ああ」


エルクが言った。


「みんなが、待っている」


「そうだな」


風が、また、吹いた。


空が、深い茜色に、染まっていた。


その先に、夜が来て、また朝が来た。



それから、さらに時が経った。


世界は、続いていた。


門は、ほとんど消えていた。

異界獣の出現は、伝説の話になっていた。

空には亀裂がなく、世界樹は、青々と、生きていた。


それぞれが、それぞれの場所で、生きていた。


ガルゴンは、ヴァルガンの鍛錬場で、今日も若い兵士を怒鳴っていた。

レイオンは、王として、民の顔を見ながら、政務をこなしていた。

フレイナは、その隣で、時々、王の言葉を、優しく、直していた。


ライディスは、レグルスの議会で、今日も、若い議員たちの言葉を、静かに、聞いていた。


バルゼディスは、研究を続けていた。

アルテフェインは、誰もいない場所で、空を見上げていた。世界の外へ研究対象を広げていた。


ミレナンは、本を書き続けていた。三冊目が、もうすぐ完成すると、シュウに話していた。

シュウは、それを聞きながら、短剣の手入れをしていた。


ノクトは、クライマを、少しずつ、開いた国へ変えていた。

ルシラは、その傍で、研究を続けながら、時々、グローワと文通していた。


グローワは、大樹の根元で、今日も、本を読んでいた。


ケン、ジェイド、ユウは、それぞれの場所で、それぞれの生き方を、見つけていた。


そして——


エルクとリアは、旅をしていた。


残っている門の痕跡を調べながら。

世界の歪みを、一つずつ、確認しながら。


二人で、並んで、歩いていた。


「次はどこだ」


リアが聞いた。


「北の山脈に、小さな反応がある。そこを見に行く」


「山か」


「寒い」


「嫌か」


「嫌ではない」


「そうか」


「でも、寒い」


「我慢しろ」


「我慢する」


二人は、歩き続けた。


道が、続いていた。


「エルク」


「何だ」


「お前の本名は、思い出したか」


エルクは、少し、考えた。


「思い出せそうで、思い出せない。でも、もう、いい気がしている」


「なぜ」


「エルクという名前で、ここまで来た。それで、十分だ」


「そうか」


「お前は」


「私は、リアだ。ずっと、そうだった。ずっと、そうでいる」


「そうだな」


「名前より、大事なことがある」


「何が」


「今、ここにいること」


「そうだな」


「それだけで、十分だ」


道が、また、続いていた。


空が、青かった。


どこまでも、続いていた。


風が、吹いていた。


温かかった。


「エルク」


「何だ」


「ありがとう」


「何に対して」


「全部に対して」


「……そうか」


「待っていてくれたことに」


「また、どこかへ行くなら、また、待つ」


「次は、一緒に行く」


「そうしてくれ」


「約束だ」


「ああ、約束だ」


二人は、歩き続けた。


空が、どこまでも続いていた。


世界は、まだ、続いていた。


壊れたまま、不完全なまま。


それでも、好きでいてくれる者がいる。


だから、続く。


その先に何があるかは、まだ、わからない。


しかし、二人は、歩き続けた。


どこまでも続く道を。


ずっと、ずっと、続く道を。



異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 


―― 完 ――


これで完結になります。

ありがとうございました。

初めて小説を書き、なんとか最後まで書くことができてよかったです。

これからも精進しアニメ化の目標へ向けて書いていこうと思います。

ありがとうございました。

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