ただいま(3)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第六章
宴が始まった。
食べて、飲んで、笑った。
グローワが、珍しく、拍手を送っていた。
パチ、パチ、という静かな拍手だったが、確かに叩いていた。
ガルゴンは、すでに、誰かと酒の比べ飲みを始めていた。
大笑いしながら飲んでいた。あれで七十を超えているとは、誰も信じなかった。
ライディスが、珍しく、笑顔を見せていた。
いつも緊張している顔が、今日だけは、少し、解けていた。
ノクトは、少し離れた場所から、静かに、祝福していた。
人波の外から、それでも確かに、この光景を、見ていた。
そして、ルシラは——
ノクトがルシラに、声をかけた。
「ルシラ、泣いているのか」
「泣いていない」
ルシラが、素早く、顔を背けた。
「目が赤い」
「光の加減よ」
「光の加減?」
「そうよ。祭りの灯りが、眩しいの」
「……そうか」
ルシラは、また前を向いて、二人を見た。
「めでたいわね」
静かに、呟いた。
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式場の一角、少し静かな場所で、五人が集まっていた。
エルク、シュウ、ケン、ジェイド、ユウ。
ヴァルガンで共に召喚された者たちだった。
あの戦場を、生き残った者たちだった。
「めでたいな」
ケンが、シュウへ向かって、言った。
「ミレナンを大事にしろよ」
「当然だ」
「本当にそうしろよ。本当に」
「わかってる、わかってる」
「大事にしろよ、本当に」
ユウが言った。
「ケン、それもう五回言ったよぉ」
「大事なことだから」
ジェイドが、拳を握りながら言った。
「新婚生活に飽きて、戦いたくなったら相手するぜ」
ユウが、苦笑した。
「結婚式の日に普通、それ言う?」
「本心を言うのが、友達だろう」
「でも、タイミングってあるんじゃない」
「タイミングは関係ない」
「関係あるよ」
「ない」
「……」
シュウが、グラスを手に取った。
「まあ、乾杯するか」
全員が、グラスを取った。
「俺たち、生き残った勇者に」
シュウが言った。
全員が、笑った。
グラスを、合わせた。
小さな音が、響いた。
その音には、数え切れない戦いが詰まっていた。
数え切れない別れが詰まっていた。
そして、生き抜いた者だけが共有できる時間が、詰まっていた。
エルクは、静かに、その場を見ていた。
あの日、異世界へ召喚されたあの瞬間——恐怖しかなかった。
何が正しいのかも、どうすれば良いのかも、何もわからなかった。
今は、違う。
血の繋がりはない。
生まれた世界も違う。
来た理由も、それぞれ違う。
それでも、彼らは確かに、仲間だった。
「エルク」
ケンが言った。
「何だ」
「リアのこと、まだ待っているのか」
「ああ」
「《残響》に、聞こえているか」
「聞こえている」
「声が?」
「気配が。でも、確かにある」
ケンは、それを聞いて、頷いた。
「なら、待っていろ」
「ああ」
「絶対に戻ってくる。あいつは、約束を守るやつだ」
エルクは、それを受け取った。
「知っている」
ジェイドが言った。
「リアは強いから大丈夫だ」
「……そうだな」
全員が、また、グラスを持ち上げた。
もう一度、合わせた。
「リアの帰還に」
シュウが言った。
全員が、頷いた。
グラスが、また、鳴った。
その音が、祭りの賑やかさの中に、溶けていった。
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宴が深まった頃、シュウが、エルクを引っ張り出した。
「少し、いいか」
二人は、広場の端へ歩いた。
「おめでとう」
エルクが言った。
「ありがとう」
「お前が結婚するとは、思っていなかった」
「俺も、思っていなかったよ」
しばらく、二人は、街の景色を見ていた。
「エルク」
「何だ」
「お前に言いたいことがある」
「言え」
「ミレナンと旅をして、結婚した。でも、一番一緒にいたのは、お前だったよ」
「そうか」
「剣を交えて、飯を食って、喧嘩もして。お前のせいで、骨を折ったこともあったな」
「そうだな」
シュウは、笑った。
「お前がいたから、ここまで来られた。ミレナンと出会えた。みんなと、こうして笑えた」
「……」
「ありがとう」
エルクは、何も言えなかった。
「もう一つ」
「何だ」
「リアが戻ってきたら、絶対に教えてくれ。俺たちも、祝いたい」
「ああ」
「絶対に、帰ってくる。それだけは確かだ」
「ああ」
「待っていろ。ちゃんと、待っていろよ」
「待っている。ずっと、待っている」
シュウは、また、笑った。
「じゃあ、戻るか。ミレナンが、俺を探しているはずだ」
「そうだな」
「また、旅をしよう。四人で」
「ああ」
「約束だ」
二人は、宴の輪へ、戻った。
広場は、まだ、賑やかだった。
笑い声が、絶えなかった。
灯りが、揺れていた。
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バルゼディスが、グローワの隣に、座った。
「久しぶりだな」
「そうだな」
「研究は、進んでいるか」
「問題なく進んでいる。お前のところは」
「同じく。エルクの《残響》研究は、新しい段階に入った」
「そうか」
「ただ——」
バルゼディスは、少し、言葉を選んだ。
「エルクが、ここのところ、どこかに集中している様子がある」
「《残響》で、何かを追っているのか」
「そう思っている」
グローワは、静かに言った。
「……気配が、近づいているのかもしれない」
「そう思うか」
「私は、研究者だ。確証はない。だが」
「だが?」
「あの男が、そういう顔をしていたから」
「そういう顔?」
「待っている者の顔だ。もうすぐ来ると、知っている者の顔だ」
バルゼディスは、それを聞いて、黙った。
しばらくして、言った。
「……そうか」
「急かすな。来る時に来る」
「わかっている」
二人は、また、宴の光景を、見ていた。
そこへ、アルテフェインが酒を持ってきた。
アルテフェインは礼服を着ていた。
「グローワ、珍しいな」
「そうでもない、私も宴は好きだ」
「私は門の研究はそろそろ終わりにする、この世界をもっと見ようと思う」
アルテフェインが言った。
「そうか」
「門、いや、平行世界は、グローワ、お前に任せる。人間の寿命では到底辿り着けない」
「ああ」
「私は今のこの世界を見る、空を見る、そして、空の上、宇宙だ」
「アルテフェインは研究のことばかりだ。我々には門を安全に安定にする、世界の歪みを無くす義務がある。それが賢者の仕事だ」
バゼルディスが横から言った。
「まあ、研究熱心は嫌いじゃない、私も同じようなものだ」
グローワが言った。
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