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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

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終焉の彼方(4)

三日目の夜、グローワが、エルクを呼んだ。


「一つ、話がある」


「何だ」


「《残響》について」


「何だ」


「勇者Aが言っていた言葉を、覚えているか。お前の《残響》は、まだ本当の力を使っていない、と」


「覚えている」


「私は、この戦いを通じて、ある仮説に至った」


「仮説?」


「《残響》は、死者の声を聞く力、戦場の痕跡を読む力、未来の残像を感じる力——それだけではないかもしれない」


「他に何がある」


グローワは、少し、間を置いた。


「門そのものを、制御できる力かもしれない」


エルクは、その言葉を、受け取った。


「制御?」


「勇者Aが、五十年間、門と繋がり続けられた理由を、考えてきた。あれは、魔力だけではない。残響の力が、門との接続を可能にしていた。お前にも、同じ力がある」


「俺が、門を制御できるということか」


「可能性だ。確証はない。だが、エークレイアへ戻ったら、研究を続ける」


「それが分かって、どうなる」


「世界の歪みを、修復できるかもしれない。残った門を、一つずつ、閉じていける方法が、見つかるかもしれない」


エルクは、その言葉を、受け取った。


「……やることが、増えるな」


「そうだ」


「まだ、旅は続くということか」


「そうなる」


エルクは、空を、見た。

星が、きれいだった。


「わかった。ずっと、ここにいるわけにもいかないな。エークレイアへ行く。研究に付き合う」


「ありがとう」


グローワは、珍しく、そう言った。


「礼はいい。お互い様だ」



その夜遅く、ライディスから、使者が来た。


「軍務卿より、伝言です。門の跡に、閉じる者の魔力反応が観測できました。」


エルクは、その言葉を、受け取った。


「ライディスに、感謝を伝えてくれ」


「承りました。もう一つ、軍務卿より」


「何だ」


「観測は我々レグルスに任せろ、と」


エルクは、思わず、笑った。


「ライディスらしい言葉だ」


「以上です」


使者が、去った。


シュウが、横で言った。


「ライディス、ずっと、観測してくれているのか」


「そうらしい」


「……いいやつだな」


「そうだな」


「昔は、そんなイメージなかったけど」


「人は、変わる」


「変わるな」


「でも、中身は、最初から、そうだったんだろう」


「そうかもしれない」


二人は、また、空を見た。



四日目の夜明け前、《残響》が、急に、強くなった。


リアの声が、これまでで最も大きく、聞こえていた。


エルクが、起き上がった。


「リア」


「何?」


シュウが目を覚ました。


「来るのか」


「これまでは、遠くから聞こえていた。今は、隣で言っているみたいに聞こえる」


エルク、シュウ、ミレナン、グローワの四人は、閉じた門の跡を、見た。


まだ、何もなかった。

石畳だけがあった。


「……信じる」


エルクが言った。


「信じるか」


「ああ。来ると、信じる」


「根拠は」


「声が、聞こえているから。それだけで十分だ」


夜明けの光が、少しずつ、空に広がり始めていた。


廃墟が、朝の色に、染まり始めていた。

四人は、その前に、立って、待っていた。


ミレナンが言った。


「私はエルナトへ戻ります、研究を続けます。」


「わかった。そうだな。それぞれやるべきことがある」


エルクが言った。


「エルク、俺はミレナンを送ってエルナトに行くよ。その後はどうするかわからない。」


シュウが言った。


「わかった、俺はエークレイアに行き、グローワの研究に付き合う。」


エルク、シュウ、ミレナンは固い握手を交わした。


「ありがとう」



世界は、変わっていた。


数か月が、経っていた。



エルナトの賢者の塔では、アルテフェインとバルゼディスが、研究を続けていた。


ミレナンも、そこにいた。


三人が、並んで、魔導板を見ていた。


「門の活性化、この三か月で、三十パーセント、減少しています」


ミレナンが報告した。


「完全に消えるまでには、まだ、時間がかかる」


バルゼディスが言った。


「でも、方向は、合っている」


アルテフェインが言った。


「そうだ。減り続けている」


「これはエルクとグローワ様の門の制御の効果でしょうか」


ミレナンが、手帳に、何かを書きながら言った。


「《残響》を使った門の制御だ。これは、確かに、効果があったと言うことだ」


「私は、記録します」


「そうしてくれ」


「全部、ちゃんと、残します」



ヴァルガンでは、レイオンが、政務をこなしていた。


山の修復が、進んでいた。

北部の砦が、再建され始めていた。


ガルゴンは、城の一角に、部屋を持っていた。

そこで、若い兵士たちに、剣を教えていた。

片腕でも、ガルゴンの指導は、誰も文句が言えなかった。


「下手だ」


ガルゴンが言うと、若い兵士が、震えながら、また、振るった。


フレイナが、横で、腕を組んで、見ていた。


「ガルゴン様、少し、優しくしてください」


「剣に、優しさはいらん」


「人には必要です」


「剣を教えている」


「その剣を持つ人を教えてください」


ガルゴンは、少し、考えた。


「……まあ、そうだな」


珍しく、素直に、引いた。

フレイナが、驚いた顔をした。


「珍しい」


「戦争が、少し、柔らかくしたかもしれん」


「それは、良いことです」


「そうかもしれんな」



クライマでは、再建が、続いていた。


魔王城は、取り壊した。

代わりに、新しい建物を、建てていた。


ノクトが、その設計を、見ていた。


「魔族だけの国では、いられないかもしれない」


ノクトが、設計士へ言った。


「どういうことですか」


「この戦いで、人間と並んで戦った。それは、事実だ。今後、どういう国を作るか、考えなければならない」


「開放する、ということですか」


「考えている」


設計士は、少し、驚いた顔をした。


「ノクト将軍が、そう言うとは」


「時代が変えた」


「……そうですね」


ルシラは、クライマを離れていた。

どこにいるか、誰も知らなかった。


しかし、ノクトは、わかっていた。

また、ふらっと戻ってくる。



レグルスは、まだ、廃墟のままだった。


しかし、人が、戻り始めていた。

瓦礫の片付けが、始まっていた。


ライディスは、その中心にいた。

反逆者として、訴えられた。

裁判が、あった。


しかし、証言者が、現れた。

かつての部下たちが、次々と、ライディスの証言をした。


王の真実が、少しずつ、明らかになっていった。

結果として、ライディスは、無罪になった。

しかし、軍務卿の地位は、戻らなかった。


「それで、いいのですか」


部下の一人が、聞いた。


「いい」


ライディスが、答えた。


「地位より、やることがある」


「何を」


「この国を、作り直す。王のいない国を、どう治めるか。それを、考える」


「一人で?」


「一人ではない」


ライディスは、広場を、見た。

瓦礫を片付けている人々が、いた。


「みんなが、いる」



エークレイアでは、大樹が、ゆっくりと、回復していた。

葉の色が、戻っていた。


根の黒い筋は、消えていた。

グローワは、毎日、根に触れて、状態を確認していた。


「今日は、どうですか」


若い司書が、聞いた。


「良くなっている」


「毎日、良くなっていますね」


「そうだ」


「グローワ様は、毎日、ここへ来ますね」


「確認が必要だから」


「それだけですか」


グローワは、少し、間を置いた。


「……それだけだ」


若い司書は、何も言わなかった。

しかし、その目に、何かがあった。


グローワは、それを無視して、本を開いた。

世界樹の根が、静かに、揺れていた。



世界は、続いていた。

壊れたまま、不完全なまま。

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