表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
140/147

終焉の彼方(3)


ライディスが来た。


「エルク」


「ライディス」


「私は、レグルスに残る」


「そうか」


「王のいなくなった国が、どうなるか、見届けなければならない。私は、反逆者として、訴えられるかもしれない。それでも、残る」


「一人でいいのか」


「残っている部下がいる。それで十分だ」


エルクは、ライディスの顔を見た。

傷だらけだった。

疲れ切っていた。

それでも、目に力があった。


「エルク」


「何だ」


「お前と話したいことが、たくさんある。今は、時間がない。だが、いつか」


「いつか、ゆっくり話そう」


「……ああ」


ライディスは、頷いて、歩き始めた。

数歩で、止まった。

振り返った。


「エルク」


「何だ」


「彼女は、戻る」


断言だった。

根拠のある確信ではなかったかもしれない。

しかし、ライディスが言うと、そうなる気がした。


「わかった」


「待っていろ」


「ああ」


ライディスは、また、歩き始めた。

今度は、止まらなかった。



アルテフェインとバルゼディスが来た。


「エルナトへ帰る」


アルテフェインが言った。


「わかった」


「一つだけ、伝えたいことがある」


「何だ」


「門は閉じても存在はしている、《残響》の力にはまだ秘密があるかもしれない」


エルクは、その言葉を、受け取った。


「どういう意味だ」


「私は、気になっている。勇者Aの《残響》とエルクの《残響》は違った。エルナトへ戻ったら、研究を続ける。分かったことは、必ず伝える」


「頼む」


バルゼディスが、横から言った。


「私はヴァルガンの賢者職は引退する、戦争は終わった。エルナトでのんびり研究する」


「そうか」


「それと、ミレナンの研究についても、引き続き支援する。彼女は、優秀だ」


「本人に言ってくれ」


「言うと、調子に乗る」


「でも、言ってくれ」


バルゼディスは、少し、苦笑した。


二人は、賢者団を連れて、歩き始めた。



レイオンとフレイナが来た。


「エルク」


レイオンが言った。


「ヴァルガンへ帰る。やることが、山ほどある」


「そうだろう」


「また、会おう」


「ああ」


「次は、戦いじゃないといい」


「そうだな」


「酒を飲もう。ちゃんとした場所で」


「そうしよう」


レイオンは、手を差し出した。

エルクは、握った。

力強く、握り返してきた。


「お前がいなければ、この戦いは、まったく違う結果になっていた」


「全員がいなければ、だ」


「そうだな。でも、お前がいなければ、全員が一つにはなれなかった」


エルクは、何も言わなかった。

レイオンは、手を離して、歩き始めた。


フレイナが、最後に、エルクを見た。


「リアは、戻るわ」


静かに言った。


「私が保証する、というわけにはいかない。でも、戻ると、私は思っている」


「ありがとう」


フレイナは、右足を少し引きずりながら、歩き始めた。


ガルゴンが、その横に並んだ。


「エルク、また会おうぞ」


老王と、女槍士が、そして若い王が、並んで歩く姿が、廃墟の中に、遠ざかっていった。



グローワが来た。


「大樹の信号が、変化した」


エルクが、振り返った。


「どう変化した」


「強くなっている。門の核が、閉じた。それを受けて、大樹が、反応している」


「リアが、閉じたのか」


「おそらく」


「……そうか」


グローワは、しばらく、黙っていた。


「エルク」


「何だ」


「閉じる者が、門の中に入った。前例がない。だから、どうなるかは、わからない」


「わかってる」


「戻る可能性が、どのくらいあるか、私にも、確率は出せない」


「わかってる」


「だが——」


「何だ」


「閉じる者の魔力が、まだ、感じられる」


エルクは、その言葉を、受け取った。


「消えていないということか」


「消えていない。門の中に、まだ、存在している」


「……」


「急ぐな。待て」


グローワが言った。


「待つ」


エルクが、答えた。


「《残響》に、まだ、聞こえているか」


「ああ」


「何が」


「リアの声が。ただいまと言いに戻る、と、繰り返している」


「ならば、信じろ」


「信じている」


グローワは、それ以上、何も言わなかった。

ただ、閉じた門の跡の近くに、腰を下ろした。


懐から、古い本を、取り出した。

読み始めた。


「……ここに残るのか」


エルクが聞いた。


「大樹の信号を、直接、監視する。エルクへ、早く伝えるために」


研究者としての言い方だった。

しかし、エルクには、それだけではないことが、わかった。


「……ありがとう」


「感謝はいい」


グローワは、本のページを、めくった。



その日の夕方から、世界の各地で、変化が始まった。


エルナトでは、空の亀裂が完全に消え、魔導灯が、一斉に、再び点り始めた。

街の人々が、外へ出て、空を見上げた。そして、口々に、言った。「空が、きれいだ」と。


ヴァルガンでは、岩山の崩落が、止まった。山から流れていた黒い霧が、消えた。

鍛冶場の炉が、また、燃え始めた。金槌の音が、街に戻ってきた。


エークレイアでは、大樹の葉の色が、少しずつ、緑に戻り始めた。

葉が落ちるのが、止まった。大樹の根の黒い筋が、薄くなっていった。

街のエルフたちが、大樹の根元に集まり、長い時間、それを見上げていた。


クライマでは、異界獣が光となり消滅した。

魔族の避難民たちが、空を見て、動きを止めた。


世界が、少しずつ、正常に、戻っていった。


完全ではなかった。

傷跡は、残っていた。

建物の崩壊。

亡くなった者の数。

失われた場所。

それらは、すぐには消えなかった。

しかし、方向が、変わっていた。


壊れていく方向から、直っていく方向へ。

崩壊から、修復へ。


世界が、生きていた。




それから三日が、経った。


世界連合軍の大半は、それぞれの国へ向けて、引き上げていた。


レグルスの廃墟には、エルク、シュウ、ミレナン、グローワだけが、残っていた。


《残響》の中で、リアの声は、まだ、聞こえていた。


変化はあった。


声が、これまでより、近くに感じられるようになっていた。


「近づいている?」


シュウが聞いた。


「近づいていると、思う。でも、まだ、来ない」


「どのくらいかかる」


「わからない。門の中の時間は、外とは違う」


「そうか」


「でも、消えていない。それだけは確かだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ