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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

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王の最期(2)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第六章

王城へ向かう道は、瓦礫だらけだった。


レグルスが崩壊した際の残骸が、まだ、そのままになっていた。

かつては整備された石畳の大通りだったはずが、今は、砕けた石と崩れた柱の山だった。


ライディスは、その上を、進んでいた。


直属軍が、後ろに続いていた。


「軍務卿、先行するのですか」


副官が、声をかけた。


「ああ」


「危険です。一人では——」


「一人ではない」


ライディスは、振り返らずに言った。


「お前たちが、いる」


副官は、黙った。

ライディスの言いたいことが、伝わっていた。

進んでいくにつれ、人の気配があった。


王城の前に、騎士たちが、並んでいた。

全員が、銀色の鎧を着ていた。

近衛騎士団だった。


ライディスが、足を止めた。


「軍務卿……」


前列の騎士が、声を出した。

若かった。


ライディスが、三年前から訓練してきた、若い騎士だった。


「お前か」


「はい」


「傷は」


「ないです。軍務卿のおかげで、王都崩壊の際に、逃げられましたから」


「そうか」


沈黙があった。


「来てほしくなかったが」


ライディスが言った。


「来ないわけにはいかないです」


若い騎士が、剣を抜いた。


「私たちは、王に誓っています。王を守ることが、私たちの仕事です」


「王が間違っていても?」


「……王が正しいと、信じています」


「そうか」


ライディスは、剣を、抜いた。


「お前を育てた者として、一つだけ言う」


「はい」


「終わったら、全部話す。お前が聞いて、それでも王が正しかったと思うなら——その時は、俺を斬れ。俺は、逃げない」


若い騎士は、その言葉を、受け止めた。

それから、剣を、構えた。


「今は、戦います」


「そうだな」


ライディスも、構えた。

戦いが、始まった。



近衛騎士団は、強かった。


ライディスが、自ら育てた者たちだった。


一人一人の癖を、知っていた。

得意な動きを、知っていた。

弱点を、知っていた。

だからこそ、手加減しなかった。

知っているから、完全に防がれる前に、動けた。


一人目の攻撃を、最小限の動きで、かわした。

反撃は、急所を外して、足元を、崩した。

倒れた者に、とどめは刺さなかった。


「次!」


二人目が来た。

右の癖がある、と知っていた。

だから、左から入った。

相手が対応しきれずに、空いた隙間へ、柄を、打ち込んだ。

気絶した。


三人目。


四人目。


五人目。


一人ずつ、倒していった。

全員を、気絶させるか、武装解除するかで、とどめを刺さなかった。


後ろから、直属軍が、応戦していた。

激しかった。

近衛騎士団は、数が、多かった。


直属軍も、傷ついていた。

だが、誰も、崩れなかった。


「軍務卿の剣を見ろ!」


副官が、叫んだ。


「俺たちも、続けるんだ!」


その言葉で、直属軍が、踏ん張った。



隊長が、出てきた。

近衛騎士団の隊長だった。


長身で、剣技は、近衛の中でも、一番だった。

ライディスが直接、四年間、指導した男だった。


「軍務卿」


隊長が、真正面に立った。


「私は最後まで、王を信じます」


「知っている」


ライディスが答えた。


「それが、お前だ」


「申し訳ありませんが——」


隊長が、剣を、構えた。


「全力でいきます」


「そうしてくれ」


ライディスも、構えた。


隊長は、わずかに、口の端を上げた。

その顔は、かつての訓練の時と、同じだった。

全力を出す時の顔だった。



戦いは、長かった。


隊長の剣は、速く、正確で、力があった。

ライディスが教えた全てを、完璧に体現していた。

それが、今、ライディスへ向かってきていた。


「教え方が、よかったということか」


ライディスが、防ぎながら、呟いた。


「はい」


隊長が、答えた。


「だから、こうして戦えます」


攻防は、激しかった。

隊長の連続攻撃を、ライディスが、防ぎ続けた。

一撃一撃が、重かった。

腕が、痺れていった。

しかし、崩れなかった。


「お前には、将来がある」


ライディスが、攻撃の合間に、言った。


「この国が続くなら、お前のような者が必要だ」


「国が続くかどうか——それを決めるのは、今の戦いの結果ではないのですか」


「そうだ」


ライディスは、剣を、一度、大きく振った。

隊長がそれを防いだ瞬間、ライディスは、体を、低くした。

足元を、払った。

隊長が、体勢を、崩した。


その瞬間、ライディスの剣が、隊長の剣を、弾いた。


剣が、石畳の上に、落ちた。


ライディスは、剣先を、隊長の喉元へ向けた。


沈黙。


隊長は、膝をついたまま、動かなかった。

しばらくして、ゆっくりと、頭を下げた。


「……私の、負けです」


それから、倒れた。

気を失っていた。

傷はなかった。


ライディスは、剣を、納めた。


「しばらく、寝ていろ」


低く、言った。



王城の扉は、開いていた。


片方が、傾いていた。崩壊で、蝶番が、歪んでいた。

ライディスは、その扉を、押した。


中は、静かだった。


かつて、兵士たちが行き交っていた廊下が、今は、誰もいなかった。

灯りも、消えていた。


崩れた天井から、外の光だけが、差し込んでいた。

足音だけが、響いた。

玉座の間への廊下を、歩いた。

記憶にある廊下だった。

三十年、毎日のように、歩いた廊下だった。

ここを歩くたびに、ここに至るまでに失ったもののことを、思い出していた。

今もそうだった。


七歳の弟。


故郷の村。


仲間だった兵士たち。


全部が、この廊下と、結びついていた。


「終わらせる」


ライディスは、前を向いたまま、言った。

玉座の間の扉の前に立った。

ゆっくりと、開けた。



玉座の間は、崩壊していた。


天井の半分が、落ちていた。

外の空が、直接、見えていた。

空には、黒い亀裂が走っていた。


それでも、玉座だけが、まだ、そこにあった。

砂埃の積もった、古い玉座。


その前に、王が、立っていた。


白い髪。


老いた体。


王冠は、被っていなかった。


「来たか」


王が、振り返らずに、言った。

ライディスは、前へ、進んだ。


「終わらせます」


「始まるだけだ」


「その言葉を、もう一度聞くとは、思いませんでした」


ライディスが、静かに言った。


「陛下。何度、それを言っても、変わりません」


王は、そこで、振り返った。

その顔を、ライディスは、しっかりと、見た。


変わっていた。


老いていた。

頬は、落ち、目の下には、深い疲れが、刻まれていた。


しかし、目だけは、まだ、若かった。

何かを、信じている者の目だった。


「三十年だ、ライディス」


王が言った。


「三十年、お前は私に仕えてくれた」


「はい」


「それを、無駄にするのか」


「無駄にはなりません」


ライディスが答えた。


「三十年の全てが、今に繋がっています。あなたに拾われた私が、今、ここにいる。それは、無駄ではない」


「だが、私を、止めようとしている」


「そうです」


「なぜだ」


「あなたが、間違っているからです」


王は、しばらく、ライディスを見た。

それから、静かに、言った。


「座れ」


「座りません。これは、決着をつける場です」


「そうか」


王が、腰の剣を、抜いた。


「では——始めようか」


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