表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
135/147

未来を託す者(1)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第六章

エルクと勇者Aが、向き合っていた。


会話は、終わっていた。


言葉を尽くした。


理解し合った部分も、あった。


それでも、勇者Aは、止まらなかった。


「来い」


勇者Aが言った。


「言葉は十分だ。あとは、力でしかない」


剣が、構えられた。

エルクも、構えた。

後ろに、全員がいた。


「リア、シュウ、ミレナン」


エルクが言った。


「ああ」


「わかってる」


「はい」


返事が重なった。


「行くぞ」



最初の一撃は、リアだった。

大剣を、全力で、正面から振り下ろした。


勇者Aに受け止めた。


しかし、今回は、前と違った。

地面が、割れなかった。

リアが、吹き飛ばなかった。


「……」


勇者Aが、わずかに、目を細めた。


「さっきより重い」


「ずっと戦ってる」


リアが言った。


「疲弊してるはずなのに?」


「軽くなった」


「何が」


「迷いが」


勇者Aは、一瞬、何かが揺れたような顔をした。

その一瞬、リアの大剣が、押した。


わずかに、動いた。

数センチだったが、動いた。


「——シュウ!」


「来た!」


シュウが、側面から、飛び込んだ。

《レプリカ》で複製した短剣を、連続で、繰り出す。

速かった。

積み重ねてきた、これまでにない速さだった。


一撃が、勇者Aの外套を、かすめた。

薄い傷が、入った。


「ミレナン!」


「撃ちます!」


杖の先端から、光の槌が、連続して放たれた。

一発目が、勇者Aの右腕に当たった。

二発目が、左肩を、掠めた。

三発目は、防がれた。

しかし、防ぐために、動いた。


「エルク、今!」


「《残響》——開け!」


エルクは、《残響》を、最大まで、開いた。


世界の声が、流れ込んできた。

勇者Aの剣の軌跡が、見えた。

動きの癖が、見えた。

次の一手が、見えた。

踏み込んだ。


勇者Aの剣が、来た。

読んでいた。

紙一重で、かわした。

エルクの拳が、勇者Aの胸を、打った。

今日初めて、確かな手応えがあった。


勇者Aが、後退した。

一歩だった。

しかし、確かに、後退した。


エルクと勇者Aが、向き合った。

魔法はなかった。

ただ、二人が、剣を構えて、向き合った。


勇者Aは、しばらく、エルクを見た。


「リアのために、時間を作る」


「——来い」


エルクが、言った。


「全力で」


勇者Aは、その言葉を聞いて、わずかに、目を細めた。

剣を、構え直した。


戦いが、始まった。

これまでで最も激しい戦いだった。

勇者Aの剣が、速かった。


エルクは、《残響》だけで、読んだ。

剣ではなく、魔力の流れを。


来る。

右から。

受けた。


また来る。

上から。

かわした。


また来る。

正面から。

押し返した。


腕が、震えていた。

一撃一撃が、重すぎた。


それでも、下がらなかった。


「……強くなった」


勇者Aが、言った。


「あなたが教えてくれた」


エルクが答えた。


「私が?」


「《残響》で、あなたの戦い方を、ずっと見てきた。五十年間の蓄積が、全部、流れ込んできていた」

勇者Aは、少し、黙った。


「皮肉だな」


「そうかもしれない」


「私の経験が、私を止めるために使われる」


「悪いか」


「……悪くない」


勇者Aが、剣を、構え直した。


「ならば、もっと来い。私が本気でいく」


「望むところだ」



ガルゴンが、前へ出た。


「余も混ぜろ。これが最後の戦だ。見物などしておれん」


片腕で戦斧を担いで、走った。

老いた体が、最大の速さで、動いた。

戦斧が、横に薙がれた。


勇者Aは、それを、縦に剣で受けた。


「ヴァルガンの老王」


「なんだ」


「お前は、何のために戦う」


「息子と、その先の子どもたちのためだ」


「子どもたちのために、自分が死ぬかもしれない戦いをするか」


「それが、親というものだ」


勇者Aは、そこで、わずかに、押し返す力が、緩んだ。

ガルゴンが、感じ取った。


「——押せる!」


全力で、押した。

勇者Aが、二歩、後退した。


バルゼディスとがアルテフェインは、詠唱を終えていた。

最大出力の魔法が、勇者Aへ向かった。


勇者Aに当たる直前に、空間が歪んだ。


グローワが、精霊の力を、解放した。

精霊の光が、空間の歪みを、補正した。


魔法が、歪まずに、勇者Aへ、直撃した。

轟音が、響いた。

煙が、上がった。


「……今度こそ」


全員が、固唾を呑んで、見ていた。

煙が、晴れた。


勇者Aは、立っていた。


しかし、外套が、大きく、焦げていた。

肩から、血が、一筋、流れていた。


「……届いた」


アルテフェインが、静かに言った。


「初めて、本当に、届いた」


「ノクト!」


「わかっている」


ノクトが、第四軍を率いて、突入した。

今度は、散らばらなかった。


横一列で、同時に、踏み込んだ。


一人目が剣を振る瞬間、勇者Aの視界を塞ぐように、二人目が動いた。

二人目が来た瞬間、三人目が足元を狙った。

三人目の動きに対応しようとした瞬間、四人目が正面から来た。


連携していた。


勇者Aが、四方から同時に対応しなければならなかった。


「ルシラ!」


「もうやってるわ」


ルシラが、後方から、精密な魔法の矢を、連射した。

勇者Aが対応する先に、先回りして、矢を置いていた。

どこへ動いても、矢がある。

逃げ場を、作らせなかった。


ライディスは、傷ついた体で、走っていた。

第四軍の隙間を縫って、勇者Aの死角に、入った。

これまでの戦いで培った、全ての技術を、一点に集めた。


剣が、振り抜かれた。


勇者Aの背中を、浅く、斬った。


血が、出た。


リアが勇者Aの横に回り込み、踏み込んだ。

大剣が勇者Aをかすめた。


「リア!」


大剣が空を切るその時、後ろからミレナンが電撃魔法を大剣に当てた。

大剣の軌道が変わり、勇者Aを斬った。


「…」


勇者Aが、振り返った。

その目に、これまでとは違う光があった。


「……本気でくるか、全員」


「全員だ」


エルクが言った。



戦いは、変わっていた。

個々の力では、勇者Aに及ばなかった。

しかし、全員が連携することで、初めて、傷を、重ねられていた。

一つ一つは浅かった。

しかし、積み重なっていた。


勇者Aが、わずかに、動きを変えた。

これまでよりも、守りに入る瞬間が、増えていた。


「……《残響》が、揺れている」


エルクが、気づいた。

《残響》を通じて、勇者Aの内側が、変化していた。

迷いが、大きくなっていた。

戦いながら、何かが、崩れていっていた。


「エルク」


シュウが言った。


「わかってる。もう少しだ」


「もう少し、で何が起きる」


「俺にも、まだ、わからない。でも、変わる」


「何が」


「あの人の中の、何かが」



その時、勇者Aが、一歩、下がった。

戦略的な後退ではなかった。

体が、傾いていた。

右膝が、わずかに、折れていた。

それは、傷のせいだけではなかった。


《残響》を通じて、エルクには、わかっていた。

勇者Aの内側で、何かが、崩れ始めていた。

五十年間、積み上げてきた確信が。


世界をやり直せば、全て解決するという、絶対の確信が。

その礎が、今、崩れていた。


「……」


勇者Aは、剣を、前に突いた状態で、止まっていた。

動かなかった。


エルクは、その隙に、踏み込まなかった。


「……何をしている」


ガルゴンが、エルクへ言った。


「今が好機だ」


「違う」


エルクが答えた。


「今は、待つ」


「待つ?」


「あの人の中で、何かが起きている。それが終わるまで、待つ」


ガルゴンは、文句を言いかけた。

しかし、エルクの目を見て、黙った。

全員が、待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ