最後の戦争(4)
異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第六章
全軍が、丘の上に、揃った。
これだけの軍勢が、一つの場所に集まったことは、この世界の歴史上、かつてなかったことだろう。
ヴァルガンの戦士たちが、武器を手に立っていた。
エルナトの魔導師たちが、杖を構えていた。
エークレイアのエルフたちが、弓を持っていた。
ドワーフたちが、斧を肩に乗せていた。
クライマの魔族兵たちが、整然と、列を組んでいた。
レグルスの残存兵たちが、傷だらけのまま、剣を握っていた。
人間、エルフ、ドワーフ、魔族。
全ての種族が、同じ方向を、向いていた。
眼下の廃墟。
その中央の、巨大な門。
そして、その前に立つ二人。
沈黙が、落ちていた。
ガルゴンが、片腕で戦斧を担いで、エルクの横に並んだ。
「どうする」
老王が、静かに聞いた。
「行く」
エルクが、答えた。
「一緒に来るか」
「当たり前だ」
ガルゴンは、低く笑った。
「戦士は、仲間と一緒に戦う。それだけだ」
レイオンが、ガルゴンの反対側に、並んだ。
「父上、また一緒に戦えますね」
「やかましい。前を見ろ」
ガルゴンが言った。だが、その声には、珍しく、柔らかいものがあった。
アルテフェインが、エルクへ向かって、小さく、頷いた。
バルゼディスが、地図を巻き上げて、腰へ挿した。
グローワは、大樹へ繋がる魔法陣から手を離し、初めて、前へ出た。
ノクトとルシラが、並んで立った。
ライディスが、傷ついた体で、剣を握り直した。
全員が、揃っていた。
「行くぞ」
エルクが言った。
全軍が、動き始めた。
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廃墟へ、降りていく道中、世界は、さらに崩れていた。
空から亀裂が広がり、地面に落ちてくる。
道が、瞬時に消える。
時間の乱れで、歩いているはずなのに、別の場所に出る。
しかし、エルクの《残響》が、全軍を、導いていた。
「右」
「止まれ、三秒待て」
「今!」
指示が、絶え間なく、飛んだ。
誰も、迷わなかった。
誰も、止まらなかった。
少しずつ、廃墟の中央へ、近づいていった。
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門の前に、辿り着いた時、勇者Aが、振り返った。
静かだった。
怒りもなく、動揺もなく、驚きもなく、ただ、静かに、全軍を見た。
その表情には、エルクには、わずかに、何かが見えた。
白い空間で話した時とは、違う何かが。
「来たか」
勇者Aの声は、これまでのどの時よりも、穏やかだった。
剣を、ゆっくりと、抜いた。
「歓迎しよう」
その言葉と同時に、門が、さらに大きく、開き始めた。
黒い光が、爆発するように、広がった。
世界中の空が、さらに割れた。
大地が、波打った。
門から、異界獣が、溢れ出してきた。
これまでとは、桁が違った。
数百でも、数千でもなかった。
見渡す限り、どこからでも、現れ続けた。
「最後の戦争を」
勇者Aの声が、世界に、響いた。
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戦いが、始まった。
「全軍!」
レイオンが、叫んだ。
「前へ!」
ヴァルガン軍の重装兵が、最前線に出た。
盾を構え、槍を突き出し、押し寄せる異界獣の波を、受け止めた。
「魔導砲、射撃開始!」
バルゼディスの声に、エルナト魔導師団が、一斉に砲撃を始めた。
空を埋める飛行型の異界獣へ向けて、光の柱が、次々と、打ち上がった。
「弓隊、前へ!」
エルフたちの矢が、雨のように、降り注いだ。
「ドワーフ軍、突撃!」
鋼の斧が、異界獣の甲殻を、叩き割った。
「第四軍、押し込め!」
ノクトが前線を走りながら、剣を振るった。
その周囲の異界獣が、次々と、倒れていく。
「第二軍、結界展開!」
ルシラが、複数の魔法陣を同時に展開させ、各部隊を守る結界を、張り巡らせた。
「レグルス残存兵、右翼を守れ!」
ライディスが、部隊を率いて、崩れかけた右翼へ走った。
戦場全体が、轟音に包まれた。
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エルクたち四人は、中央を進んでいた。
目的は、一つ。
勇者Aへ、辿り着くこと。
異界獣が、四方から来た。
リアが、前を切り開いた。
シュウが、側面を守った。
ミレナンが、後方からの支援を続けた。
エルクが、《残響》で、全体を読み、指示を出した。
道が、開いていった。
「もう少しだ」
エルクが言った。
門が、近かった。
勇者Aが、近かった。
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戦場の中央で、エルクは、一度、立ち止まった。
双眼鏡を、構えなかった。
《残響》だけを、深く、使った。
世界の声を、聞いた。
兵士たちの声。
異界獣の声。
門の声。
大樹の声。
世界樹の根の声。
地面の声。
空の声。
全部が、一つになって、流れ込んできた。
その中に、一つの、確かな声があった。
勇者Aの声ではなかった。
もっと、古い、深い声だった。
世界そのものの声だった。
エルクは、それを、受け取った。
理解した。
「終わらせる方法が、見えた」
呟いた。
リアが、隣に立った。
「なんと言った」
「終わらせる方法が、わかった」
「どうやって」
「リアが必要だ。お前がいなければ、できない」
リアは、すぐに、頷いた。
「わかった。任せろ」
その一言だけで、十分だった。
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勇者Aが、エルクたちを、見ていた。
連合軍全体が戦う中で、四人だけが、まっすぐに、こちらへ向かってきていた。
ガルゴンが、右から守っていた。
ノクトが、左を守っていた。
アルテフェインとグローワが、後方から魔力の盾を張っていた。
四人への道が、確実に、開かれていた。
「……来るか」
勇者Aは、剣を握り直した。
その表情は、読めなかった。
白い空間で話した時の顔とは、また違う顔だった。
エルクが、勇者Aを見た。
「止める」
エルクは、静かに、言った。
「世界融合を。お前を。全部」
風が、吹いた。
廃墟の中に、風が吹いた。
大樹の葉が、はるか遠くから、漂ってきた。
緑のままの、一枚の葉が、エルクの手の上に、止まった。
枯れていなかった。
世界は、まだ、生きていた。
「行こう」
エルクは、前へ、踏み出した。
世界を挙げての最終決戦が、幕を開けていた。




