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その刺激は心地よく、続けて二口、三口すすって、カンタはホッと溜息をついたかと思うと、急に空しい気持ちの襲われた。逆に言ってしまえばその程度だったからだ。あれだけ希求していた温かい飲み物は、期待していたほどカンタの心に感動をもたらさなかった。暖房の風が経済欄の端を叩いていた。ぱたぱたという音を立てていたかと思ったら、とうとうめくれてしまった。カンタはしばらくそんな新聞の様子を眺めていたが、これといった発見もなかった。カンタの読んでいた記事が途中で途切れただけで、別段困ったことでもなかった。三十代を回ったころから株に興味を持ち始めた同僚と違って、投資などにはまるで興味のないカンタにとって経済動向などどうでもよかったのだ。それでもと短い脚を組むと、新聞をめくって文字の羅列を眺めつづけてみた。その間にもカンタの脳裏には妻の姿があった。幸せな生活の断片が押し寄せてきたかと思ったら、今度は愛人との密会現場が妄想された。カンタは頭を振ると新聞を畳んで隣のテーブルへ戻した。これ以上読んでいてもためになるとは思えなかった。カンタは祈るような形で両手でコーヒーカップ持っていた。断片的なイメージが去来しては、湯気の中に溶けて消えていった。店主がテレビをつけた。碌な番組がやっていなかったのか、いくつか回しと思ったら諦めたように公共放送に番組を合わせた。どこかの山が映し出され、端のL字には気象情報が流れ続けていた。雪の積もった雄大な山脈を背景にみるそれは、なんだか悪趣味に思えた。一晩中降り続くらしいですね、と店主が言った。ひとり言なのか話しかけられたのかカンタには判断が難しく、ワンテンポ遅れてそうですねと相槌を打った。番組は切り替わりニュースがはじまった。駅前の様子が流れ始めた。もう深夜だというのにカンタ同様行き場のない人たちが手持ちぶたさで立っていた。無表情なアナウンサーが原稿を読み始めた。分かりきったことを繰り返す姿に、カンタの神経は逆撫でされた。コーヒーを飲み干すとお代わりを頼んだ。待っている間にスマホをとりだした。相変わらずシュウサクからの連絡はなかった。報連相すら出来ないなんて、社会人として失格だ。たとえ不景気面した上司と顔を合わせたくなくたって一声そうだと連絡すべきなのだ。大抵のトラブルは意思疎通の不手際によって起こるものだとカンタは三十五年の生涯から学んでいた。相談さえしてくれれば、こちらにだってやりようはあるのだ。憎らしいシュウサクの顔は妻の顔へと切り替わり、カンタの胸がキリリと痛んだ。

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