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異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~  作者: 小城乃ひかり
第一章 灰と火の序章

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旅人だけを喰う森 (3)

ちょっぴりダークな異世界転生ファンタジー。


勇者は一人ではない。

番号を与えられ、量産され、戦場へ送られる世界。


“勇者A”と呼ばれた少年は、

モブのまま消えていくのか。

それとも・・・英雄になるのか。


『異世界ゆうしゃA ~亡国の残響~』

砕けた岩片が、霧の森へ雨のように降り注いだ。


異邦喰いの巨大な腕が、ゆっくりと崩れていく。


黒い亀裂の奥で赤黒く脈打っていた光も、次第に弱まり――やがて完全に消えた。


森に風が戻る。


張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。


「……倒した?」


シュウが息を切らしながら呟く。

リアは大剣を構えたまま、崩れた岩の残骸を見つめていた。


「まだ油断しないで」


「いやもう十分戦ったって……」


シュウがその場へ座り込む。

エルクも肩で息をしていた。

腕が重い。

全身が痛い。

戦い慣れてきたとはいえ、命のやり取りは別だ。


異邦喰いの最後の一撃が、あと少しズレていたら死んでいた。

そんな場面が何度もあった。

リアはゆっくり異邦喰いへ近づく。

崩れた岩石を、大剣の先で軽く触れた。


すると。


カラン、と小さな音がした。


「?」


リアが屈む。


岩の内部。


そこに埋まっていたのは、黒い金属片だった。


円形。


薄い。


表面には見慣れない紋様が刻まれている。


「これ……」


エルクも近づく。


紋様を見た瞬間、《残響》が微かに反応した。


誰かの声。


――識別完了。――


――異邦人反応。――


頭痛。

エルクは反射的に額を押さえる。


「またそれか?」


シュウが覗き込む。


「……ああ」


エルクは黒い金属片を見つめる。

妙だった。

魔物の核には見えない。

むしろ。

道具。

兵器。

そんな印象が近い。


「魔導具?」


シュウが訊く。

リアは少しだけ考え込み、首を振った。


「見たことない」


その返答は本当らしかった。

リアですら知らない。


エルクは崩れた異邦喰いを見る。

戦闘中から、ずっと引っかかっていた。


なぜリアだけ狙われなかった?

なぜ自分とシュウだけを執拗に狙った?

そして。


《残響》で聞こえた言葉。


――異邦人反応。――


異邦人。

異邦喰い。

そこまで考えて、エルクの胸に嫌な予感が浮かぶ。


「……まさか」


「ん?」


シュウが顔を上げる。

エルクは少し迷った。


だが、今は確証がない。


「いや……なんでもない」


リアがこちらを見る。

鋭い目。

何かを察したようだった。

けれど何も聞かなかった。

森を抜ける頃には、空が赤く染まり始めていた。

夕暮れ。


三人は疲れ切った身体を引きずるように、温泉街へ戻る。

街へ入った。

空気が変わった。


「あっ……!」


見張り台にいた男が声を上げる。


「戻ってきたぞ!!」


次々と人が顔を出す。

宿屋。

露店。

窓。

街人たちの表情が、一気に明るくなった。


「本当に倒したのか!?」


「嘘だろ……!」


「森の音が止まった……」


店主が走ってくる。


《雨燕亭》の主人だった。


「兄ちゃんたち!!」


彼は息を切らしながら三人の前へ立つ。

そして深々と頭を下げた。


「ありがとう……!」


その声は震えていた。


「これで、また旅人が来る……」


「街が死なずに済む……!」


周囲の人々も口々に礼を言う。

拍手まで起きていた。

シュウが照れ臭そうに頭を掻く。


「いやぁ、まぁ俺たち最強なんで?」


「お前途中で吹っ飛ばされてただろ」


「細かいこと言うなよ!」


リアは少し困ったように視線を逸らしていた。

感謝され慣れていない。

そんな感じだった。

年配の女性が、リアへ小さな花飾りを渡す。


「お嬢ちゃん、綺麗な剣だったよ」


リアは一瞬だけ目を丸くした。

そして小さく頭を下げる。


「……ありがとう」


ほんの少しだけ。

口元が緩んでいた。

エルクはそれを見て、少し驚く。

リアは笑うと年相応だった。

宿へ戻る。

熱い湯気。

木の香り。

暖炉の火。


ようやく“生き延びた”実感が湧いてきた。


「風呂!!」


シュウが真っ先に走っていく。


「待て転ぶぞ」


案の定、滑った。

盛大な音が響く。

リアが小さく吹き出す。

エルクは目を瞬かせた。


「……今、笑った?」


「笑ってない」


「いや絶対笑った」


「笑ってない」


少しだけ空気が柔らかくなる。

食堂では豪華な夕食が用意されていた。

肉料理。

焼き魚。

湯気の立つスープ。

そして酒。


「うわぁ……」


シュウが感動している。


「異世界来て一番うまそう」


エルクも席へ座る。

空腹だった。

戦った後だから余計に。

リアは静かにスープを口へ運んでいた。

その横顔を見ながら、シュウが笑う。


「しかしリア、マジで強いよな」


「普通」


「だからその基準がおかしいんだって」


「エルクも十分変」


「俺!?」


突然巻き込まれた。

シュウがニヤニヤする。


「確かに。最近なんか戦況読むの上手くなってるよな」


エルクは少し考える。


《残響》。


あれは少しずつ変化していた。

単なる“死者の記憶”ではない。

もっと深い。

もっと危険な何か。

特に今回。

異邦喰いと戦った時。

妙にはっきり聞こえた。


――異邦人反応。――


異邦人。


つまり。


異世界人。


エルクはそこで、ひとつの仮説へ辿り着く。

もし。

異邦喰いが狙っていたのは、“旅人”ではなく。

自分たちみたいな“異世界から来た人間”だとしたら?

だから街人は襲われない。

だからリアも狙われない。

リアはこの世界の住人だから。

そこまで考えたところで、エルクは思考を止めた。

あり得ない。

そんな都合よく異世界人だけ判別できるはずがない。

……本当に?

脳裏へ、黒い金属片が浮かぶ。

あれは魔物じゃない。

兵器だった。

そんな気がしてならない。


「エルク?」


リアの声で我に返る。


「……どうしたの」


「いや」


エルクは苦笑した。


「ちょっと考え事」


シュウが肉を頬張りながら言う。


「難しい顔すんなって」


「せっかく生き残ったんだからさ」


「今くらい楽しもうぜ」


その言葉は、妙に胸へ響いた。

確かに。

今はまだ、答えなんて出ない。

エルクは小さく息を吐く。


「……そうだな」


食事を終えた後。

三人は今後の話をすることになった。


「で」


シュウが机へ肘をつく。


「エルナトってどっち?」


沈黙。


誰も知らなかった。


「……聞くか」


エルクたちは宿屋の主人へ尋ねる。

だが店主も曖昧だった。


「魔導国家エルナトかぁ……」


「遠いってことしか知らねぇな」


「行ったことある人なら……長老か」


案内されたのは、街外れの古い家だった。

中には白髭の老人が座っている。

街の長老らしい。

長老はリアを見ると、一瞬だけ目を細めた。

だが何も言わない。


「エルナトへ行きたい?」


「はい」


エルクが答える。

長老は静かに頷いた。


「若い頃、一度だけ行ったことがある」


「魔導の都だ」


「空を魔導灯が照らし、鉄の馬が走る」


シュウが目を輝かせる。


「なにそれ超文明じゃん」


「ただし遠い」


長老はゆっくり指を立てた。


「山を五つ越える」


沈黙。


「……五つ?」


シュウが固まる。


「うむ」


「さらに北ヴァルガン領を避けるなら、森を迂回せねばならん」


「歩きなら数ヶ月は見た方がいい」


シュウが天を仰ぐ。


「終わった……」


エルクも苦笑した。

確かに遠い。

だが。

それでも行くしかない。

リアは静かに窓の外を見る。

夜空。

山々の向こう。

その先に、エルナトがある。

エルクも同じ方向を見る。

旅はまだ始まったばかりだった。


「……遠いな」



ーー現在分かっている情報ーー

今の目的地:機巧都市国家エルナト

魔導工学国家。技術力が高い。

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