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最強黒猫の絶対防御と、無自覚バフの歌姫 〜心を閉ざした少女は、極上の音色で異世界を無双(癒や)します〜  作者: ぱすた屋さん


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第32話:初めての歌声。戦場に響く、不器用で真っ直ぐな旋律

わたしの歌を聴けーっ!!

 


「ああああぁぁぁぁぁぁっ……!!」


 戦場の淀んだ空気を震わせ、私の唇から溢れ出した声。

 それは数年ぶりに使われた喉が引き攣るような、掠れて、ひどく不器用な叫びだった。


 けれど、自分の耳に届いたその「音」は、私自身の体温を伴って、確かに世界へと放たれていた。

 透明な壁は、もうない。

 私の声は、私だけのものだ。


 ジャーン、ジャーン、と右手のストロークに力を込める。

 不思議なことに、震えていた声は、ギターの木のボディが放つ深い共鳴に導かれるように、少しずつ、少しずつ輪郭を取り戻していった。


 私は、息を吸い込んだ。

 頭の中にずっとあった、けれど誰にも聞かせることができなかったメロディ。

 この異世界に来て、みんなの優しさに触れるたびに、心の中で密かに書き溜めていた『祈り』の言葉。


 それを今、この銀糸の弦の響きに乗せて。


 ♪——『冷たい闇の底で ずっとうつむいていた私を』


 最初に紡ぎ出した言葉は、震えるようなウィスパーボイスだった。

 それでも、黒猫の絶対防御の結界の中で反響したその声は、魔法のように澄み切って、戦場の喧騒を切り裂いて広がっていく。


 血だまりの中に倒れ伏していたガルドさんが、信じられないものを見るように、ゆっくりと目を見開いた。


 ♪——『言葉の壁も越えて 不器用なその手で』

 ♪——『明るい光の中へ 引っ張り出してくれたね』


 喉の奥が、熱い。

 でも、それは過去のトラウマによる苦しい締め付けではなかった。

 感情が、感謝が、言葉となって溢れ出そうとする、熱くて優しい衝動だ。


 私の歌声は、一節を歌い終えるごとに、透き通るような力強さを増していった。

 私自身の声帯が、かつて歌うことが大好きだった頃の記憶を完全に呼び覚ましているのだ。


 すると、私の胸に抱えられた古いギターに異変が起きた。


 ポロロン……ッ!


 お爺さんが張り替えてくれた『銀糸蜘蛛』の弦が、私の歌声の周波数と完全に同調し、眩いばかりの銀色の光を放ち始めたのだ。

 指先から弾き出される音符が、目に見える光の粒子となって、結界の内側をキラキラと舞い踊る。


『……ほう。やはりな』


 足元で瓦礫の上に座る黒猫が、目を細めて喉をゴロゴロと鳴らした。


『銀糸蜘蛛の精神安定の魔力と、お前のその純粋な祈りの声。二つが共鳴し、極上の波動を生み出している。……さあ、その光を外へ届けろ』


 黒猫の言う通りだった。

 光の粒子は、黒猫が張った漆黒のドーム型結界をすり抜け、外の世界――絶望に沈む冒険者たちの元へと、まるで蛍の群れのように降り注ぎ始めたのだ。


 私は、もう迷わなかった。

 彼らの心に、そして命に届くように、最も強いコードをかき鳴らし、サビのメロディへと声を張り上げた。


 ♪——『だから今度は私が この音色に乗せて』

 ♪——『震えるあなたの背中を 温めたい』


 元の世界の言葉だから、意味は通じていないかもしれない。

 でも、そんなことは関係なかった。

 私の「助けたい」「生きてほしい」という強烈な感情そのものが、光を帯びた歌声となって、彼らの全身を包み込んでいく。


「あ……、あぁ……」

「なんて、綺麗な……声だ……」


 致命傷を負い、死の淵を彷徨っていた冒険者たちの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。

 ガルドさんも、折れた腕を押さえたまま、私の姿を――瓦礫の上で光に包まれながら歌う小さな少女の姿を、呆然と見上げている。


 ♪——『もう逃げないよ 私がここにいるから』

 ♪——『何度でも、何度でも あなたのために歌うよ』


 ロック・トロールや魔物の群れは、突如として戦場に響き渡った神聖な歌声と光の粒子に、ひどく混乱しているようだった。

 知能の低い彼らにとって、悪意を一切含まない純粋な魔力の塊は、未知の脅威でしかない。

 結界を叩こうとしていたオークたちが、眩しさに目を覆って後ずさる。


 私は、最後に一つだけ、この世界で覚えた大切な言葉を、メロディの終わりに強く、優しく乗せた。


 ♪——『シェイラ(ありがとう)……どうか、生きて』


 ジャンッ……!!


 ギターの最後の和音と、私の声の残響が、西の門の広場に深く、長く響き渡る。

 息を切らし、肩で呼吸をしながら、私は祈るような気持ちでガルドさんたちを見つめた。


 私の声は、届いただろうか。

 この歌は、彼らを死の淵から引き戻すことができただろうか。


 すると。

 光の粒子をその身に浴びたガルドさんの体が、不自然なほど強く、金色のオーラのようなものに包まれ始めた。


「……な、なんだ、これは……?」


 ガルドさんが、自分の左腕を見て驚愕の声を上げる。

 ありえない方向に折れ曲がっていたはずの太い腕が、バキバキと音を立てて元の位置に戻り、引き裂かれていた腹部の傷口が、まるで時間を巻き戻すかのように瞬く間に塞がっていく。


 奇跡だった。

 私の歌声とギターの共鳴は、ただ心を癒やすだけにとどまらず、対象の命を繋ぎ止める『極上の治癒魔法』となって、戦場に舞い降りたのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【☆☆☆☆☆】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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