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そうして出来上がる蝟集、色とりどりの化け物の群れは、今やカンタの目にもはっきりと見えていた。中には場違いと思われる化け物(河童)もいたが、カンタと目が合うとすぐさま貝の中に隠れて女の子にいたずらをしようと待ち構えた。するとどこらともなく神職の声が聞こえてきて姫神の登場を告げた。鬼神の瞳に引き寄せられて、遠近の法規が乱れて、そのまま河童は貝ごとどこかにいってしまった。そんな一部始終を呆気にとられて見ていたカンタであったが、すぐ隣に腐った顔の幽霊がいることに気がついてヒエッ! と情けない声を上げた。化け物たちは口々に何かを叫んでいた。しかし化け物たちの声は人間の声とは程遠く、高く奇妙な響きをしており、何を批判されているのかカンタにはさっぱり分からなかったが、その権幕からどうやら怒っているようだった。スリングショットに抱きついたままブルブル震えていると、モーセよろしく化け物の群れが綺麗に左右に割れた。そしてその間を美しい顔を持つ虚偽瞞着の忌まわしい権化がゆっくりとやってきた。彼はカンタの前までくると咳払いをした。それを合図に化け物たちは一斉に黙った。彼はぐるりと周囲を眺めるとよく通る声で告げた。これより裁判を行う、被告人カンタは婦女暴行および猥褻物陳列罪罪、覗きに痴漢に下着泥etcetc……よって被告人カンタを死刑にする。異議のある者は申し出よ! 化け物たちは一斉に異議なし! と今度はカンタにも分かる声で叫んだ。何が何だか分からず混乱するカンタだったが、化け物たちに交じって腕を組んでいるウェルギリウスに気がついた。カンタがすがる気持ちで口を開こうとした瞬間、ウェルギリウスは呆れたように何度か首を横に振ると、そのまま化け物たちの群れの中に消えてしまった。ラテン語の大詩人という道標べを失ったカンタはバカ騒ぎする化け物たちを前に途方に暮れた。せめて状況を整理しようとしてみるのだが、目の前で繰り広げられるインパクトがあまりにも大きすぎて考えれば考えるほど頭はこんがらがるだけで、ただただスリングショットにしがみつく腕に力が入るばかりだった。唯一カンタに理解できるのは、自分がよんどころない状態に置かれているということだけだった。いったい何でこんな事になってしまったのだろう。罪人罪人と化け物たちは自分を野次ってくるが、若い燕に妻を寝取られ、雪の降る東京の路上に一人追い出されただけの中年男性にいったい何の罪があるのだろう。




