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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第六章 終焉の彼方

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最後の戦争(2)

異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~ 第六章

エークレイアの守護隊は、グローワを先頭に、南の森を抜けていた。


エルフの精霊魔法使いたちが、並列を維持しながら進む。

ドワーフの重装戦士たちが、その外縁を守っていた。


問題は、森そのものだった。


世界の歪みが、森にも、及んでいた。

木々が、枯れていた。


枯れるだけではなく、根から異界の魔力を吸い上げ、巨大な植物型の異界獣へと変貌していた。


根が、地を這い、兵士たちを、絡め取ろうとしていた。

枝が、刃のように、鋭く伸び、斬りかかってきた。


「森が……来る」


ドワーフの戦士が、仲間へ叫んだ。


「斧で、切り開け!」


ドワーフたちが、巨大な斧を、振るいはじめた。

一振りで、太い幹を、断ち割る。

次の瞬間、別の木が、枝を伸ばして、その戦士の足首を、掴んだ。


「離せ!」


斧が、根を斬った。

しかし、一本切れても、三本が伸びてくる。


「埒が明かない!」


エルフの精霊使いが、精霊に語りかけた。

しかし、精霊も、異界の魔力に、汚染されていた。

通常の精霊魔法が、効かなかった。


「グローワ様!」


後方から、声が飛んだ。


グローワは、すでに、一人で、世界樹の根元へ向かっていた。

彼女が両手を根の表面に当てると、地面全体が、わずかに、震えた。


「大樹の根に、繋がった根は、大樹の命令で動く」


グローワが、大樹へ、語りかけるように、低く、言った。


「もう少しだけ、力を貸してくれ」


世界樹が、応えた。


地面の下から、大樹の根が、広がり始めた。

植物型の異界獣の根と、世界樹の根が、ぶつかった。


激しい争いが、地下で、起きた。


やがて、植物型の異界獣たちが、後退し始めた。

道が、開いた。


さらに、前方の谷に、橋がなかった。

かつてあった橋は、崩落していた。


世界樹の根が、谷へ向かって、伸びていった。

対岸へ、届いた。


自然の橋が、できた。


エルフの守護隊が、その橋を渡り始めた。

その後ろから、ヴァルガン軍の一部も、続いていた。


グローワは、それを見ていなかった。


ただ、世界樹へ、魔力を、送り続けていた。



クライマ軍は、東の荒野を、進んでいた。


ノクト率いる第四軍が先頭を切り、ルシラ率いる第二軍が後方を守りながら、前進を続けていた。


荒野は、これまで誰も踏み入れなかった不毛の地だった。しかし今、それは世界崩壊の最前線だった。

空から異界獣が降り続け、地面からは黒い霧が噴き出し、至るところで空間の断裂が起きていた。


「前方、断裂!」


第四軍の斥候が叫んだ。


前を見ると、地面に、巨大な裂け目があった。

幅は、三十メートルほど。

底は、見えなかった。


その裂け目から、異界獣が、次々と、這い出てきた。


「突破する」


ノクトが、静かに言った。


「将軍、この幅では——」


「突破する」


ノクトは、繰り返した。

そして、走り出した。


裂け目の縁に、異界獣が、列をなしていた。

ノクトの剣が、一体目を、両断した。


次の一体を、斬る。

その体を足場に、さらに前へ。

また次の一体を、斬る。

縦横に、剣が、走った。


一人で、道を、作っていた。


「将軍に続け!」


第四軍が、一斉に動いた。


ノクトが作った道の上を、兵士たちが走った。

倒れた異界獣の上を踏み越え、次々と前へ進んでいく。


空間の断裂を、力技で、突破していった。


後方では、ルシラが、巨大な魔法陣を、展開していた。


「治療班、前へ! 傷ついた者を下がらせるな!」


ルシラの指示で、第二軍の魔導士たちが、動いた。


崩壊した橋の残骸を、魔力で繋ぎ合わせ、渡れるように作り直した。

崩れかけた建物を、結界で支え、その下に閉じ込められた者を救い出した。


民間人の避難民が、まだ、この地域にいた。

戦場のど真ん中に、逃げ遅れた者たちが、残っていた。


ルシラは、その者たちを、部隊の後方へ誘導した。


「急ぎなさい! こっちよ!」


老人を、兵士に担がせた。

子どもを、走らせた。

負傷者を、魔力で、浮かせて運んだ。


「ルシラ様、我々は、魔族でなくても——」


「関係ない。生きてる者は全員救う。それだけよ」


それだけを、言って、次の者へ向かった。


魔族が、人間を、救っていた。

ノクトは、その光景を、ただ、見ていた。


「……正しい判断だ」


低く、呟いた。



ライディスは、小さな部隊を率いて、別の道を進んでいた。


レグルスの残存兵が、三十名ほど。

全員、王の命令に従わず、ライディスとともに残った者たちだった。


「軍務卿!」


先頭から、声が上がった。

前方に、人の集団が、見えた。

レグルスの制服を着た兵士たちだった。

かつてのライディスの部下たちだった。


「軍務卿ライディス!」


その中の一人が、叫んだ。


「あなたは、王を裏切った反逆者だ!」


剣が、抜かれた。


ライディスは、その顔を、知っていた。

五年前から仕えてきた、若い兵士だった。

真面目で、誠実で、命令に忠実な者だった。


それが、王への忠誠を信じて、ここに立っていた。


「お前は——」


ライディスが、声を出した。


「お前は、正しいことをしようとしている。それは、わかっている」


「なら、剣を降ろせ!」


「降ろせない」


ライディスは、剣を抜いた。


「お前たちの王は、民を捨てた。世界融合に賛同した。それは、事実だ。だが、それを証明できる者が、今、ここにいない。だから、言葉では伝わらない」


「言い訳だ!」


「そうかもしれない」


ライディスは、一歩、前へ出た。


「それでも、私は、国を守る。王のためではない。国を構成する人間のために。民のために。それが、軍務卿の仕事だ」


「だから——刃を向けるのか。俺たちへ」


その声に、苦しさがあった。

ライディスも、苦しかった。

涙を、飲み込んだ。


「ああ。すまない」


剣が、ぶつかった。

激しかった。

悲しかった。


ライディスの部隊と、かつての部下たちの部隊が、ぶつかった。


ライディスは、致命傷を与えなかった。

武装解除するだけにとどめた。


倒れた者に、とどめを刺さなかった。

相手の側も、全力ではなかった。

どちらも、本当の意味では、戦いたくなかった。


決着は、早かった。


ライディスの部隊が、全員を、武装解除した。

ライディスは、倒れた兵士の一人の前に、膝をついた。


「生きていろ。これが終わったら、話を聞かせてくれ」


兵士は、何も言わなかった。

ただ、目に、涙があった。


ライディスは、立ち上がった。


「進む」


それだけを言って、歩き始めた。



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