第35話:形勢逆転! 息を吹き返した冒険者たちの反撃
♪——『暗闇を切り裂いて 進め、進め』
♪——『あなたの剣が、明日を切り開くから!』
私の喉から放たれる歌声は、もう微塵も震えていなかった。
戦場の焦げ臭い風を胸いっぱいに吸い込み、銀糸の弦を力強くかき鳴らす。
アップテンポなリズムに合わせて、私の足元から波紋のように広がる黄金と銀色の光の粒子が、西の門の広場全体を眩く照らし出していた。
「オラァァァァッ!! そこを退きやがれ、化け物どもォッ!!」
私の歌声に応えるように、最前線でガルドさんの野太い咆哮が轟いた。
凄まじい光景だった。
数分前まで、両腕を砕かれ、腹から血を流して死にかけていた男が。
今は背中から黄金のオーラを噴き出しながら、身の丈ほどもある巨大な両手剣を『片手』で、まるで小枝でも振るうかのようにブンブンと振り回しているのだ。
ブォォォォンッ!! という恐ろしい風切り音。
ガルドさんが大剣を横に薙ぎ払うだけで、重装備のオークが三体まとめて、紙くずのように宙を舞って吹き飛んでいく。
「ははっ、すげえ! 体が羽みたいに軽い! 魔力も底なしに湧いてきやがる!」
傷が完治したローブのおじさんも、杖を高く掲げて狂喜の声を上げた。
普段なら数発撃てば魔力切れで倒れてしまうような上級の炎魔法を、彼は息一つ乱さずに連射している。
ドゴォォォンッ! と、戦場のあちこちで巨大な火柱が上がり、魔物の群れを一気に焼き払っていく。
片腕が不自然に曲がっていた眼帯のおじさんも、完治した両腕で槍を構え、目にも止まらぬ連続突きで魔狼の群れを次々と串刺しにしていた。
「お嬢ちゃんの歌が鳴ってる間は、俺たちは無敵だ! 一匹残らず押し返せェッ!!」
「「「おおおおおォォォォォッ!!!」」」
絶望の淵から蘇った数人の冒険者たちが、数万という魔物の大群に向かって、逆に突撃を仕掛けていく。
それは、本来なら無謀な自殺行為にしか見えない光景だ。
けれど、今の彼らは違った。
オークの棍棒がガルドさんの肩を直撃しても、黄金のオーラがその衝撃を完全に吸収し、微かな擦り傷すら一瞬で塞いでしまう。
『超回復』と『全能力強化』。
私の強い祈りの歌声が続く限り、彼らの体力と魔力は無限に供給され続け、絶対に倒れない不死身の戦士と化しているのだ。
♪——『傷つくことを恐れないで 私がここで、見守っているから』
私は、さらに声のボリュームを上げた。
歌うことが、こんなに楽しくて、こんなに心が震えるなんて知らなかった。
元の世界では、私の歌は誰にも届かず、ただ自分を慰めるためだけのものだった。
クラスメイトには「気持ち悪い」と笑われ、透明な壁に閉じ込められていた。
でも今は違う。
私の声が、大好きな人たちの命を繋ぎ、彼らの力となっている。
私の紡ぐメロディに合わせて、ガルドさんたちがステップを踏むように魔物を切り伏せていく。
まるで、戦場という巨大なステージで、私が彼らを指揮しているようだった。
「グギャァァァッ……!?」
「ガ、ガァァッ……」
圧倒的な数の暴力を誇っていたスタンピードの群れに、明確な『恐怖』と『動揺』が広がり始めていた。
いくら殴っても倒れない人間。逆に、触れただけで自分たちの仲間を粉砕していく異常な膂力。
さらに、遠くから飛んでくるはずの味方の援護攻撃(※黒猫が裏で全て処理済み)は一向に降ってこない。
知能の低い魔物であっても、目の前の人間たちが「絶対に勝てない理不尽な存在」に変わったことだけは本能で理解できたのだろう。
「どうした化け物ども! さっきまでの勢いはどうしたァッ!」
ガルドさんが、逃げ腰になったロック・トロールの懐に潜り込み、下から上へと大剣をカチ上げる。
ズバァァァンッ!!
岩のように硬いトロールの巨体が、いとも容易く真っ二つに両断され、地響きを立てて崩れ落ちた。
それを決定的な引き金として、魔物の大群が、ついに背を向けて西の荒野へと敗走を始めた。
「押し返したぞ……! 門の外へ追い出せェッ!!」
歓喜の怒号が上がり、冒険者たちが敗走する魔物の背中を追ってさらに前線を押し上げていく。
崩壊しかけていた西の門の防衛線が、たった数人の冒険者と、一人の少女の歌声によって、完全に立て直されたのだ。
(……やった。みんな、無事だ!)
私は、ギターを弾きながら、嬉しさで視界が滲むのを感じた。
足元で丸くなっている黒猫も、『ふん、当然の結果だ』と言わんばかりに誇らしげに喉を鳴らしている。
このまま魔物が撤退してくれれば、街は救われる。
みんなで一緒に、またあの温かい宿屋へ帰ることができる。
そう確信して、勝利のラストコードをかき鳴らそうとした、その時だった。
ズズンッ……!!
西の荒野の遥か奥から。
今までとは比べ物にならない、空気が凍りつくような重く、悍ましいプレッシャーが戦場を撫でた。
「……っ!?」
最前線で魔物を追っていたガルドさんが、ピタリと足を止め、顔を強張らせて荒野の奥を睨みつけた。
敗走していた魔物たちも、そのプレッシャーを感じ取ったのか、急に地面に這いつくばってガタガタと震え始めた。
♪——『……え?』
私の歌声が、一瞬だけ途切れる。
ギターの銀色の光が微かに揺らいだ。
ドスゥン、ドスゥン。
一定のリズムで近づいてくる、巨大な足音。
赤と青の二つの月が照らし出す荒野の地平線に、城壁の塔よりも遥かに巨大な、漆黒のシルエットがゆっくりと姿を現した。
「……おいおい、冗談だろ……」
ガルドさんが、絶望の混じった声で呻く。
スタンピードを束ねていた元凶。
数万の魔物を恐怖で支配し、この街へと進軍させていた『ボス』が、ついにその姿を現したのだった。
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次回お楽しみに。




