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いざなうような彼女の笑い声は、カンタの脳裏に直接訴えかけてきているかのようだった。鬼さんこちら手のなるほうへ……その甘美な響きはカンタを魅了し、ビルを擦り電線を揺らす雪風の不快な音を遠くに押しやった。人影はその中へ身を隠し、血眼でカンタの後を追った。渡り廊下の上は相変わらずの騒ぎようで、はしゃぎながら増えたりくっついたりを繰り返している。しかしそんな頭上の光景に気づけるほどのキャパシティはすで持ち合わせていなく、魂の抜けた操り人形となったカンタは一心不乱にスリングショットの女のもとへむかっていく。その、永遠かとも思われる狭い路地裏を、カンタの呼吸に合わせ蠕動する隘路を、如火之燎干原、合わせ鏡の迷宮を、迷宮の将軍となったカンタはひたすら突き進む。シニフィエはとうに燃え尽き、白い灰となって雪の中に溶けていた。虚ろな器、鬼さんこちら手のなるほうへ……フィニシエ無きなきシニフィアンは確かなる概念を求め、たわわに実った二つの果実に食い込むスリングショットの水着めがけて、無限に夢幻に彷徨っていく。そうだ、誰がこの姿なき火を癒してくれるだろうか。黄昏に、冷え切った玄関にたたずみ、なすすべもない光景に震えているだけの姿なき火。帰り道はとうに失われ、燎原の火はただ広がるのみ。どこまでも続く逆説的な甘美、無軌道な火を、僕らはどうして癒せよう。明滅する光景、一瞬カンタの脳裏に妻の顔がフラッシュバックしたが、それはもう何の意味も持っていなかった。カンタを惹きつけてやまなかった愛という名の魔法は、ベッドの上で儚く砕け散ったのだ。そしてとうとうカンタは手に入れることができるのだった。このガラクタのような水着を。急にカンタは激しい興奮に襲われた。下半身が熱く煮えたぎり、息子がパンツの中で膨らみスーツに締め付けられた。左曲がりのカンタにとって、現在右にある息子はなんとも収まりが悪かった。それがすごく気持ち悪く、水着に対する熱意の邪魔をした。クソッ、カンタは小さくつぶやくと左手で普段の持ち場に直そうとした。しかし近年まれにみる膨張率を誇る息子は簡単に言うことをきいてくれない。おいおい、きかんぼうはベッドの中だけにしてくれよとカンタは思ったが、いったい誰とベッドを共にすればいいのか分からず悲しい気持ちになった。出来ればこのスリングショットとベッドを共にしてみたいが、はたして彼女は自分の気持ちに応えてくれるだろうか。恋の駆け引きとは無縁の人生を送ってきたカンタには難しい問題だった。

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