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Dvide et impera、もしくはDvide and rule、すなわち分断統治は支配の基本だ。問題はそのやり方であった。1984のような特殊な社会を作りだしての分断と、自然災害を人為的に操作することによる分断とでは、どちらが難しいのか、科学的知識どころか考察力の乏しいカンタには分からなかった。分らなかったが、確実に自分は分断の憂き目にあっていた。それだけはカンタにも分かった。そして自分をこんな目にあわせている元凶にすがらざるを得ない状況に、カンタは甚だ情けなくなった。カンタももう少し若くて、かすかだがそれなりに多少なりともごく少量の脂がのっていた頃は、自分の人生くらい自分の力で切り開いてみせると、そう意気込んだこともあった。だが今ではそんなかつての自分とも遠く隔てられ、鼻水を流し、歯をガタガタいせながら神保町の一角で震えている始末である。どうしてこうなった、と何度目だか分らない疑問を自分自身に投げかけ、あたりを見渡した。だがどこも店の灯は消え、街灯が、舞う雪を寒く照らしているだけだった。このままでは洒落にならんとカンタはふらつく足取りで路地裏に入った。居酒屋の一件くらい開いてないかと泣きべそをかきながら探しまわってみたが、灯の消えた赤提灯の前で途方に暮れるばかりであった。そうこうしていると、走馬灯がカンタの脳裏にちらつきだした。それは今では脱臭された記憶で、かろうじて幸せだったと思える程度に作り変えられたものだった。あの頃は……とカンタは思う。何もかもが無いなりに、幸せだったなと。次々と到来する記憶の波に、カンタは圧倒され、掴んでは手ごたえだけを残して逃れていく感情の総体は、カンタを暑い、暑い、夏のあの日にいざなった。夏の太陽が照り付ける昼さがり、カンタは実家で友だちが遊びに来るのを待っていた。汗をダラダラ垂らしながら、扇風機の生ぬるい風に吹かれていた。庭から声がした。カンタが出ていくと、友だちが自転車に乗って待っていた。二人はそのまま土手へ向かって漕ぎだした。目指すはその手前の蓮池、今では何でもないと思えるそんなところも、当時のカンタには未知の大地であった。葦に覆われたこの先が、どこにたどり着くのか見当もつかなかった。ちょっとした冒険だ。今から二人でそれを突き止めようというのだ。カンタは友だちと冗談を言い合いながら、目的地に向かってペダルをこいだ。その小さな足には、無限の可能性が詰まっていた。




