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この、純白な涙を流す、無垢で無辜な空の向こうにい居る誰かに向かって、カンタは哀願した。どうか私に、温かい屋根の下をお与え下さい。出来れば暖房は効いていてほしいし、温かい飲み物(望むは日本茶)なんかも添えてあればなお良し。それだけです。贅沢は言いません。カンタはそう思った。本心では自分をこんな目に合わせている元凶をこれでもかと罵倒して、思いつく限りの贅沢品を並べ立ててやりたかったのだが、寒さで舌は固く凍り付き、呂律も回らず、それも叶わなかった。世のなか、叶わないことだらけである。敵わないのなら闇討ちでもなんでもやりようがあるのだが、叶わないのならお手上げだった。妻にも敵わなければ愛人にも敵わず、シュウサクにすら敵わないからこのような状況になっているのだが、カンタの中で過去はクリエイトされ、奴らはこちらの慈悲で生かしおいてやっているのであった。自分がその気になればすぐにでも処分できる、そんな万能感が今のカンタには渦巻いていた。すごすごと尾っぽを巻いてマンションを逃げ出したことも、部下のちょっとした言葉に感情的になった失態も、この寒さと疲労と心労の中ではどこかにいっていた。ついでに先ほど受けた国家権力からの蛮行も、いち納税者として甚だ頭にくる所存だ。こんな日くらい留守番の一人も置いておくべきだのだ。近くで何かあった時にはどするつもりなのか。現に自分のような人間が発生しているのに、手を差し伸べるどころかその機会すらも放棄するとはなんたることか。交番から数百メートルの距離を隔てると文句が溢れ出るカンタであった。しかしその文句も、この寒さのせいで言葉には出来ない。奇妙な状況である。不満はあるのに言葉は奪い取られ形にすることができない。ふとカンタは思った、これは物理的なニュースピークではないかと。なにも七面倒臭い新語を創造せずとも、人間は物理的に追い詰めれば言葉を奪い取られるのだ。言葉が奪い取られれば必然的に他者とのコミュニケーション手段も奪い取られる。伝えたい事柄があっても、それを形にすることが出来ないからだ。なにも難しい話ではない。大きな地震を想像してみればいい。日本人なら大地震後に引き起こされる突然の停電を一度や二度は経験している筈である。あたりが真っ暗になり、通信手段が奪われ、誰ともつながることが出来ないのだ。それが今カンタのおかれた状況と似ていた。寒さと疲労と心労によって起こされた孤独、キーワードは分断だ。分断し、引き離し、人間の本質である群れという本能をスポイルさせるのだ。

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