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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

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王の最期(1)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第六章

王都の廃墟は、戦場だった。


総力戦を経て、世界連合軍はレグルスの廃墟へ、雪崩れ込んでいた。

ヴァルガン軍が南から。エルナト魔導師団が東から。クライマ第二軍が西から。

それぞれが、中央の門へ向かって、進軍していた。


しかし、王都の広場へ入った瞬間、状況が変わった。


「霧が——」


先頭を走っていたヴァルガンの兵士が、声を上げた。


気づいた時には、すでに、遅かった。

黒い霧が、広場全体を、音もなく、覆い始めていた。

最初は、足元だけだった。

次の瞬間には、膝まで。

さらに次には、視界全体が、黒く、閉ざされていた。


「前が見えない!」


「隣の者はどこだ!」


「隊列を——」


声が、あちこちで上がったが、声の発信源がどこかも、霧の中では、判断できなかった。

そして、霧の中から、声が聞こえた。


「最後くらい、踊ろうか」


性別の感じられない、平坦な声だった。

聞き覚えがあった。


「ユラギ……!」


ライディスが、剣を構えながら、叫んだ。


霧の中から、笑い声が、返ってきた。

一つではなかった。

同じ笑い声が、二方向から、重なって、聞こえた。


レイオンが剣を構え周囲を見渡した。


「二体いるのか」


ライディスが、低く言った。


「最後まで、厄介な——」


言葉の途中で、隣の兵士が、音もなく、倒れた。

毒だった。

気づいた時には、体に、細い針が、刺さっていた。


「毒針! 盾を——」


「上だ!」


「建物の影から来る!」


至る所から、奇襲が始まった。

第五軍忍者部隊、約三十名が、瓦礫の上に、建物の屋根に、霧の中に、潜んでいた。


顔は見えなかった。


姿は見えなかった。


だが、確実に、そこにいた。

世界連合軍が、混乱し始めた。


「面倒ね」


ルシラが、霧の中で、静かに言った。


「第五軍らしい戦い方だわ」


ルシラは、この戦い方を、知っていた。


かつて、魔王軍の研究資料の中に、第五軍の戦術書が含まれていた。

百年間、知識を集め続けてきたルシラは、その資料も、読んでいた。


幻術の構造。


毒の成分。


精神操作の仕組み。


影分身の魔力消費。


全部、知っていた。


「第二軍、毒解除を開始!」


ルシラが命令した。

第二軍の魔導士たちが、動いた。

倒れている兵士に近づき、毒の種類を判定し、即座に解毒魔法を施していく。


「幻術の核は、霧の中に仕込まれた魔力結晶だ。壊せば、霧が薄れる。探せ!」


「見つけ方は——」


「霧の密度が一番高い場所にある。感覚で探れ!」


第二軍の者たちが、霧の中を、慎重に、動き始めた。

そこへ、忍者が来た。


一人が、ルシラへ向かって、飛び込んできた。

短刀が、光を、瞬かせた。


ルシラは、振り返らなかった。


手元の魔法陣から、細い光が走った。


それが、忍者の手首を、正確に、打った。

忍者が、うめき声を上げて、短刀を落とした。


「あなた達の使う麻痺毒の成分は知ってるの」


ルシラが、冷静に言った。


「麻痺毒に対しては、神経伝達を阻害する魔力が有効。そういうこと」


倒れた忍者を、一瞥して、次の戦いへ向かった。



バルゼディスは、霧の中央に向かって、歩いていた。


目は、半分、閉じていた。

感覚だけで、霧の流れを、読んでいた。


「北東……いや、南に少し」


魔力の密度が、最も高い場所へ向かっていた。

忍者が、二人、飛び込んできた。


バルゼディスは、足を止めなかった。

手を横へ振るだけで、結界が忍者を弾いた。


「そこだ」


足元の、石畳の割れ目に、小さな黒い結晶が、埋め込まれていた。

結界を、圧縮した。


結晶が、砕けた。


霧が、一角だけ、薄れた。


「幻術の核はそこだ!」


バルゼディスが叫ぶと同時に、周囲に隠れていた忍者が、三名、姿を現した。

姿が見えた瞬間、ヴァルガン兵たちが、飛び込んだ。

三対多数。

決着は早かった。


バルゼディスは、次の核を探して、また歩き始めた。


「もっと深いところにある。霧は一枚ではない」


何重にも重なった幻術を、一枚ずつ、剥がしていく作業だった。

根気のいる、地道な戦いだった。



レイオンは、霧の中で、剣を振り続けていた。

見えない敵に、切りかかる方法は、一つしかなかった。

全部、壊す。


「隠れるなら——」


剣に、魔力を、纏わせた。

ヴァルガンでの戦いを経て、レイオンの剣技は、大きく成長していた。

ガルゴンの背中を見てきた。

エルクたちと戦場を共にしてきた。

新しい王として、自分にしかできない戦い方を、探してきた。


「全部、壊す!」


大きく、横に、振り抜いた。

建物の一角が、吹き飛んだ。

瓦礫の中から、忍者が三名、飛び出してきた。


「いた!」


レイオンが踏み込んだ。

三人相手に、正面から、ぶつかった。

一人目を、斬り飛ばした。

二人目の攻撃を、剣で受けて、弾いた。

三人目が、背後へ回ろうとした。


「俺の後ろへ回るな!」


踵を返した瞬間の一撃が、三人目を、地に伏せた。


「次!」


振り向くと、また、霧の中から、影が動いた。

レイオンは、その全てに、正面から向かった。


策も、技も、特別なものはなかった。

ただ、真正面から。

ただ、全力で。

それが、レイオンというヴァルガンの王の戦い方だった。


フレイナは、槍を片手に、広場の端を、守っていた。


右足は、まだ、完全には、動かなかった。

ヴァルガンの戦争での傷が、完全には癒えていなかった。

それでも、戦線を、離れなかった。


槍は、速かった。


足が不自由でも、上半身の動きは、衰えていなかった。

忍者が、味方の兵士へ向かった瞬間、槍が、その軌道を、塞いだ。

兵士が、倒れずに済んだ。


「下がれ」


フレイナが、低く言った。


「傷の深い者は後方へ」


負傷した兵士を下げながら、フレイナは、その場を守り続けた。

動ける範囲は、狭かった。

全力で走ることは、できなかった。


しかし、そこで守れる範囲は、確実に、守った。

槍が、一本の忍者を、弾いた。

すぐ後ろで、別の忍者が来た。

体を捻って、それも、槍で、払った。

右足に、痛みが走った。

歯を食いしばった。


「まだ」


倒れなかった。


「まだ、立てる」



「今よ!」


ルシラが、叫んだ。


バルゼディスが、展開していた結界を、一点に、圧縮した。

霧が、一気に、薄れた。


ユラギの二体が、同時に、姿を、現した。

一体は、レイオンと戦っていた。


もう一体は、ライディスの部隊を、狙っていた。

二体が同時に実体化した、その一瞬。


「レイオン!」


ライディスが、走りながら、叫んだ。


「わかってる!」


二人の動きは、合わさった。


ライディスが、正面から、ユラギの一体へ向かった。

剣を、真っ直ぐに、突いた。


同じ瞬間、レイオンが、もう一体の側面から、踏み込んだ。

二体のユラギを、同時に、斬った。


沈黙が、落ちた。


ユラギの一体が、静かに、言った。


「ああ……なるほど」


声は、穏やかだった。

怒りも、恨みも、なかった。


「こうやって、終わるんだ」


体が、砂のように、崩れ始めた。

もう一体も、同じように、崩れていった。


周囲に散っていた第五軍の忍者たちが、一人、また一人、霧のように、消えていった。

ユラギが完全に消滅すると、忍者たちも、維持できなくなっていった。


消え際に、ユラギの声だけが、残った。


「でも」


「あの方は、止まらない」


それで、終わりだった。


広場から、霧が、消えた。

静寂が、落ちた。


レイオンが、剣を、下ろした。


「終わった」


ライディスは、首を振った。

前を見た。

王城が、見えた。


「違う」


「ここからだ」


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