表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
143/147

ただいま(2)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第六章

エルナトでは復興祭が開かれていた。

復興祭の一端として、門の研究学会が開催された。


その日、塔の大広間に、各国の研究者が集まっていた。


「先生!」


ミレナンが、廊下で駆け寄った。


アルテフェインが、書類を落としそうになった。


「ミレナン。走るな、廊下では」


「すみません。でも、今日の発表、楽しみすぎて」


「お前の本のことか」


「はい。三年かかりました。ようやく、完成しました」


ミレナンは、厚い冊子を、アルテフェインへ差し出した。


「これが——」


アルテフェインは、表紙を見た。


「《亡国の残響》」


「この旅の記録です。全部、ちゃんと書きました。エルクのことも、リアのことも、シュウのことも、ガルゴンのことも、グローワのことも、勇者Aのことも」


「全部、入っているのか」


「全部、入っています」


アルテフェインは、最初のページを、開いた。


しばらく、読んだ。


「……読める」


「当然です。ちゃんと書きました」


「いや、そういう意味ではなく」


アルテフェインは、また、読んだ。


「読み続けたくなる」


「それが目標でした」


「……良い本だ」


ミレナンは、目を輝かせた。


「褒められた」


「一度だけだ。調子に乗るな」


「わかっています。でも、嬉しい」


アルテフェインは、本を持ったまま、歩き始めた。


「先生」


「何だ」


「ありがとうございます。先生がいなければ、私はここまで来られませんでした」


アルテフェインは、立ち止まった。


振り返らなかった。


しばらく、黙っていた。


「……良い研究者になったな」


それだけ言って、歩き始めた。



学会が終わった後、ミレナンは、廊下でアルテフェインを捕まえた。


「先生、今日は早く帰らせてください」


「何事だ」


「明後日の準備があります」


「明後日?」


「先生、忘れたんですか」


アルテフェインは、少し考えた。


「……」


「行くとも。忘れていない」


「忘れていましたよね、今」


「忘れていない」


「先生の顔が、忘れていると言っていました」


「顔は、何も言わない」


ミレナンは、苦笑した。


「絶対に、来てください。シュウが、先生に来てほしいと、言っていました」


「あの男が?」


「はい。先生がいないと、始まらないと言っていました」


アルテフェインは、少し、黙った。


「……わかった。行く」


「ありがとうございます」


「で、衣装はどうする」


「そこから考えるんですか」


「賢者服で行くのか」


「普通の礼服でいいです」


ミレナンは、笑いながら、歩き始めた。



復興祭は三日間、続いていた。


世界中から、人が集まっていた。


エルナトの賢者たちが、魔導の灯りを空へ打ち上げていた。

ヴァルガンの商人が、露店に山積みにされた肉を、豪快に焼いていた。

エークレイアのエルフたちが、精霊の光で、木々を飾っていた。

クライマから来た魔族の楽師が、見たこともない楽器で、独特の旋律を奏でていた。

ドワーフたちが、鉄の杯を持ち寄って、盛大に乾杯していた。


国境は、まだ、あった。


互いの違いも、まだ、あった。


しかし、その違いを、今は、誰も、気にしていなかった。


人間がエルフの酒を飲んで、美味いと言っていた。

魔族の子どもが、ドワーフの鍛冶屋の前で、目を輝かせていた。

エルフの老人が、ヴァルガンの戦士と、肩を並べて、火を囲んでいた。


国境を越えて笑い合うことが、当たり前になっていた。


この光景を、勇者Aは見られなかった。


しかし、彼が背負い続けた世界が、今、ここにあった。



そして、その祭りの片隅で、一つの結婚式が、行われた。


エルナトの中心街から少し外れた円形の広場。

白い花が、石畳に敷かれていた。

光が、真っ直ぐに、降り注いでいた。


新郎は、シュウだった。


礼服を着ていた。普段とは全く違う、きちんとした礼服だった。


しかし、表情だけは、いつものシュウだった。


少し、照れくさそうに、笑っていた。


新婦は、ミレナンだった。


白いドレスを着ていた。腰には、いつもの鞄はなかった。手帳も、ペンも、今日だけはしまっていた。


穏やかに、微笑んでいた。


司式は、グローワが務めた。


グローワが、静かに言った。


「二人の誓いを、今日、証人として立会う。この世界で、誓いの言葉を述べる行為には、長い歴史がある。私が生まれるよりも、前から」


「長命種の余談が始まった」


シュウが、小声で言った。


ミレナンが、肘で突いた。


「静かにして」


グローワがシュウへ言った。


「誓いの言葉を、二言、述べよ」


二言、というのが、グローワらしかった。


シュウは、少し間を置いてから、集まった全員を見渡した。


そして、言った。


「いやぁ……まさか異世界で結婚するなんて、思わなかったな」


周囲から、大きな笑いが起こった。


ガルゴンが、酒の杯を持ったまま、豪快に笑い声を上げた。

レイオンが、苦笑しながら、うなずいた。

ライディスが、珍しく、口元を緩めた。

グローワが、わずかに、目を細めた。


「と言うのが一言目で、二言目は、ミレナンと生きていく、必ず幸せにする、だな」


笑いが、少し収まったところで、ミレナンが、静かに言った。


「その言葉、一言目に聞きたかったわ」


そして、少し、頬を赤らめた。


会場が、またどっと笑いに包まれた。


「誓いが、笑いになったな」


グローワが、淡々と言った。


「それでいい。珍しく、良い誓いだ」


「珍しく、ってどういうことですか」


シュウが言った。


「褒めている」


グローワは、ミレナンを見た。


「ミレナン」


「はい」


「シュウと、生きていくと、誓えるか」


ミレナンは、シュウを見た。


「誓います、何があっても」


「後悔しないか」


ミレナンは、少し、笑った。


「後悔することもあると思います。でも、それでも、この人と一緒にいることを、選びます」


シュウが、小声で言った。


「後悔するのか」


「するかもしれない」


「それはどういう——」


「でも、あなたを選ぶ」


ミレナンが、シュウの腕を、そっと、握った。


シュウは、それを感じて、黙った。


グローワは、二人を見た。


「では、誓いを確認した」


全員へ向けて、言った。


「この二人の誓いを、聞いたか」


「聞いた!」


声が、一斉に上がった。


ガルゴンの声が、飛び抜けて、大きかった。


「おめでとう」


グローワが言った。


その一言が、広場に、温かく、広がっていった。

拍手が、起きた。

激しい拍手だった。


ガルゴンが、杯を高く掲げた。


「良い式だ! 飲むぞ!」


「もう飲んでいましたよね」


レイオンが、苦笑しながら言った。


「うるさい。今から本番だ」


ユウが、小走りで前へ出て、二人へ声をかけた。


「おめでとう、二人とも!」


ミレナンが、泣いていた。


「なんで泣いているんだ」


シュウが、言った。


「聞かないで、嬉しいんですっ。シュウも泣きそうだったでしょ」


皆、笑った。


ライディスが、二人の前に来た。


「おめでとう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ