終焉の彼方(3)
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ライディスが来た。
「エルク」
「ライディス」
「私は、レグルスに残る」
「そうか」
「王のいなくなった国が、どうなるか、見届けなければならない。私は、反逆者として、訴えられるかもしれない。それでも、残る」
「一人でいいのか」
「残っている部下がいる。それで十分だ」
エルクは、ライディスの顔を見た。
傷だらけだった。
疲れ切っていた。
それでも、目に力があった。
「エルク」
「何だ」
「お前と話したいことが、たくさんある。今は、時間がない。だが、いつか」
「いつか、ゆっくり話そう」
「……ああ」
ライディスは、頷いて、歩き始めた。
数歩で、止まった。
振り返った。
「エルク」
「何だ」
「彼女は、戻る」
断言だった。
根拠のある確信ではなかったかもしれない。
しかし、ライディスが言うと、そうなる気がした。
「わかった」
「待っていろ」
「ああ」
ライディスは、また、歩き始めた。
今度は、止まらなかった。
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アルテフェインとバルゼディスが来た。
「エルナトへ帰る」
アルテフェインが言った。
「わかった」
「一つだけ、伝えたいことがある」
「何だ」
「門は閉じても存在はしている、《残響》の力にはまだ秘密があるかもしれない」
エルクは、その言葉を、受け取った。
「どういう意味だ」
「私は、気になっている。勇者Aの《残響》とエルクの《残響》は違った。エルナトへ戻ったら、研究を続ける。分かったことは、必ず伝える」
「頼む」
バルゼディスが、横から言った。
「私はヴァルガンの賢者職は引退する、戦争は終わった。エルナトでのんびり研究する」
「そうか」
「それと、ミレナンの研究についても、引き続き支援する。彼女は、優秀だ」
「本人に言ってくれ」
「言うと、調子に乗る」
「でも、言ってくれ」
バルゼディスは、少し、苦笑した。
二人は、賢者団を連れて、歩き始めた。
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レイオンとフレイナが来た。
「エルク」
レイオンが言った。
「ヴァルガンへ帰る。やることが、山ほどある」
「そうだろう」
「また、会おう」
「ああ」
「次は、戦いじゃないといい」
「そうだな」
「酒を飲もう。ちゃんとした場所で」
「そうしよう」
レイオンは、手を差し出した。
エルクは、握った。
力強く、握り返してきた。
「お前がいなければ、この戦いは、まったく違う結果になっていた」
「全員がいなければ、だ」
「そうだな。でも、お前がいなければ、全員が一つにはなれなかった」
エルクは、何も言わなかった。
レイオンは、手を離して、歩き始めた。
フレイナが、最後に、エルクを見た。
「リアは、戻るわ」
静かに言った。
「私が保証する、というわけにはいかない。でも、戻ると、私は思っている」
「ありがとう」
フレイナは、右足を少し引きずりながら、歩き始めた。
ガルゴンが、その横に並んだ。
「エルク、また会おうぞ」
老王と、女槍士が、そして若い王が、並んで歩く姿が、廃墟の中に、遠ざかっていった。
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グローワが来た。
「大樹の信号が、変化した」
エルクが、振り返った。
「どう変化した」
「強くなっている。門の核が、閉じた。それを受けて、大樹が、反応している」
「リアが、閉じたのか」
「おそらく」
「……そうか」
グローワは、しばらく、黙っていた。
「エルク」
「何だ」
「閉じる者が、門の中に入った。前例がない。だから、どうなるかは、わからない」
「わかってる」
「戻る可能性が、どのくらいあるか、私にも、確率は出せない」
「わかってる」
「だが——」
「何だ」
「閉じる者の魔力が、まだ、感じられる」
エルクは、その言葉を、受け取った。
「消えていないということか」
「消えていない。門の中に、まだ、存在している」
「……」
「急ぐな。待て」
グローワが言った。
「待つ」
エルクが、答えた。
「《残響》に、まだ、聞こえているか」
「ああ」
「何が」
「リアの声が。ただいまと言いに戻る、と、繰り返している」
「ならば、信じろ」
「信じている」
グローワは、それ以上、何も言わなかった。
ただ、閉じた門の跡の近くに、腰を下ろした。
懐から、古い本を、取り出した。
読み始めた。
「……ここに残るのか」
エルクが聞いた。
「大樹の信号を、直接、監視する。エルクへ、早く伝えるために」
研究者としての言い方だった。
しかし、エルクには、それだけではないことが、わかった。
「……ありがとう」
「感謝はいい」
グローワは、本のページを、めくった。
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その日の夕方から、世界の各地で、変化が始まった。
エルナトでは、空の亀裂が完全に消え、魔導灯が、一斉に、再び点り始めた。
街の人々が、外へ出て、空を見上げた。そして、口々に、言った。「空が、きれいだ」と。
ヴァルガンでは、岩山の崩落が、止まった。山から流れていた黒い霧が、消えた。
鍛冶場の炉が、また、燃え始めた。金槌の音が、街に戻ってきた。
エークレイアでは、大樹の葉の色が、少しずつ、緑に戻り始めた。
葉が落ちるのが、止まった。大樹の根の黒い筋が、薄くなっていった。
街のエルフたちが、大樹の根元に集まり、長い時間、それを見上げていた。
クライマでは、異界獣が光となり消滅した。
魔族の避難民たちが、空を見て、動きを止めた。
世界が、少しずつ、正常に、戻っていった。
完全ではなかった。
傷跡は、残っていた。
建物の崩壊。
亡くなった者の数。
失われた場所。
それらは、すぐには消えなかった。
しかし、方向が、変わっていた。
壊れていく方向から、直っていく方向へ。
崩壊から、修復へ。
世界が、生きていた。
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それから三日が、経った。
世界連合軍の大半は、それぞれの国へ向けて、引き上げていた。
レグルスの廃墟には、エルク、シュウ、ミレナン、グローワだけが、残っていた。
《残響》の中で、リアの声は、まだ、聞こえていた。
変化はあった。
声が、これまでより、近くに感じられるようになっていた。
「近づいている?」
シュウが聞いた。
「近づいていると、思う。でも、まだ、来ない」
「どのくらいかかる」
「わからない。門の中の時間は、外とは違う」
「そうか」
「でも、消えていない。それだけは確かだ」
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